イギリス伝承バラッド(CDつき)
    British Folk Ballads

 中島久代/D・テイラー/中山光雄 共編注
  英光社  1890円
「本書は、今日でもうたわれているイギリス伝承バラッドの代表的な作品20篇を現代バージョンに編集し、それぞれに作品解説と語注を付け、さらに本来のバラッドの姿通りに音楽を付けて、バラッドを立体的に学べるように企画したバラッドの入門書です。」 ― 同書まえがき

この本は私たちが伝承バラッドー古い物語歌謡(または詩) ―に近づく際の2つの障害を取り払って、一挙にバラッドに入っていける素晴らしい入り口です。
先ず、第一の障害は言葉の馴染みに薄さなのです。例えば
      There were twa brethren in the north:,
         They went to the school togither:
      The one unto the other said,
         Will you try a warsle, brither?
これを基に、キャロルが「2人の兄弟」というパロディ詩を書いているのですが、これだと多少英語が出来ると思っている人にも随分とっつきが悪いわけです。古い英語なのかスコットランド語なのかよく分かりません。
本書ではこうなっています。
    There were two brothers in the north:,
         They went to the school together:
    One brothers to the other said,
         'Shall we wrestle on the heather?'
         Shall we wrestle on the heather?

すっと入っていけるでしょう。全編がそうなのですから、バラッドが急に親しいものに感じられます。

2つ目は、バラッドは多くはメロディーが付いて、バラッドの本にはそのメロディーの楽譜が付いているのがよくありますが、素人にはこの楽譜ですぐメロディーが浮かばないのです。まして、詩をメロディーに乗せるのが難しいのです。
ところが本書では、CDで演奏や朗誦が直接聞けますから、これまでの隔靴掻痒感が一挙に取り除かれます。
現代のフォークソングの元歌ですから親しみのある響で、若い人は先ずCDを聞くことから始められるのが良いかもしれません。デイヴィッドとチズルの演奏は素晴らしいです。

ナーサリー・ライム(マザーグース)の世界では、日本でもかなり前から簡単に手に入るテープやCDがあって曲や朗誦の感じがつかめたのですが、バラッドについても、そのような状況が本書によって作り出されたのです。

そして、こうして誘われる世界は、大変な珍奇でまた懐かしい昔話、王様、英雄から村の娘の話などいつの世にも繰り返される原型的物語が、曲や韻律を伴いながら、我々の心に入ってきます。
私は、多くの詩人、音楽家の肥やしになり、現代の詩や音楽に継承されている伝承バラッドに、触れ始めて間がありません。このような本がどんどん出て欲しいと思います。
2005・5・30

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