不思議の国のマザーグース
夏目康子
柏書房 2003

1章1章が読み応えのある楽しい論文で、少しマザーグースに親しんだ人には、深い味わいを与えてくれる本である。圧倒された。若いファンには、マザーグースをこのように読めば面白いのだと教えてくれる、マザーグース読みのお手本となることだろう。

対象は、風変わりな女の子、愉快なお婆さん、その他、マザーグースのちょっと変わったキャラクターを18章に分けて取り上げているのですが、初出の版本から、各版を追いながら読み解くその書きぶりは、スリリングで、さまざまな視点からの分析もさることながら、特に挿絵を細部にわたって読み取り、そこから色々な話題を引き出されるやり方は著者ならではのもと思う。人物の目つき、口元もよく見ておられ、余りのも注意深いのに思わず苦笑する。
この人の手元には豊かなコレクションがあることがあることが想像されて、羨望を感じる読者も多いと思う。手にとって見る楽しみを随分と味あわれたことであろうが、「ハバートおばさん」のチャップブックなど羨ましい限りである。
また、このように版本の変遷をたどって見せていただくと、マザーグースが生き物で現在もまだ生成されつつあることがわかる。個人の著作と異なるマザーグースの特徴である。

うれしいのはナンセンスへの言及で、「マザーグースの面白さは、説明を排したナンセンスな展開や、言葉のリズムや押韻からくる音の楽しみや、簡潔な形式から生み出される言葉そのものの力強さにある。」(同書234頁)とさらりと書いてあるが、各章全体にわたって、マザーグース特有の面白さが上手く表現されていると思った。
著者の追求範囲はこれからもどんどん広がるようで、いくいく「マザーグース大全」のようなものが出来そうで楽しみである。

原詩も索引もしっかりと付いていて座右本の一つである。

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