不思議の国より不思議な国のアリス | |
第42章 アリス学序説 | An Introduction to Aliceology |
序説の序
高校の頃、デカルトの「方法序説」を買って、とにかく最後まで読んでみました。例の「我考える故に我あり」が出てく本ですが、なぜこの本を買ったかと言いますと、タイトルの「序説」というのが、その頃の私には、大層格好良く見えたからです。これが「方法についての話」という題なら買わなかったと思いますから、訳者の罠にはまったのです。その後「**序説」「**序論」というタイトルの本を気をつけて見ていると、謙遜、自信、うぬぼれ、言い逃れ、羊頭狗肉・・・・・・・著者の複雑な、また、屈折した気持ちを表しているように思うようになりましたが、それでも、一度は「**序説」というタイトルで何か書いてみたいと思っていました。
面白い話を分析したり、解説を加えて、かえって面白くなくしてしまうことはよくあることで、ガードナーが註釈本The Annotated Aliceを書いた時、巻頭に、相矛盾して馬鹿馬鹿しいpreposterousことを言わせて欲しいと言って、1932年のG.K.チェスタートンの警告を引用しています。それは一口に言うと学問の対象としてアリスを捏ねまして欲しくないというのが趣旨です。ガードナーがこの註釈本を出版してから40年以上も経っておりますが、シェイクスピアほどでないにしろ、アリスまたはキャロルについての論評・研究がどんどん出ています。
論評は原作の評価の上に乗っかって、自らをさらに高く見せる行為ですが、自分の努力や才能以上の成果を得ることができ、楽しみが大きいので、多くの人が手を出します。
また、神は細部に宿りますから、細部をどんどん攻めていくのも、楽しいことです。一本のユリを詮索していると、ソロモンの財宝以上のものが得られるのですから、細部を掘り下げる人も大勢おられます。
私の立場は、そんな方々の楽しみにあやかりかりながら、骨は折れるが、学術的価値のあることは専門家にお譲りして、アリスと遊ぶといった所でしょうか。
「序説」の「序」はここでは、ビギナーという意味ですから、これから述べることは初心者の説で、序説以外に、別に本説があるわけではありません。
こんな形で書こうと思っています。
1.アリス学の定義
2.アリスの物語の要素
3.アドベンチャー
4.ノンセンス・パロディー
5.アイデンティティー・不如意
6.夢・実存
7.アリスの物語はなぜ面白くないか
8.アリスを楽しむ100の視点
9.アリス対ハムレット
10.展望
Lewis Carroll のAlice’s Adventures in Wonderland 「不思議の国のアリス」,Through the Looking-Glassand What Alice Found There 「鏡の国のアリス」を併せて「アリスの物語」ということにし、この「アリスの物語」についての(about, of, regard to, concerning, in connection with, as to, irrelevant to, unrelated to,)考察を「アリス学」と呼びます。
ここで「アリス学」というのは非専門家による楽しみの学問と考えてください。広義では次の学問を含みますが、それは専門家に属するものですが、ちょっとご紹介しておきます。
アリス文献学Alicebibliology 古今東西のアリス本の書誌学的研究。これは学問の基礎ですから、まだ、テキストの数が少ない内に最大の力を注ぐ必要があります。FolioとかQuartoとか議論している内に一生を過ごしてしまうシェイクスピア学の二の前を踏まないように、日夜研究が進められております。作者問題についても「アリスの物語」の作者がルイス・キャロルことC. L Dodgsonかどうかも、やがて怪しくなります。マーク・トウエン説の真偽も早い内に、決着をつけておく必要があります。5百年後には、作者は存在しなかったという説が出るかもしれません。幸いテキスト問題に課題が少ないため、学者の精力は、偽アリス本の研究にその手が伸びております。偽アリス本、アリス・パロディー・バージョンはこれからも増え続けることは間違いありませんから、将来性のある学問領域です。
著者が密かに案じ、また、望んでいることは、「不思議の国アリス」は「不思議の国より不思議な国のアルス」の、子供向け縮小版といわれる時期が来ることです。300年くらい先の話ですが・・・(タイトルの運命参照)
アリス収拾学 alicecollectology 文献学を支える大切な分野です。アリス関連書籍・グッズのオークションその他による効果的拾得方法の研究です。実物を手元に置くか否かは、研究の要です。コピーで用が足りると考える者は真の学者ではありません。素早く、安く、確実にというのがポイントで、理論より実践を重んじます。文献だけでなく、人形、ゲーム、アリスの登場する一切のものを含みます。一般には、個人の財力に委ねられていて、伴侶の目を掠めながら、実践していく所に得も言えぬ喜びがあります。余り堅く考えずに数百円のオマケから始められるのがこの道に入る近道です。実学ですから、良い仲間と研鑚を積むのが一番ですし、コレクションを自慢できる楽しみを確保するためにも仲間が是非必要です。近い将来、某有名コレクターのコレクションをベースに、NPOによる「アリス・ミューゼアム」を創設し、玩具、製菓、アパレル、映画など関連業界からの財政的支援を得て、アリス・コレクションの展示と研究者の拠点作りをすべきか否かも研究します。「アリス・ミューゼアム」には紅白のバラが一杯植わった「アリス公園」と遊戯施設「アリス・イン・ワンダーワールド」を併設することの可否も検討課題です。いやいや、そんなことを議論することこそ、俗物のすることで、ビクトリアン・ジェントルマンはそんなことをしないという一派も有力です。
アリス映像画像学 aliceimagics 挿絵・写真・ビデオ・映画のアリス研究。言語による研究は欧米の学者には先ず逆立ちをしても勝てませんが、(勿論、例外はあります) この分野は、日本人の鋭い感性に適した分野なので、どんどんと発展しています。浮世絵、黒沢、「千と千尋の神隠し」などアニメの国際評価のお蔭で、これから、日本の学者の発言が、国際学会に、尊重されます。従来の英文系と芸術系の学際的協力が発展して、独自の学問領域を形成したものです。
5次元CG作品「不思議の国より不思議な国のアリス」への方法論と素材を提供します。
以下簡単に
アリス社会学 alicesociology 風俗現象としてのアリスを追究,ロリコン現象、遊園地、ホテル、などのイベントも視野に入れます。アリス統計学alicestatistcsの力も借りながら社会現象を解明します。
アリス心理学alocespycology 児童心理学、フロイド派、ユング派精神分析、交流分析など、先ず、研究者の自己分析を条件にしています。
アリス人形学alicedollology おまけの人形を含み、更にアリス関連のグッズに及びます、幼児教育とも関連があります。アリスの衣裳、髪型のバリエーション、その他のキャラクター、更にはドール・ハウスなど研究テーマには事欠きません。
アリスウエブ学 alicewebics ウエブ上のアリスを研究対象とします。大変新しい学問です。
アリスゲーム学 Alicegamics 現アリスゲームの研究、新ゲームの開発の検討、攻略本論。
アリス数学 aliocemathmatics キャロルナンバー42の研究を含みます。アリス統計学alicestatistcsはその一分野です
アリス料理学Alicerecipics オレンジ・マーマレード、偽海がめスープ、きちがい茶会献立等々、既にいくつかの本が出ています。
以下名前だけ掲げますが、既述の学問に決して劣るものではありません。むしろそれ以上の成果を上げているかもしれません。
アリス図形学、アリス翻訳学、アリス意味論学、アリス神学、アリス詩学、アリス・パロディ学、アリス言語学、アリス動物学、アリス植物学、アリス記号学・・・
以上は非専門家による分類ですので、専門家によるアリス学体系なる出来ることを期待しています。
独立の講座を持つ大学はありませんが、いずれの分野も既に大きな成果をあげています。学際的研究も盛んです。
「アリス学会」はまだありません。関係者のの交流の場として「日本ルイス・キャロル協会」があります。同協会は例会、茶会、パーティー、会誌The Looking-Glass Letter、大論文集MIschmasch, 研究発表会など多彩な活動の他、各国のルイス・キャロル協会とも交流しています。
もし、あなたがアリス・ファンで、仲間を求めているのなら、同協会に加入するのもいいかもしれません。
【連絡先】筑波大学 現代語・現代文化学系安井泉研究室
日本ルイス・キャロル協会事務局 yasui@sakura.cc.tsukuba.ac.jp
305−8571 つくば市天王台 1−1−1
日本ルイス・キャロル協会ホームページ
私は「アリスの物語」は4つの要素からなると考えています。
@アドベンチャー
Aノンセンス・パロディー
Bアイデンティティー・不如意
C夢・実存
実はこの4つ互いに関連し合うのですが、仮に4つの切り口から見るとわかりやすいと思うのです。Alice’s―B Adventures ―@ in Wonderland―ACと大まかに対応させることができますが、享受する層で、もう少し精しく説明しますと、
@子供、子供の心をもつ大人
A英米の子供、英語の好きな大人、英文学者、言語学者、
B大人、文学者、心理学者、哲学者、宗教家
C大人、哲学者、宗教家、物理学者
の興味の対象となるということではないでしょうか?
もっと、色々な切り口があると思いますが、素人の私は当分こんな観点から「アリスの物語」を読んでまいります。読んでいる内に変わってくるかもしれませんが・・・
これは分解してしまうと面白くない、単独のカテゴリーと思うのですが、中身を少し示して、私の言うアドベンチャーがどんなものか、示しておきます。
ほとんどの、神話、昔話、子供の本がそうであるように、主人公がいて、目的をもって、ある時には目的なしに、旅に出て、(異界に旅することもあります)予期しない色んな目に合って、たいていの場合は帰還するという一連の流れを持ったものである。勿論、話でなくても、現実の冒険、旅、巡礼など何でもいいのですが、そこには何か予期せぬことがあり、困難があり、リスクを取る決断のようなものがあります。そのようなものをアドベンチャーというテゴリーいれるのです。極端に言えば、昆虫や動物にもアドベンチャーがあると思っています。
「桃太郎」「一寸法師」「浦島太郎」に始まって、例を挙げるのが馬鹿馬鹿しい程冒険はあります。子供も大人もこのアドベンチャーが好きなのです。。
「アリスの物語」でアリスの冒険の特徴的なのは
目的をもって始めたものではない。
出会うキャラクター・事象が不思議なのである。
リスクをとる。
その結果を味わう。
土産を持って帰らない。.
元いたところに戻る。
我々の人生に近い構造をもっているとあなたは思いませんか?子供の読み物といいながら、深いものを押えているように思います。
(つづく)
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