不思議の国より不思議な国のアリス  

*1b   Life is but a dream.

キャロルとキーツ

これは『鏡の国』の跋詩の最終行は、ジョン・キーツの詩を引用しているのではないかという私の疑問に、大阪府立大学名誉教授安藤幸江先生(英文学、特にキーツの研究がご専門)が答えてくださったものです。ミクシィの日記への書き込みという形をとっており、先生はゆき、私はホワイト・ナイトというハンドルネームになっています。先生のお許しを得てそのまま転載いたします。(ただし絵文字はカット)

ホワイト・ナイト 2010年07月09日17:22 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
   
   『ブライト・スター』という、ジョン・キーツの晩年(といっても25歳で没)を描いた、素晴らしい
   映画を見てきました。これが縁でキーツの詩集を見ているとこんな詩に出会いました。
   彼の1814年作のOn Deathという詩はこんな風に始ります。
      Can death be sleep, when life is but a dream,
      And scenes of bliss pass as a phantom by?

   「鏡の国のアリス」の跋詩の終わり部分
      Ever drifting down the stream --       
      Lingering in the golden gleam --      
      Life, what is it but a dream? 

   の最終行は、マーチン・ガードナーも示しているように
      Row, row, row your boat
      Gently down the stream,
      Merrily, merrily, merrily, merrily,
      Life is but a dream.
  を踏まえていると考えられ、そのことを以前書いたことがあります。
 http://www.alice-it.com/wonderouserland/chapter1a.html
           
  キャロルの蔵書には、キーツの詩集が3種ありますので、ひょっとしたら
   キーツの上の詩が頭にあったのかもしれません。

ゆき 2010年07月09日 22:54 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ブライト・スター』の映画を観てくださり、ありがとうございました。
キーツ研究者の一人として、お礼を申し上げます。
キーツの詩集も読んでくださり、感謝申し上げます。

"Can death be sleep, when life is but a dream" の詩
      (キーツ自身は "On Death" というタイトルをつけていない)は、
      ご指摘のとおり、1814年に、祖母の死を悼んで作詩されました。

しかし、この詩が出版されたのは、1883年で
  『鏡の国のアリス』は1871年に出版されましたので、
      キャロルはこの詩を読んでいません。
キーツの詩集は、彼の存命中は、『1817年詩集』、『エンディミオン』
      (1818年)、『1820年詩集』(実際はもっと長いタイトル)の3冊ですが、
      この詩は、どれにも入っていません。
 
彼の死後、1848年に、 R. L. Milnes (Lord Houghton) が
      Life, Letters, and Literary Remains, of John Keats (2 vols)を
      出版しました。
 
この本を読んだ若い詩人や画家によって、「ラファエル前派協会」が
      設立されました。

キャロルもこの本を買って、愛読したでしょうが、これには、
     映画のなかで、キーツとファニーが交代で暗誦する「無慈悲な美女」
     ("La Belle Dame sans Merci")は、掲載されましたが、問題の詩は
      掲載されていません。

1883年のH. B. Forman による The Poetical Works and Other Writings of
    John Keats (4 vols) で初めて、この詩が取り上げられました。

キーツが "when life is but a dream" と言っているように("when"は
      "if"の意)この "life is but a dream" は、当時、普通に使われていたと
      考えられます。
ホワイト・ナイト 2010年07月10日 06:38 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゆきさま
詳細な情報有難うございました。キーツ研究者の先生から一言あるだろうと書き込みましたが、私の欲しい情報を得ることが出来ました。

キャロルは1855年1月11日の日記に
R. L. Milnes (Lord Houghton) のLife, Letters, and Literary Remains, of John Keats (2 vols)を 読み始めたと書いていますし、この本は彼の蔵書目録にもあります。
   
しかし、問題の詩が、1883年に初めて出版されたのであれば私の説は成り立ちませんね。

(出版前に、ロゼッティなど文学仲間で、転写され、読みまわされていたということがない限り)

Life is but a dreamは常套句考えたほうがよさそうですね。

ご教示有難うございました。
ゆき 2010年07月10日 22:20 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私のコメントへのお返事、ありがとうございました。

問題の詩は、アメリカに移住した弟のジョージと妻のジョージアナが
     保管していた Keats-Wylie Scrapbook のなかに発見されました 。

従って、残念ながら、ロセッティたちが転写した可能性は考えられません。

このキーツの雑記帳の "Wylie" は、ジョージアナの結婚前の名前、
     maiden name です

なお、Rossetti は、昔、日本では、「ロゼッティ」と訳され、英語の辞書にも
      二つの発音が表記されていますが、イタリア語の正しい発音は 「ロセッティ」
      ですので、私は、「ロセッティ」を使うようにしています

ホワイト・ナイトさまにも、これを機会に、「ロセッティ」にしていただければ、
      とても嬉しいです
     
ホワイト・ナイト 2010年07月13日 11:49ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゆき様
再度お調べくださって有難うございました。
「ロセッティ」と発音することにします。

折角、戴いた情報をミクシィに埋めておくのは惜しいので、
いずれ、まとめて、私のHPに収録させていただきたいと思います。
その時は原稿お見せします。
ゆき 2010年07月13日 18:50ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ホワイト・ナイト さま
「ロセッティ」と発音してくださるそうで、とても嬉しいです。
また、私の申しましたことなどをまとめて、HPに掲載してくださるそうで
     ありがとうございます

ホワイト・ナイトさまの研究熱心なお姿に感服いたします

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

前へ  次へ    目次へ 

   貧士の本棚―マザーグースへ