歌仙三吟「池波やの巻き」の楽屋裏

(候補句)

初折表発句(春)    真砂男

乱れゆく蟄居の居間や花粉飛ぶ

飛機雲の行方を想い花粉症

お造りも手製で盛られお入学

靴すべて磨かれており初燕

学童は皆はしゃぎおりチューリップ

池波やたちまち集う散り桜

老骨の膝を確かめ土筆狩る

萬物の気の迫り来る芽吹くとき

花庭の日々の移ろい風邪に病む

 

脇(春)     余間

動かぬ老い亀遅日斜めに

袴に靴が老師取り巻く

老嬢三人鶯もち食う

野点の茶菓子鶯のもち

携帯で届く万博チューリップ 

春の夢にて出会うヨン様

 

第三      哲太

籠城の隠し砦に春暮れて

囀りと糞(まり)を袋に押し込んで

目借時とけぬ知恵の輪埒もなし

数へるに蝶は一頭箪笥棹

目刺焼く座付作家はグルメにて

春愁の見ざる聞かざるせきもなし

吟行の18切符朧にて

鞦韆を独り占めする日もあらん

夏隣記念ボールにサインして

蜆汁身までしつかり戴ゐて

 

四       真

海老入り餃子は冷酒に合う

ワインカーブに塵の歳月

ファイルを閉じて客を迎える

御旗の上を鳶が輪を描く

狼煙のごとく雲の湧く峯

言い出し難き金子の無心

腹の減ったる餓鬼のかしまし(孫のことなり)

其処彼処なる妻のへそくり(事実に非ず)

「リオブラボー」の歌の哀しさ(付けすぎでしょうね)

                                      

 五(月)      余

きりぎりす鳴くや霜夜の月明かり

地雷踏むな近道するな夕月夜

ATM通帳月に覗かるる

月影に紫におう君なりし (髪を染めている?)

月を見る旅続けおるはぐれ猿

 

六(秋)       哲

亀は沈黙よく蚯蚓鳴く(××カメとか申します)

捕えし空巣菊人形

原発停止残暑極まる(ATM=アトム・パワーと読めませんか)

苧殻の煙アブラカタブラ

開け胡麻では岩戸開かず

金繰り付いて飲む温め酒

建機で壊す柿盗人(殺伐な時代となったもので、建機工場出身

                としては仕様にない使用法に憤慨頻り)

初折裏

七       真

かしましく一家団欒きのこ鍋

喰う前にマツタケを嗅ぐ儀式めき

茸(たけ)狩りし故郷の丘ブル働く

禁断の木の実たわわに国栄え

禁酒より禁煙易し新酒祭

透視図に潰瘍の跡ちちろ鳴く

萩咲いて野の石仏の微動だに

 

八(恋)    余

返事もくれぬにくき人恋う

いまだ嫁がぬ初恋の人

眉に面影宿す夕映え

会い見ての心こぼるるばかり

祭囃子にうずく古傷

恋のいや増す君のつれなさ

遥かに聞く君の呼ぶ声

 

九       哲

徒競走君は一等僕はビリ

送つて行く道の近さが恨めしく

何時迄も歩んでゐたき帰り道

誂えのジャケットおろし逢ひに行く

純白のレース着て行く勝負の日

傘の絵にあの娘の名前書ひてみる

トランプの独り占淡き夢

一心に反魂香を焚いてをり

赤ひ傘借りて煙草を買ひに出る

 

十       真

会わぬ後悔会いし後悔

三世の契りは嘘だと知りつつ

空涙して嘆いてみせる

グラスワインの緋色妖しく

化粧落しも堂に入りたる

減るものもなし事の顛末

手練手管も年の功にて

別れし人は舞上手にて

真紅のバラに胸痛むこと

   

十一      余

納経のやせて涼しき金の文字

わが夫(つま)は元本保証利も薄し

ノータイで振るう熱弁蝉時雨

当たり籤奢る主人の「無法松」

祝言の隣から戻る松の鉢

事成りてタイの珍味も食い飽きる

 

十二      哲

いざ鎌倉と江ノ電に乗る

けむひばかりでご飯は炊けず

榎本喜八はシェフに非ず

(榎本某なる女傑ゐて  ・・の一刺し)

ローヤルゼリーの摂りすぎは毒

ロージンつけてフォーク投げ込む

おフランスでは「シェー」が通じぬ

降嫁の土産恩賜の煙草

(世の趨勢抗し難く。おめもじ叶わず

廃止の憂目となりました)

嫁の里より「ゆーぱっく」着く

早口言葉柿を喰う客

向こう三軒皆恐妻家

 

十三(月)    真

弁天の膝の艶めき夏の月

月上り笑みの深まる弁財天

月からの使者を待ち居る舞楽殿

塔頭に月隠れ居て影絵めく

月光を甍に集め峡の邑

残月のやや傾きて読経音

空蝉のこぼれて軽ろき月の寺

階の蜘蛛月光を得て目醒む

 

十四      余

ブルーグラスを琵琶で爪弾く

浴衣の子にもあらぬやきもち(弁天様は女性嫌い?)

蛇も衣脱ぐ紫陽花の陰

下駄の素足に銀のマニキュア

枕から落ち覚める短夜

 

十五      哲

玄人も逃げ出す出来と褒めらるる

九回裏起死回生の本塁打

学ランに腰の手拭ひ奴が来る

マッチ売りひと時の暖灯を点す(爪に・・・を点すとか)

別れ際爪を噛む癖咎められ

ラブアフェアー除去液でも消えぬ傷

仕立屋は仮の姿の極悪人

「猫」に惚れ石見の薬盛られたり

腰掛けて棒を振りをる将二人(将棋は指せませんが)

 

十六         真  

香を焚きしめ小袖を仕舞う(注1)

霧に閉ざされ山姥棲む山(注2)

地獄門より生ぬるい風(注3)

酒友をもてなす活け造りにて

火火出見の神釣果敢え無く(注4)

蟻が這い入る隙間の針山

老嬢チクる上司の秘密

サビルロウ着て下はユニクロ

 

 注1:仕舞うは収納の意味で使いました。

 注2:山姥は何食わぬ顔で人里に出てきます。

 注3:原句は・・生臭い風、でしたが付き過ぎなので変えました。

 注4:天孫の話はいずれ山北さんに聞きたいところ        

 

十七       余

迷ひつつ降りて驚く花の里

「鬼殺し」一人で含む花の庭

花曇り伝説多き伊賀の里

朽ちかねるかやぶき屋根に花吹雪

花便り一人住まいの母を恋ふ

花の道豆腐土産に会ひに行く

 

十八               哲

一椀の湯葉 蕗のお煮染

麻婆三遷 四川春宵

角にぶつかる 四月馬鹿をり

造幣局の 春の賑わひ

鍵屋の辻に つちふる朝

旧友集ふ 春昼の宴

朋友在りて 春暁の牌

寿司折提げて 春雨の街

「出汁も要るか」に 山の失笑

 

名残表

十九    真

お受験を賭けて祈りの梅の宮

卒業のアルバム古び五十年

クラス会欠けし友あり彼岸西風

久闊の酒の話題も杉花粉

復活祭銜え葉巻のカポネ風

鈴懸の葉陰モナコの白亜館

切り捨てる刃鋭し葱坊主

トランプの占いに厭き暮遅し     

                                       

二十     余

殿ご乱心と止める忠臣

辣腕社長の舞の手さばき

女社長の強い残り香

職安通りに馴染むこの頃

いずれもサラリーマン系。

居合八段まだ嫁取らぬ

 

二十一     哲

古書市で鳥獣戯画を見つけたり

三人と犬一頭の河下り

テームズの楽しき川辺林檎落つ

弁十郎雇ひし楽士のセレナード

吊革のGパン娘臍ピアス

(面妖なものが流行るもので・・)

輪唱の絶えて久しき廃校舎

図らずも親子三代芸の道

自由形「平」で泳いで準優勝

栄養が良過ぎて一茶脇を向き

 

二十二     真     

家族の絆姦しくして(注1)

猿が見下ろす岩のゲレンデ(注2)

葡萄畑を風渡り来て

柳の下で雑魚をすなどる(注3)

鮎焼くついでに酒も燗して

四十奏にて寝覚めを癒す

食い気が勝るセーヌの夜店(注4)

四種のサプリ飲んで不機嫌

注1、台湾で詠んだ俳句の流用です

注2、故郷、湯河原の山間にクライマー達の練習用の岩場があり、今も大賑わい。

注3、すなどりは漁りで良かったのでしょうか。

注4、恋よりだんご

 

二十三     余

ポ・ト・フ待つ急ぐ我が家の赤い屋根

おでん鍋便りよこさぬ末息子

山間の百樽シャルドネ冬を越す

冬眠の百樽千樽瑠璃の酒

出戻りの多き孤村の冬支度

雪吊の三代続く下戸の家

 

二十四     哲

甲府盆地の底冷えに耐え

南に望む雪の北岳

転がせ転がせ聖夜のポルカ

したヽか過し山の居眠り

薬湯煎じる寒柝の小屋(註1)

山の親爺が寝そびれフラリ

村人総出のバケツリレー(註2)

封じ込めたる五分の魂(註3)

 

(註1)落語「二番煎じ」の一席 薬湯は薬に非ずして・・・・・

(註2)余間様の一句に小生の大好きな昔の映画を思い出しま

   した。題して「サントヴィットアの秘密」

(註3)琥珀に閉じ込められし太古昆虫の無念

 

二十五       真

お調べの声で判じる想い人

小鼓の気合凛たり江戸小紋

恋ふ人のうなじ目で追ふ舞姿

スケボーの巻き毛なびかせ空に舞う

列車旅女教師との会話

ウインクをされて思案の星の夜

CDを贈り贈られときめく頃

手作りのタルタルソース君のため

 

 

二十六       余

襟足清し黒子一点

三度の付文返事よこさぬ

ますますつのる老いの一念

腰のひねりのワンテンポづれ

斜にずれたるロミオの仮面

 

二十七       哲

宮を出でてネクタイ緩めをり

ガムランに指先撓り灯の仄か

マハラジャの幽閉の悲話タジマハル

寺々に軒を狭しと歓喜仏

口ずさむブンガワンソロ大蜥蜴(註1)

廃れてもハワイアンには夏興行(註2)

ウクレレを抱えて渡る竹の橋

モンゴルと欧州勢を二丁投げ(註3)

カラオケの採点機能恨めしく

 (註1)ジャワの東方コモド島に太古の恐竜の面影を残す大蜥

   蜴が生息しております。小生の憧れでしたが、ジャカルタの動物園で遭遇!実態は・・・・。チップを出す と生きた鶏を投げ込んで襲わせるのが酉歳の小生には悲しい光景でした。

(註2)以前「遊山」に書きましたカントリーミュージッシャンの嘆きです。カントリー、ハワイアン、ビック・バンドの3つ共にFENで好きになりました。

(註3)作ってから調べました処「二丁投げ」は残念ながら腰は使いませんでした。さりながら朝青龍と琴欧

州の二丁を投げ飛ばす国産力士の登場待望久しと言う事で。

 

二十八       真

指のしなりに託す怨念

称明の声堂に溢れて

灌頂を得て涅槃の境地に

ヤヌス恐ろし大理の石壁

信徒叩頭ご開帳にて

飛天を取り巻く五星の輝き

夜星に吠える蒼き狼

向ふ三軒手職で名を挙げ

 

二十九(月)     余

腰紐の解けて銀漢十三夜

失楽園帰るすべなき夕月夜

シャトルにてカップラーメン窓の月

月昇り涼風寄こす火炎山

沈黙の君のうなじに月触るる

横笛の似合う月夜の窓明かり

 

三十         哲

破壊(はゑ)の葉音に羊群声なし(註1)

正倉院の秋の虫干し(註2)

エアーズロックの秋は三月(註3)

カレイズに浮く棗一葉

菊花の契り故城の宴

オアシスに露崑崙の玉

野分の加勢弘安の役

秋の彼岸に木簡の墓誌

(註1)亡父の愛唱歌「都ぞ弥生」を頂きました。

(註2)虫干しは曝涼としたい処ですが悲しいかな「涼」がかぶります。

(註3)これは反則でしょうか?チョット試してみたくなりまして・・・・。

 

名残裏

三十一       真

日蓮の法難の地に露深し

イージスに警報突如雁渡る

狩首のごとく吹かれる吊るし柿

台風禍オッペケペーが響きゐて

草紅葉あまたの鬼女の勝ち名乗り

羅漢にも善悪ありて鰯雲

桐一葉円月殺法冴え見せて

獲われし秋刀魚が描く銀世界

法螺鳴って薄俄かに生を帯び

 

三十二       余

月山三里と古き道標

何を聞くやら野仏の笑み

役の行者は一つ歯の下駄

手柄話を空で聞く妻

立飲み屋さんの青き枝豆

肩まで浸かって見る羽黒山

浅茅が原から帰る童ら

 

三十三       哲

ホッピーは未だ七分目ナカ追加

  焼酎のホッピー割りも「ホッピー」であります。

  割るホッッピーは残れどもアルコールのほうが・・・

省線に抜ける路地裏急ぎ足

今日だけは帰る約束誕生日

酎ハイに釣銭添えるイラン人

   立ち飲みはキャシュ・オン・デリバリーが基本であります。

地麦酒は並べて拙し道の駅  

   そうと知りつゝ又だまされてツイ。

道端の無人スタンド大繁盛

錆付いた植木鋏を取り出だす

   やはり枝豆は枝付きが宜しい様で。

帰省子の一皮剥けて頼もしき

冷凍は味が悪いと駄々をこね

   駄洒落につうき平に!

 

三十四       真

春菜を摘みて宴に備へむ

蘭活けて酒場の格調

チップ弾みて町は春色

財布は軽くも春は爛漫

句想追いかけ遂に深酒

花絵の絨毯膝に優しく

絨毯を織る少女の眼差し

ペルセポリスに野薔薇の実り

 

三十五(花)     余

花ふくむ小鳥の図柄祖母のもの

千年の花鳥文様孫が継ぐ

花時に嫁入りする娘(こ)の忙しき

恋い文は花の便りのことばかり

ぼんぼりにシンドバッドもいる花宴

シャドリ着て花見の宴を通り過ぐ

チャドリ取り花見の宴に加えたし

花時は無常迅速付け黒子

(額につける黒子のようなものはなんと言うんでしょうか?)

 

三十六挙句     哲

フーコの振り子刻む惜春

喜寿の翁の揺らすふらここ

忠霊塔に鳥交る朝

春泥深し鳥葬の谷

始発の「のぞみ」晩春の富士

カバティ楽し遅日弥栄(いやさか)  

春燈淡き「なか」の賑わひ

宗俊悠然天保の春

朝寝の証 ロココの化粧

双子企む山の哄笑

紅のビンディ灼熱の春

 

挙句の選句  これまで選句は付け句をするものが行って来ましたが、挙句については全員で行いました。

 

真砂男選

1.フーコの振り子刻む惜春

俳句として成り立つ、独立した完成度。  時の流れは無常ともいえるが、視点を変えてみれば、フーコの振り子のように、永遠でもある。この連句も一つ巻き終わり、一抹の名残惜しさのようなものも感じているがまたいつの日か、この振り子のように繰り返すこともあるであろう。

 

2.忠霊塔に鳥交る朝

国家に命を捧げた人たちがあってこそ今日の繁栄があることを、よく分かっいるつもりではあるが、普段はあまり意識しない。たまたま通りかかった塔のあたりで鳥が交わっていた。死者を祀る碑と新たな命を生み出される事象との対比が面白い。つい、考えが国の将来にまで及んでしまう。

 

3.喜寿の翁の揺らすぶらんこ

喜寿といっても心身ともに矍鑠。いたずら心、好奇心も衰えない。ふと通り道の脇にある小公園をみやると、ぶらんこが乗り手もなく垂れ下がっている。少年の頃を思い出して、ぶらんこに腰掛け、そっと揺らせてみる。・・と、良い風景ではござんせんか。  

ところで、ブランコは何故春の季語なんでしょうね。鞦韆には秋が含まれているのに。

 

哲太選

1 フーコの振り子刻む惜春

余間様のご質問にお答えした際にも申しましたが個人的にはフーコの振り子は今も当時の侭の高校の校舎の印象が強い上に後にエーコの歴史ミステリーのタイトルにもなりまして思い入れがあります。

連句的には「池波に散る花」から幾年の花を経てその年の晩春を惜しむと言う流れが自然に思います。フーコの振り子が地球の自転を確認出来る装置と言うのも過ぎ行く春を惜しむ感覚にピッタリと思いまして、聊か書生っぽい理屈ではありますが気に入っております。惜しむらくは「春」と言わないで済めば更に宜しいのですが、晩春を象徴する適当な言葉で下の句を作れませんでした。

 

2 カバティ楽し遅日弥栄(いやさか)

「速」を頼りに長閑な春の遊びで「鬼ごっこ」の句を作るつもりでしたが、ついチョット趣向を変えて古くて新しい国、インドの遊びを題材にしてみました。前の方の句で「歓喜仏」を詠っておりますのでインドが重なる処に不満はございます。しかし行く春の「遅日」を日がな遊び呆け「弥栄」と目出度く締めるのが気に入っておりましてその点が挙句らしいのではと思います。「速」と「遅」の対照も自分としては工夫し

たつもりであります。因みに「弥栄」ですが日本のボーイスカウト活動の創成期に祝声(Cheer,Yell)として「弥栄」が採用され、以後彼達の間では世界的に通用する言葉となっています。小生は団員ではありませんでしたが友人がカブ(ボーイスカウトのジュニア版)からの団員で大人になってからは指導者としても係わっていまして、お祝い事がある度に「弥栄三唱」を聞かされています。

 

以上の通りで個人的には「フーコの振り子」挙句としての纏まりではお目出度く「弥栄」を自選致します。一応「弥栄」を第一候補としたいと存じます。

 

余間選

1 フーコの振り子刻む惜春

悠久の時の中で、女たちも老い、そして我らも・・・だから行く春を惜しむのだが、振り子は永遠の時を刻む。挙句らしい情景である。

 

2 宗俊悠然天保の春

お芝居のお話を知っておれば、これはユーモアがあって面白い。お芝居に明け暮れた江戸庶民の笑いが聞こえてくる。発句の池波や・・・へと戻り、円環する。

                            以上

遊山表紙     歌仙本文    Alice in Tokyo