不思議の国より不思議な国のアリス       
愛麗絲夢遊仙境 Alice inTaiwan

2泊3日の駆け足で台北旅行を楽しんできました。今回の旅の思い出の第一は食べ物が美味しいということでした。例えは、2日目のお昼は,、日本にも支店を出しているという、有名な「鼎泰豊」で、餃子など蒸し物の点心は、大変満足な味でした。そして、この時、私にはもう1つ楽しい思い出が出来ました。というのは、その隣りが金石文化広場という中規模の本屋で、アリスと出会ったからです。
アリスは台湾では「愛麗絲」ということは分っておりましたので、愛麗絲の本ということでで探してもらったら、たちどころに下記1から6の本が見つかりました。

タイトル 著者 訳者 出版社
愛麗絲夢遊仙境 路易士・?洛爾 陳育尭 寂天文化事業 後半に英文あり挿絵テニエル
愛麗絲夢遊仙境 路易斯・?若爾 陳麗芳 高富国際文化
愛麗絲夢遊仙境 路易斯・凱洛 李漢昭 震星出版 挿絵:曾銘祥
愛麗絲夢遊仙境 Lewis Carroll 改編
Anme Suzane
萬人出版 英漢併記
英語の朗読CD付き
愛麗絲夢遊奇境 路易士・?洛爾 東方編輯部 台湾東方出版 挿絵:官月淑
愛麗絲夢遊仙境 路易斯・?羅 朱衣・麦特
McCabe
愛麗絲書房 Nursery Alice
英漢併記
愛麗絲夢遊仙境
魔幻小語
路易斯・?羅 朱衣
McCabe
愛麗絲書房 (未入手)
愛麗絲夢遊仙境 路易斯・?羅 朱衣 愛麗絲書房 (未入手)
(?は上と下を竪に結合した字)

その他、デズニー挿絵本などの中国語訳本もありました。大型書店に行けば、もっと見つかったかもしれませんが、私は中国語は出来ませんし、コレクターでもないので、これで十分です。6冊〆て、1049元(約3500円)の買物です。美味しい昼飯の後、さらに、台湾でもアリスが愛されていることがわかり、心も満たされ、次の目的地である故宮博物院に向ったことでした。

中身ついて少し触れておきます。
読んでみますと、原文を知っていますので大体読めます。有難いことに漢字は95%分りますから読めるのです。勿論、発音も中国語の語感で分りませし、まして、言葉遊びの部分の翻訳の面白さなど分るわけはありません。

原文第2章の冒頭の" Curiouser and curioser" cried Alice.はこうなっています。(これについては4章涙の海も見てください
今回入手した本のでは次のようになっています。

1. {奇怪・越来越怪了。」愛麗絲叫道。
2. 「愈奇怪愈来!」愛麗絲喊道。
3. 「奇怪?奇怪!」」愛麗絲大喊。   (?は口偏に阿)
4. 「?!越奇越奇了!」愛麗絲大叫。 (?は口偏に阿)

この箇所は元の英語が文法的におかしい所がミソなので、訳すほうもそれを反映させているはずですから、上記は正式中国語を話す人にはどこかおかしいはずです。
「アリスの物語」は翻訳者の腕を発揮できる(しなくてはならない)箇所が全編に満ち溢れているのですから、これからも次々と新訳が生れるものと思われます。愛麗絲書房(上表6〜8)というのもあり、アリスは台湾ではファンが広がっていることを窺がわせます。少年少女の読み物、英語学習教材を含めて、日本同様に普及するのではないかと思われました。

今から50年も前のことですが、中村元が「東洋人の思惟方法」と言う本を書きました。これは主として、仏教経典の各国の翻訳を分析して、インド、中国、チベット、日本の思惟方法の差異を追及したものですが、同様のことをアリスを使ってする人が現れて欲しいものです。お経と違って、「アリスの物語」は2卷しかなく、負担が少ないので、中、韓、印、チベット、タイ語などマスターした人が「不思議な国のアリスから見た東洋人の思惟方法」を著わす日も近いかもしれません。(楠本君恵先生の「翻訳の国のアリス」の東洋版といったところでしょうか)

そのほんのきっかけに、タイトルを見てみましょう。
「不思議の国のアリス」は台湾では「愛麗絲夢遊仙境」に定着しそうですが、まず、「愛麗絲」の方から見ますと、単純な表音符号を持たない国としては「愛麗絲」と書くのは止むを得ないのでしょう。可愛い少女というイメージを与えようとしています。固有名詞の表記は、お経をサンスクリットから訳す時も、現在も全く同じです。ルイス・キャロルの名はまだ当て字が定着していないようです。今回の旅行で気付いたことですが、台湾はCDが安いのですが、買おうと思っても、固有名詞が全部漢字なので、バッハもショパン文字からは想像できません。日本のカナの発明がいかに偉大であったかということがわかります。中国では外国人の人名でさえ自国の文字の支配下おいてしまういう点、文明の強さを感じます。
「夢遊仙境」という言葉にも中国文明の底の深さと他の文化を飲み込もうとする働きを感じます。中国の人がこの「夢遊仙境」という言葉でどんなことを思うでしょうか?荘子(BC4C)、葛洪(AD4C)、陶淵明(AD5C)そして、邯鄲の夢の話が出てくるのがAD9Cで 聊斎志異は出るのは「アリスの物語」の約200年前、その間もその後も夢物語も仙境物語も事欠かない中国のことであるから、既にこの4字で豊かなイメージが広がると思います。そんな中に「アリスの物語」が放り込まれるとどうなるのかいう気がします。
中国の強引に自国の文化に同化させようとする傾向に対して、アリスの生き方が問われる所です。同化して生きるか、対抗して、独自性を強く主張して生きるかです。アリスの運命やいかに?
私は、アリスのことですから、和戦両様の構えで、漢字の国でも立派に生きて、多くの人に愛されるのではないかと楽観しています。

もう一つ大切なことは、「愛麗絲夢遊仙境」には原題Alice’s Adventures in Wonderland の中のAdventures をちゃんと訳出していることです。日本ではAdventuresが脱落してしまったことは、「タイトルの運命」で述べましたがが、中国語訳では「遊」と訳されています。「遊」という字の背景は、白川静「文字逍遥」の中の「遊字論」に詳しいですが、私はAdventuresの本質は「遊ぶ」ということに大変関係している思っているので、この中国語訳のタイトルは大変立派だと思います。
このように翻訳比較をしていくと日本文化の特質もあぶり出されることでしょう。


コレクターの方へ:
上記はほんの1書店での状況です。新旧含めてどの程度あるのか分りません。
上表7,8は6に広告が出ていました。
中国大陸の方はどうなっているのか気になって、日本へ帰ってから、中国書専門の書店2軒見ましたが、東方書店に次の一冊が見つかっただけでした。
 「愛麗斯漫遊奇境」  附:吹牛大王歴険記 梁?訳編  華語教学出版社 (簡体字で表記、 ?は携の手偏の無いもの))

03・11・25     

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