不思議の国より不思議な国のアリス  

*1a     Row your boat

追記1

Row, row, row your boatというと、メロディーがすぐ浮かんできて、楽しい気分になる人がいるでしょう。子供の頃、輪唱した思い出のある人も多いようです。

  Row, row, row your boat
  Gently down the stream,
  Merrily, merrily, merrily, merrily,
  Life is but a dream.

最後の行が、Life is but a dream(人生はただ夢)となっていて、子供の唄にしては、ちょっと不思議ですね。ある人は「遊びをせんとや生まれけん」を思い出し、また、ある人は「不思議の国のアリス」の序詞の、黄金の午後の舟遊びに想いを馳せるかもしれません。
  私は人生の終盤を、この唄のように、ゆっくりとオールを漕ぎながら、川を下っていければ素晴らしいと思っております。
  日本ではこの唄はマザー・グース扱いされていますが、マザー・グースであるかどうかについては、異論のあるとろで、そのことは後で触れることにします。

初めに少しパロディをWEBから拾ってみましょう。引用先は最初に示してあります。スペースの関係で、上の歌詞は繰り返しませんが、最初に必ず歌ってから読んでください。

http://members.iinet.net.au/~oneilg/scouts/songs/rowrow.html

Row, Row, Row your boat,              漕げ、漕げ、漕げよ。
Gently down the stream            流れに沿って
Throw Akela overboard,             アカラを放り投げて
And listen to her scream. [SCREAM]     悲鳴を聞こう  [ きゃあ〜! ]

[いくつかのグループに分かれて歌う、Akelaは人名、その人のいるグループは全員飛び上がって奇声を発する。次々と名前を変えていく]

Row, Row, Row your boat,           漕げ、漕げ、漕げよ。
Underneath the stream            流れの下を
Ha ha tricked you,                は、は、騙したぞ
Mine's a submarine               私のは潜水艦
〔どんな遊びをするのか、想像できません〕

http://www.bbc.co.uk/cbeebies/tweenies/songtime/songs/r/rowrowrowyourboat.shtml

Dance, dance, dance your dolly    踊れ、踊れ、お前の人形
Gently down the stream        流れに沿って
Merrily, merrily, merrily, merrily    メリリ、メリリ、メリリ、メリリ
Life is but a dream            この世は夢よ

Gallop, gallopy, gallop your horse   駆けろよ、駆けろ、お前のお馬
Down beside the stream        流れの岸を
Merrily, merrily, merrily, merrily    メリリ、メリリ、メリリ、メリリ
Life is but a dream            この世は夢よ

Roll, roll, roll your hoop        回せ、回せ、お前の輪ッパ
Wobbly by the stream         ぐるぐる 岸で
Merrily, merrily, merrily, merrily   メリリ、メリリ、メリリ、メリリ
Life is but a dream           この世は夢よ

Bounce, bounce, bounce your ball  つけ、つけ、お前のホール
Down beside the stream        流れの脇で
Merrily, merrily, merrily, merrily   メリリ、メリリ、メリリ、メリリ
Life is but a dream.           この世は夢よ

http://www.bdp.it/galilei/livelykids/rhymes/row.htm

Lively Kids Project

Rock, rock, rock your boat     ゆら、ゆら、ゆれる
Gently to and fro,           前、後ろ
Watch out!               気をつけろ
Give a shout,              叫べ
Into the water you go!        そら、水の中

Row, row, row your boat       ゆら、ゆら、ゆらと
Down the jungle stream,       ジャングルの川
If you see a crocodile,        ワニに会ったら大きな声 
Don't forget to scream!        はりあげろ

http://www.bellaonline.com/articles/art4297.aspCheryl Lewis
BellaOnline's Early Childhood Host

Roll, roll, roll your hands       回せ 回せ、お前の手を
as slowly as can be,         ゆっくりと
roll, roll, roll your hands,      回せよ、お前の手を
do it now with me.          私と一緒に

Roll, roll, roll your hands      回せ 回せ、お前の手を
as fast as fast can be,        もっと早く
roll, roll, roll your hands,      回せ 回せ、お前の手を
do it now with me.          私と一緒に

Clap, clap, clap your hands     叩け、叩け、お前の手を
as slowly as can be,         ゆっくりと
clap, clap, clap your hands,     叩け、叩け、お前の手を
do it now with me.          私と一緒に

Clap, clap, clap your hands     叩け、叩け、お前の手を
as fast as can be,          もっと早く
clap, clap, clap your hands,    叩け、叩け、お前の手を
do it now with me.         私と一緒に

[動詞を次々変えて遊ぶ。幼稚園児向けのようです。]

最後に日本語のサイトから
 http://www.biwa.ne.jp/~tokuchi/index.html

【 私の作品 】
“BUSY SONG” (tune: ♪ Row, row, row your boat)
Busy, busy, busy all day,          一日中、忙いよ
I have to take care of my sons,     坊やで手一杯
Cooking, Feeding, Cleaning, Scolding  作って、食べさせ、叱ったり
and Changing diapers.           おむつもかえなくちゃ
【 友人の作品 】[アメリカ人夫妻]
Clean, clean, clean all day,        一日中、お掃除だよ
laundry in a heap              洗濯の山
Dirty dishes, dirty sheets,         汚れたお皿に、汚れたシーツ
there's no time to sleep!         寝る暇もない

“Eat, eat, eat your eggs,         卵、卵、卵だよ
Every single day.              今日もまた
With bacon and toast with butter and jam,  ベーコン、トーストにジャム
It's the American Way           俺はアメリカ人

  例を挙げれば切がありませんが、 “Row, Row, Row Your Boat”のキーワードでYahooで検索するとアメリカで32万、日本で500以上出てきますので、何百も替え歌があることでしょう。この唄に強い生命力があることが分かります。しかし、この唄は、多くのマザーグース(ナーサリー・ライム)の本には出てこず、有名なオピーも取り上げていませんので、正統マザー・グースとみなさない人もいます。

鷲津名都江先生が、マザ−グ−ス研究会会報No.139で、大変面白い文を書いておられますので、さわりを引用させていただきます。
 「(前略) しかしここで問題は、“Row, Row, Row Your Boat”をマザーグースと捉えてよいかということです。私は、これまで目を通してきた何百というマザーグース集や英語の歌関係の曲集を見てきましたが、この曲はマザーグースの中には入らないと思い、拙著では触れませんでした。この歌は、手元にある『世界の愛唱歌(音楽の友歌集T)』(音楽之友社、昭和30年)にも、“舟子”のタイトルで小学唱歌集よりとなって掲載されており、その解説に「米国で最もポピュラーな輪唱(ラウンド)。ライトは米国の作曲家。」とあります。
  つまりこの歌は、伝承のマザーグースではなく、アメリカの作曲家によるアメリカの子供の歌として知られているものなのです。  (中略)  伝承されている子供の英語による遊び唄をすべてマザーグースとするというのは、日本語化したマザーグースの捉え方で、アメリカやイギリスの現状とはかけ離れているように思われます。
 『大人になってから読むマザー・グース』の終わりの方で、オーピー夫妻の本に含まれていないがマザーグースと認識するアメリカ人も結構出てきた詩を“養子唄”としていくつか挙げています。"Row, Row, Row Your Boat"をイギリス人が“養子唄”として選んでいる人があるという報告が書かれていますが、回答者は13人ですので、一般的に見てこの歌がマザーグース入りしているかどうかは、何とも言えない微妙な状況だと思います。」*1

私は鷲津名都江先生の「マザーグースをくちずさんでー英国童謡散歩」 「マザー・グースをたずねて」や「わらべうたとナーサリー・ライム」を愛読し、尊敬しており、先生のお説に全く異論はありませんが、もう百年経てばマザー・グースに入れて欲しいものの一つです。

文中に出てくる“舟子”を掲げておきましょう。

   作詞者 里見 義  作曲者 ライト
1 やよ ふな子(こ)。 漕(こ)げ船(ふね)を。
こげよ  こげよ。 こげよ こげよ。やよ ふな子
2 しお みちて、風なぎぬ
こげよ  こげよ。 こげよ こげよ やよ ふな子

明治17年(1884)「小学校唱歌(三)」  岩波文庫「日本唱歌集」

  この歌の出所を「映画の中のマザーグース」や「もっとしりたいマザーグース」などの著者、鳥山淳子さんにお聞きした所、「Row your boatは、1852年10月4日付けでFirth, Pond & Co.社が コピーライトを記しています。もとは、ミンストレルショー(白人が黒人に扮した演芸)の歌だったのではないかと言われていますが、( Opie の The Singing Game Oxford University Press 1988年 の454ページ )  確かではありません。」というお答えをいただきました。それを手がかりに調べた結果、楽譜がアメリカ国会図書館にあり、American Sheet Musicのカテゴリーで、写真をホームページで見ることが出来ました。それを書き写しておきます。

Row, row, row your boat or the Old Log Hut

Down by the river our log hut stands,
Where Father and Mother once dwelt,
And the door latch that was worn by our hand,
And the church where in prayer we knelt
Years, Years have past since that Happy time,
But the river keeps rolling along,
And the rippling song on the mossy bank
Is singing the same old song.
    Row, row, row your boat
   Gently down the stream,
   All that past is gone you know,
   The future’s but a dream.

There stands the tree we used to climb,
And the mill with its rolling din,
And the old wharf boat, there it used float
Where the school boys used to swim,
High grass grows on the master’s grave,
And the river keeps rolling along,
And the birds and the bees, the blossoms, the trees,
Are singing the same old song.
  Row, row, row your boat
   Gently down the stream,
     All that past is gone you know,
     The future’s but a dream.

川のほとりの丸木小屋  父さん母さんいたところ すり切れ果てたドアの鍵
祈りをささげた教会よ! 楽しき昔 今いずこ
河はたゆたい 苔むす土手に さわさわ古唄歌います。
   漕げ 漕げ 漕げよ お前の舟を
      流れにそって ゆるやかに
      過ぎし昔は帰りこぬ
      これからあるのは夢ばかり。

僕らが登った木があって がたがた音する水車小屋  昔ながらの伝馬船
そこで泳いだ腕白坊主  主人の墓は草ぼうぼう
河はたゆたい 鳥、蜂、草木  同じ古唄歌います。 
   漕げ 漕げ 漕げよ お前の舟を
       流れにそって ゆるやかに
       過ぎし昔は帰りこぬ
      これからあるのは夢ばかり。

    私は、河や鳥、虫、草木がRow, row, row your boatと歌っているのを知って、大変心打たれました。ある年老いた黒人が、故郷を訪れた時の詩なのでしょう。ミシシッピー河のほとりなのかも知れません。
  作詞者は今のところ分かりませんが、作曲はR.Sinclairとあり、友人の古市さんと畑中さんに再現してもらいました。今我々の歌っているメロディーとは違いますが、明るい曲です。(左をクリックすると聞けます)

  メロディーが今のものので、最後の2行がMerrily, merrily, merrily, merrily, Life is but a dream.となっているもの初出は、E. O. Lyteが1881出版したものだと考えられます。このライトが作曲したのかは不明です。この歌詞の作者はひょっとしたら、キャロル・ファンだったかもしれません。というのは、キャロルの「鏡の国のアリス」の出版が1872年で、その巻末の詩の最終節はこうなっているからです。

  Ever drifting down the stream --       流れに沿って流されて
  Lingering in the golden gleam --       金の光にたゆたって
  Life, what is it but a dream?          人生、それはただ夢?  


tuiki1

ところが最近、ガードナーの註釈アリス 決定版(The annotated Alice The definitive Edition  Penguin 2001)とを見ておりましたら、上のキャロルの詩の注に何とRow row row your boatの関連が出ているではありませんか!まず、それをかいつまんで紹介します。

Matthew Hodgardが、この節は、当時良く知られていた作者未詳の輪唱歌(canon)
     Row row row your boat
           Gently down the stream;
     Merrily, merrily, , merrily, , merrily,
            Life is but a dream.

と響き合っているとイギリスから書いてきた。

ある寄稿者Ralph Luttsは同様の示唆をしている上に、「不思議の国のアリス」の序詞のmerry crewは輪唱歌のmerrilyと結びついていることを指摘している。(以下略)

これらの情報によりますと,先に触れた
       1.キャロル―ニガー・ミンストレル の流れは、
    2.輪唱歌―キャロル―ニガー・ミンストレル か
    3.輪唱歌―ニガー・ミンストレル ― キャロル
    4.あるいはそれぞれ独立して、輪唱歌から ということになります。
3の場合、ロンドンの寄席か海浜のリゾート地でニガー・ミンストレルに耳を傾けるキャロルの姿もまんざら捨てたものではないと思います。(ニガー・ミンストレルについては「アリスは泳げたか」を参照ください。)

しかし、何れにしろ、Matthew HodgardやRalph Luttsの言うように当時、この輪唱歌が良く知られていたことを前提としていますので、そのことの確からしさを確かめる必要があります。マザーグース(ナーサリーライム)のThree Blind Mice(オピーによると1609年まで遡れる)も輪唱歌だそうですが、canonの歴史に精しい方のご教示を待つ他ありません。

キャロルとRow your boat の関連に、直感的に気付いたところまでは良かったのですが、論証までの道のりはまだまだありそうです。

*1 鷲津先生からイギリスの幼稚園や保育園でよく使うThe Little Puffin ー Finger Play and Nursery Ganes (compiled by E.. Matterson) には1969年の初版から出ているし、1991年の改訂版には替え歌もついているとのご教示いただきました。(03・5)

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