浅利誠著

日本語と日本思想
本居宣長・西田幾多郎・三上章・柄谷行人

岩波書店
2008年
宮垣弘

日本語の教師をしていて、何時までも自信が持てないのは、助詞の「は」と「が」の使い分けを生徒に上手く説明できないからである。頻繁に出てくる日本語の最も大切な助詞で、実際の生徒はよく「は」と「が」の使い方をあやまり、それを明快の指導できないのである。

日本語文法を明快に知りたいという欲求は、日本語を外国人に教えて初めて実感するのではないかと思う。

著者の浅利誠さんはフランス国立東洋言語文化大学助教授で、哲学・日本現代思想がご専門と巻末の紹介にあるが、長年フランス人に日本語を教えてこられ、その経験とその過程での日本語文法の研究がこの本となって見事な実を結んだ。

基本に三上章を据え、本居宣長から現代の文法学者に至るまでを批判的に摂取しながら、まず、格助詞の問題から入り、「は」の問題へと広がっていく。読んでいくうちに、著者の問題意識が浮き彫りとなって、そして次第に格助詞や係助詞の理解が深まっていく。格助詞の空間性を示す3つの類型「で」「を」「その他」も実に明快である。

後半は、和辻哲郎を初めと思想家と日本語とのかかわり見ながら、日本語の理解を深めていく、皆深く読み込んであって、素人の私には、そうなのか、そうだったのか、と思うほかないのだが、これも説得力がある。

ハイデッガーと和辻哲郎との関係にメスが入り、一時は哲学論議にへと路線が変わるかと思っているうちに、やがて論は繋辞(コプラ)へ、日本文法の「は」の問題にいたる。

ちょっと雑駁な紹介だが、三上章、寺村秀夫と日本語文法を追ってきた者には、大変スリリングな論考で、読み出したら止まらなかった。

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かって、取り上げた、カナダで日本語を教えておられる金谷武洋さんやこの本の著者の浅利誠さんのような方にお願いしたいことは、外国人の向けの日本語の文法書を編んで欲しいということである。100頁くらいのものが良い。

日本の外国人への日本語教育はいわば、極論すれは、パターン・プラクティスの積み上げのようなものが主流で、日本語の先生にどんな文法書がいいかとたずねても、明快な答えに出会ったことがない。
「は」と「が」の問題にしても、生徒に、この問題は難しいと言うと、さうであろう、という顔で許してくれる。それは、これまで、先生から、何度も、あいまいな聞いた答えだからであろうと思う。
もちろん、語学の修得には、文法不要という考え方もあることは理解できるが、生徒も先生も参照できるハンディーな文法書があってほしい。
日本語教育界はこのことを放置しているのではないだろうか?
私が知らないだけかもしれない。ご存知の方があればどうか教えてください。

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