27 アリス:この対話編はこれまで一方的にアリスは質問側ですが、ソクラテスの例に倣って、逆に、猫さんから質問してみてくださいませんか?アリスは答えられないかも知れませんが、対話に変化が出ると思いますので。

28 猫: アリスさんは、物質を離れて意識だけが存在するという考えを受け入れるのに、非常な困難を覚えますか。


29 アリス:そのようなことを日ごろ意識して考えおりませんが、大学に入った年、はたして物質があるのだろうか、意識だけしかないのではないかと深く思ったことがありました。当時、京大は一年は宇治の分校で授業が行われまして、ある時期、門から校舎までの長い道の両側に真っ赤な彼岸花が咲いていてのですが、それを見て、この赤い花ははたして存在しているのか、私の意識の中だけにあるのかわからなくなった経験があります。物質があるというのはどうしてわかるのか、認識論というのでしょうか、そんな関係の本を何冊か買いましたが、読まずじまいに終わりました。


30 猫: アリスさんは、空間のない状態を想像できますか。こんな思考実験をやってみてください。まず、宇宙を想像します。真っ暗な空間にたくさんの星や銀河がちりばめられている状態を思い浮かべてください。次に、その星や銀河や星雲を全部消して
ください。真っ暗な空っぽの空間だけが残るでしょう。ここまでは簡単にできますね。では、その空間を消してください。それが、神が空間を作る前の状態です。どんな状態が想像できたでしょうか。

31 アリス:チェシャ猫が消えて笑いだけが残るようなものですか?その笑いも取り除くのでしょうね。思考実験としてはわかるような気がします。

32猫: 同じようにして、時間がない状態を考えて見てください。宇宙という言葉は、中国生まれの言葉ですが、宇は空間を、宙は時間を表す、といわれます。聖書の冒頭に「はじめに神、天と地を創り給えり」という有名な言葉が出てきますが、宇宙の解釈を当てはめれば、天は時間を表し、地は空間を表すと言うことになります。時間も空間もない時?に、神はどこにいて宇宙を創ったのでしょうか。

33 アリス:神様がどこかにいて時間と空間から作られたと言うのは、一種の神話ではないでしょうか?それに時間や空間というのは概念であって、作るようなものではないようにも思えますが・・・空間とか時間を現代物理学ではどう捉えているのか知りませんが、何か確実な定義はあるのでしょうか?

34 猫: 空間とは何でしょうか。今から2500年程前、ギリシャの哲人デモクリトスは、万物は原子からなる、という原子論を唱えました。そのとき彼が大変に悩んだ問題があったといいます。それは、原子と原子の間に何があるのか、という問題です。
原子と原子の間に何もなければ、原子は互いにくっついてしまうはずです。何もない空間があるという発想は彼には到底受け入れられないものでした。何もないというのは何もないことだからです。彼は賢明にもその問題を無視して原子論を唱えました。
 現代の宇宙論の最先端の理論によれば、宇宙は無から生まれた、とされています。
無が何かを生み出すというのはどういうことでしょうか。無はどこにあったのでしょうか。私たちは、「何もない」ということに「無」という名前をつけて何かであるかのように見せかけ、無を主語にした表現を使うことによって、デモクリトス以上に巧妙に、無とは何もないことであるという問題を隠してしまいます。アリスさんはどう思われますか。

35 アリス:鏡の国の王様はNothingNobodyもあるものとして扱っていていますね。
  デモクリトスとは少し時代は下りますが、インドでは般若思想、中論と空に関する思索が深まります。よくわからないまま、なんとなく言えることは、維摩の一黙。この問題には答えてはならないということです。ひょっとしたら鏡の国の王様が正しいかも知れません。正直のところよくわかりません。

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