不思議の国より不思議な国のアリス     
7.2 トンデモナイ世界だ Without the Due Process of Law

アリス:それにしても、猛犬フュリーは無茶苦茶で、大変な悪ね。ネズミさんが怨むのも無理はないわ。

ナイト:どこが無茶苦茶だと思う。

アリス;退屈しのぎに逮捕して、陪審員も判事もかねて裁判して、死刑の宣告をしたんでしょう。もう少しの所で、死刑執行するところだったわ。

ナイト:先ず逮捕するには、逮捕状が必要だね。こんなことが起きたら世の中はもうおしまいですね。この犬は少なくとも日本国憲法第31条から40条までの10の条項を犯しています。

アリス:ここはイギリスではなかったですか?

ナイト;イギリスならなおのことです。1215のマグナ・カルタ(The Great Charter)以降の国法の根幹を犯しています。陪審制度もこのj時代よりあります。「何人も法による適切な手続きなくして、生命、身体、財産、自由を奪われることはない」という、法律の中で最も大切な部分を犯しているのです。これをDue process of lawと言いますが、英米の人たちには大切な権利で、1787年の人権宣言Bill of Rightsで高らかにうたわれています。歴史で習いましたか?

アリス:まだ、ウィリアム征服王のところまでです。

ナイト:これはアメリカ国憲法修正条項第5条と14条に取り入れられて・・・

アリス:ちょっと、待って、・・・でも、ナイトさん詳しいのね。

ナイト:これでも法学部出身だもの。

アリス;イギリスではちゃんと守られたんですか?

ナイト:実際はしばしば破られています。グロスター公、後のリチャード3世の刺客に殺されかかったクラーレンスはこう叫んでいます「お前たちは、数ある男から、無実の男を殺すために、選ばれたのか?罪科なんだ?証拠はあるのか?正規の陪審員の評決が判事に渡されたのか?誰がこの哀れなクラーレンスに死刑を宣告したのか?法の手続きによる有罪の宣告なくして、命を脅かすとはこんな不法なことはないぞ!・・・」もっとも、シェイクスピアの書いたことですから、(「リチャード3世」1幕4場)本当にどうだったか分からないんだけれどね。

アリス:Due process of law を要求しているのですね。それで、どうなったのですか?

ナイト:もちろん、殺されました。

アリス:私、そんな世界では生きていけないわ。

ナイト:だからアメリカもイギリスも徹底的にデモクラシーを守ろうとするのです。独裁者即暗黒政治とします。今回の戦争もその延長上にあると言えなくもありません。彼らは、Due process of lawを守れる国にすることは、その国の人たちを幸せにすると信じて疑いません。

アリス:猛犬フェリーがますます憎くなってきました。

ナイト;脅かすわけじゃないけど、アリスもこれからいろんな目に出会いますよ。絶えず死刑を宣言している女王とか、変な裁判とか・・・理不尽な世界が・・・

アリス:とんでもないことだわ。社会の秩序の破壊だわ!一体誰がトンデモナイ世界を作ったんですか?

ナイト;キャロルさんですよ。

アリス:なぜですの?

ナイト:一口に言えないけど、キャロルさんは物事をひっくり返すのが好きなのさ。頭の中だけだけど。これには大切のもの程、ひっくり返すのは面白い。もう一つは、理不尽なことの怖さを良く知っているからさ。

アリス:よくわかんないけど、キャロルさんは理不尽な、つらい目にあったことあるのかしら・・・

ナイト;ラグビー校での体験は生涯忘れないだろうね。・・・・・・夕日が綺麗だね。今日はこれくらいで帰ることにしよう。あの曲がり角まで行ったら、何時ものようにハンカチを振ってくれないか?

アリス:勿論そうするわ。さようなら!

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