ロンドン通信1 ’01・3・27 ロンドンに飽きたら、それは人生に飽きたとき 息子のハイスクールの授業にLondon in Literatureという英語の課目があります。そこで最初に取り上げるのがJames BoswellのThe Life Of Samuel Johnson,LL.D.(1791)です。Johnson博士といえば、初めての学問的な英語辞書を作った人物ということしか知らなかったのですが、息子と一緒にこの本を読んでみると、私にとっては色々と新しい発見がありました。シェイクスピア上演史に登場する名優であり演出家でもあるDavid Garrickは、彼がまだ田舎で貧乏教師をしていた時代の生徒であったこと。彼が成功を夢見て田舎からロンドンに出てきたとき、Garrickも一緒だったことなどです。Johnson博士はシェイクスピアの注釈書も出版していますし、Garrickの演出に辛口の批評をしています。劇場にもしばしば足を運んだようです。ここから2人のライバル関係がうかがえます。さてそのJohnson博士が、次のような言葉を残しています。このロンドン通信で、私の目から見た興味あるロンドンを皆さんにご紹介できたら大変幸せです。 “When a man is tired of London, he is tired of life; for there is in London all that life can afford.” James Boswell:The Life Of Samuel Johnson,LL.D.(1791) |
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ンドン通信 2 シェイクスピア・ドラッグ・S CLUB 7 「シェイクスピア使用のパイプからコカイン検出」という記事が3月2日付朝日新聞夕刊に掲載されたとのことですが、残念ながらイギリスにいる私は、そのニュースに気づきませんでした。 |
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チョコレートはCadbury(カドバリー) イースター(今年は4月15日)を目前に、ロンドンの食料品店には色とりどりにラッピングされたイースターエッグが並んでいます。サイズはウズラの卵ぐらいから、ダチョウの卵ぐらいの大きい物まで様々です。どれもチョコレートでできていて、大きい物は中が空洞になっていますが、中にクリームやキャラメルの入っている小さ目のエッグもあります。ラッピングも、子供の喜びそうなキャラクターをあしらった物や、大人用におしゃれな花柄のボックスに入った物まで、バラエティーに富んでいます。イースターにはこれを互いにプレゼントして、春の訪れをお祝いするようです。 英国で根強い人気のCadbury。次回はその秘密に迫ってみようと思います |
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ロンドン通信 4 01・04・17 続 チョコレートはCadbury(カドバリー) Cadburyの定番商品はDAIRY MILKというミルクチョコレートですが、これはなんと1905年の発売以来、ずっと英国の人々に親しまれているようです。 娘の読んでいるティーンエージャー用雑誌に、「女の子同士のお泊まりパーティー必需品」の特集記事がありました。ネールアートキット(爪にきれいなシールを貼って遊ぶ)、CD、ビデオ、スナック菓子、コーラ、チョコレートがリストアップされ、それぞれに具体的な人気商品のランキングが紹介されています。例えばCDのランキング2位には、「ロンドン通信2」にも登場したS CLUB 7の「7」というアルバムがはいっています。そしてチョコレート部門では、CadburyのDAIRY MILKが堂々の1位。しかも10点満点中10点を獲得しています。女の子たちのコメントを紹介すると「チョコレートは厚みがあって大きくてとってもクリーミー。みんなの超お気にいり。」という具合です。 そこで我が家でも改めてこれを試食してみましたが「あまりにもクリーミーすぎておいしくない」という結果になりました。チョコレートの説明書きには「半ポンド(約230グラム)のチョコレートを製造するのにコップ1杯半のフルクリームミルク(乳脂肪分がとても高い牛乳)を使用しています」とあります。どうもこのクリームっぽさが、英国の人々に人気の秘密のようです。そういえば英国の人々はクリームが大好きです。6月下旬から開催されるテニスの全英選手権(ウインブルドン)名物にストロベリークリームがありますが、これはいちごにシングルクリーム(泡立っていない液体状のクリーム)をかけたものです。また果物入りのパイやチョコレートケーキにも、シングルクリームをたっぷりかけて食べるのが普通です。ティータイムのスコーンも、クリームをたっぷりつけて食べます。英国の人にとってクリーミーなチョコレートが一番おいしいと感じられるのも、これで納得できるような気がします。 |
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ロンドン通信 5 01・04・23 4月23日付の新聞、THE TIMESのAnniversaries(記念日)欄には、3人の英国を代表する詩人・劇作家の顔写真が並んでいます。William
Shakespeare(1616年没), William Wordsworth(1850年没), Rupert Brooke(1915年没)
の3人は、いずれも命日が4月23日。このうちシェイクスピアは誕生日も同じということで、ロンドンでもシェイクスピアゆかりのサザーク聖堂で彼を偲ぶコンサートが開かれたり、街頭でソネットの朗誦が行われたようです。特に大きなイベントはありませんが、ロンドンでは毎日のようにどこかでシェイクスピア劇が上演され、一年中シェイクスピア記念日のようなものだからでしょう。 さて14才(日本では中学3年生)の娘が英語の授業でシェイクスピアを学び始めました。The Merchant
Of Veniceを原文で読むのですが、最初に読んでくるように言われたのが数年前にTHE TIMESに掲載された次のようなタイトルの記事です。『不快な作品・The
Merchant Of Veniceは演劇の名折れ(A nasty piece of work, The Merchant Of Venice is a
disgrace to the stage)』筆者(Arnold Wesker)はこの作品を、受け入れ難いとして痛烈に批判しています。その理由は、ユダヤ人シャイロックが嫌悪すべきものの具象化として描かれている点にあります。この作品中どの登場人物も、シャイロックが極悪非道の人間であることとユダヤ人であることを区別して考えるべきだと示唆するような発言をしていない。その結果、ユダヤ人を排斥する感情やひいてはホロコーストのような悲劇を引き起こす原因となった、というのがその論旨です。 米国では、The Merchant Of Veniceは人種差別的だから学校では教えないようにしようという動きがあるそうです。また南アフリカでは、シェイクスピアはracist(人種差別主義者)という理由で教えることが一切禁止になっているそうです。娘の学校は米国国籍の生徒がほとんどですが、民族的には多岐に渡っているので人種差別の問題には非常に敏感です。シェイクスピアの影響力の大きさについて改めて考えさせられました。 |
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ロンドン通信 6 01・04・30 VE Day 「イギリスでは1日のうちに四季がある」とよく言われますが、その言葉通り、青空がのぞいて日が射したかと思うと黒い雲が空を覆い、激しい雨や雹まで降るという不思議な天気が続いています。 5月8日は、連合国側が欧州での勝利をおさめた第2次世界大戦の記念日VE Day (Victory in Europe)にあたります。このため4月下旬からテレビでは、「決闘・チャーチルvsヒットラー」「ヒットラーの片腕たち」「ヒットラーとエバ・ブラウン」など、戦争関連の歴史ドキュメンタリーが数多く放映されています。私がロンドンに住んで感じるのは、ヒットラーによるユダヤ人虐殺が単なる歴史的事実ではなく、人々の体験に根ざしているということです。現在は英国籍でも、祖父の代にナチスの迫害を逃れてイギリスに渡ってきたとか、家族にホロコーストの生還者がいると話してくれる人達が周囲にたくさんいます。 私の友人がアンティーク関係の仕事で親交のあるEva Schlossもその1人です。彼女は母と一緒にユダヤ人収容所に入れられましたが、幸いにも母と共に生き延びることができました。しかし父と兄は生還することができませんでした。戦争後の1953年、Evaの母はOtto Frankと再婚します。Ottoも妻と娘2人をホロコーストで失いました。その娘の一人が「アンネの日記」を書いたAnne Frankでした。EvaもAnneも1929年生まれですが、Evaの誕生日が1ヶ月早いので、Anneのお姉さん(Step-sister)ということになります。Evaは結婚して現在ロンドン北西部に住んでおり、ホロコーストを忘れてはならないという思いから1988年にEva’s Storyという本を出版しています。彼女は今も、ホロコーストを知らない若い人々にその体験を伝える働きをしています。数週間前にも娘の学校を訪れて講演して下さいましたが、娘のクラスは時間割の都合で話が聞けず、大変残念だったそうです。 VE Dayは戦争の愚かさ、平和の大切さと共に、人種差別や偏見について考える日でもあります。 |
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ロンドン通信 7 01・05・09 マイ・フェア・レディー 5月5日、テムズ川の南岸(サウスバンク)にあるロイヤル・ナショナル・シアターに、家族4人揃ってミュージカル『マイ・フェア・レディー』を見に行きました。ロイヤル・ナショナル・シアターは芸術審議会からの助成金を受けて運営されている国立劇場であり、「あらゆる社会階層に属するあらゆる年齢層のための国立劇場」というのがそのモットーです。建設されてから今年でちょうど25年になります。この劇場は商業的な採算よりも芸術性に重点を置き、新しい試みを奨励することを原則として運営されていますが、ここで試され、商業劇場へ移行して大当たりした作品も少なくありません。こういった国立劇場の活動が英国演劇の原動力となっています。国からの援助があるため料金は商業劇場に比べて安くなっていますが、それに加えて25歳未満や60歳を超える人々、障害者、車椅子使用者にはさらに割引があります。演劇愛好家にとっては第一級のキャストによる優れたプロダクションを格安で見ることのできる魅力的な劇場です。最近ではポール・スコフィールド、ヴァネッサ・レドグレイブ、ジュディー・デンチなどの名優がこの舞台に立っています。 そういうわけで当然のことながらチケットの予約は難しく、先手必勝です。私も5月5日のチケットを予約したのは1月初めのこと、それでも2階の一番後ろの列しか残っていませんでした。ここにはオリヴィエ・リテルトン・コッテスローという大・中・小3つの劇場があり、マイ・フェア・レディーは座席数約890の中劇場で上演されるため、一番後ろでも舞台は大変よく見えます。家族4人のチケット代は合計50ポンド(約9000円)、日本では考えられない安さです。マイ・フェア・レディーは1910年のロンドンが舞台です。今回は20数年ぶりのリバイバルであり、演出はシェイクスピアの演出家としても有名で現在ロイヤル・ナショナル・シアターの芸術監督を務めているトレヴァー・ナン。彼は「キャッツ」「レ・ミゼラブル」など格調高いウエストエンドミュージカルの演出家でもあります。前置きが長くなりましたが、次回ロンドン通信でミュージカルの感想をお伝えしたいと思います。 |
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ンドン通信 8
01・05・16
マイ・フェア・レディー 2 マイ・フェア・レディーは コベントガーデンにあるロイヤルオペラハウスのシーンから始まります。上流階級の人々が優雅にオペラを楽しむ場面に引き続き、労働者階級の人々の生活感あふれる場面が展開されます。踊りにも衣装にも、階級間のコントラストが生き生きと表現されていました。主人公のイライザが「正しい発音」習得に悪戦苦闘する場面は、普段日本式の発音で苦労している私にとって、笑いながらも身につまされる思いでした。 『マイ・フェア・レディー』といえば日本ではオードリー・ヘップバーン主演の映画がよく知られていますが、原作はバーナード・ショー(1856−1950)が1912年に発表した戯曲Pygmalionです。ショーは社会改革と言語改革に情熱を燃やしていました。特に英語のスペリングと発音が一貫していないことからスペリング改革を訴え、また教養ある発音を習得することによって、社会の要職につくことができると主張していました。 ある書簡で彼はこう述べています。「俳優Forbes Robertsonがハムレットを演じるような発音を習得できれば、その人物は最高裁判所長官、オックスフォード大学総長、カンタベリー大司教……になる資格がある。」このような発音はReceived Pronunciation(RP)、このような英語はReceived Standard Englishと呼ばれています。社会階層による発音の違いは今でも残っています。家電製品や配水管が故障したとき家にきてくれるサービスマンはコックニー(ロンドンなまり)を話すことが多く、聞き取りに苦労します。ITVテレビの看板ニュース番組、News At Tenのキャスターを務めるTrevor McDonaldは移民家庭出身であるため、自分の望むキャリアを手に入れるため、RPの習得に大変な努力をしたそうです。マイ・フェア・レディーのプログラムにも次のようなエピソードが紹介されていました。「ある演劇学校講師が若い黒人俳優にRPを教授していたが、教わる当人がその必要性を認識していないため、はかばかしい成果をあげられずにいた。講師は忍耐強く努力を続けるよう若い俳優を諭した。数日後その俳優が講師のもとにやってきて、自分は心を入れ替えたという。『実は昨晩街で警官に呼び止められ、尋問を受けました。完璧なRPで返答したらすぐに放免されたんです。』」私もせっかくロンドンに住んでいるのだから、RPを目指してもっと努力しなければと思いました。 |
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ロンドン通信 8 01・05・16 マイ・フェア・レディー 2 マイ・フェア・レディーは コベントガーデンにあるロイヤルオペラハウスのシーンから始まります。上流階級の人々が優雅にオペラを楽しむ場面に引き続き、労働者階級の人々の生活感あふれる場面が展開されます。踊りにも衣装にも、階級間のコントラストが生き生きと表現されていました。主人公のイライザが「正しい発音」習得に悪戦苦闘する場面は、普段日本式の発音で苦労している私にとって、笑いながらも身につまされる思いでした。 『マイ・フェア・レディー』といえば日本ではオードリー・ヘップバーン主演の映画がよく知られていますが、原作はバーナード・ショー(1856−1950)が1912年に発表した戯曲Pygmalionです。ショーは社会改革と言語改革に情熱を燃やしていました。特に英語のスペリングと発音が一貫していないことからスペリング改革を訴え、また教養ある発音を習得することによって、社会の要職につくことができると主張していました。 ある書簡で彼はこう述べています。「俳優Forbes Robertsonがハムレットを演じるような発音を習得できれば、その人物は最高裁判所長官、オックスフォード大学総長、カンタベリー大司教……になる資格がある。」このような発音はReceived Pronunciation(RP)、このような英語はReceived Standard Englishと呼ばれています。社会階層による発音の違いは今でも残っています。家電製品や配水管が故障したとき家にきてくれるサービスマンはコックニー(ロンドンなまり)を話すことが多く、聞き取りに苦労します。ITVテレビの看板ニュース番組、News At Tenのキャスターを務めるTrevor McDonaldは移民家庭出身であるため、自分の望むキャリアを手に入れるため、RPの習得に大変な努力をしたそうです。マイ・フェア・レディーのプログラムにも次のようなエピソードが紹介されていました。「ある演劇学校講師が若い黒人俳優にRPを教授していたが、教わる当人がその必要性を認識していないため、はかばかしい成果をあげられずにいた。講師は忍耐強く努力を続けるよう若い俳優を諭した。数日後その俳優が講師のもとにやってきて、自分は心を入れ替えたという。『実は昨晩街で警官に呼び止められ、尋問を受けました。完璧なRPで返答したらすぐに放免されたんです。』」私もせっかくロンドンに住んでいるのだから、RPを目指してもっと努力しなければと思いました。 |
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ロンドン通信 9
01・05・22 JAPAN 2001 現在英国では、ロンドンはじめ各地でJAPAN 2001が開催されています。日本の文化とライフスタイルを英国に紹介し、日英の交流をさらに深めていこうという趣旨のもと、日本古来の伝統芸能から日本の今を伝える最新のアートやテクノロジーまで、種々様々なイベントが約1年かけて開催されます。5月19,20日にはJAPAN 2001のオープニングを飾るイベントとして、ロンドンのハイドパークでMatsuriが行われました。流鏑馬、太鼓演奏、阿波踊り、御神輿など、日本の祭が大集合したようです。また5月20日の夕べにはロンドンのRoyal Festival Hallにおいて「東洋と西洋の音楽融合」を目指したコンサートが開催され、これには私も夫と共に出かけました。 演目は武満徹の作品2曲とブラームスのピアノ協奏曲第2番、指揮はウラディーミル・アシュケナージ、武満作品のバイオリンソリストに諏訪内晶子、ピアニストはエフゲニー・キーシンという豪華プログラムに、会場はオーケストラの後ろに位置する所まで満席でした。聴衆は日本人だけでなく英国人も多く、ロイヤルボックスには英国訪問中の日本の皇太子の姿もありました。前半は東洋を感じさせる音の響きに諏訪内晶子のバイオリンの音が透明感と緊張感を与えていました。後半はキーシンの意志を感じさせる力強いピアノ演奏とアンコールのショパンで大いに盛り上がりました。言葉や文化の違いを超えて共に楽しめる、音楽のすばらしさを感じた幸せな一時でした。今回のコンサートは夫が仕事で利用しているコンサルティング会社がスポンサーとして参加しているため、そちらからのご招待でした。コンサートに先立つレセプションでコンサルティング会社の税務を担当している有能な日本人女性スタッフと話をする機会がありました。彼女はずっと英国育ちで、日本語より英語の方が得意だそうです。大学はオックスフォードでしたが、ちょうどその時期に日本の皇太子もオックスフォードに留学していたため、弦楽カルテットを組んで毎週一緒に演奏していたそうです。言葉の壁がなく共感できる音楽、それに対して演劇にはどうしても言葉の壁がつきまといますが、日本の演劇は英国の聴衆を感動させることができるでしょうか。JAPAN
2001ではこれから、松竹大歌舞伎近松座の「曽根崎心中」、蜷川幸雄の「近代能楽集」、野村万作の「間違いの喜劇」を翻案した「間違いの狂言」が上演される予定になっています。注目して、ロンドン通信でも評判をお伝えしていきたいと思います。
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ロンドン通信バックナンバー 1