不思議の国より不思議な国のアリス | |
白の騎士の落馬術 | White Night's method of falling |
アリス : ナイトさん。それにしてもよく落馬しますね。乗馬のお稽古しなかったの?
ナイト : いや、おじさんは十分稽古したよ。
アリス : 何処でしたんですか?
ナイト : 京都大学馬術部でさあ。1958から2年半も馬術部にいたんだよ。
アリス : それは知らなかったわ。なぜ馬術部に入ったの?
ナイト : ポスターを見て入ったんだ。
『来たれ! 新入生諸君!― マホメット曰く「天国は馬の背と美女の胸にあり」 馬術部 』とあったのさ。このコピー今も使っているだろうなあ。
アリス : 馬の背は天国でした?
ナイト : 「馬には乗ってみな。人には添ってみな。」と言うだろ。これはかりはちょっと表現できないな。美女の胸の方も同じかも知れないけど・・・
アリス ; 馬術部の練習って何をするんですか?
ナイト : 競馬などと違って、大学でやるのは、障害物を飛んだり、馬を華麗に操ったりする馬場馬術なんだ。ニューイヤー・コンサートを見ると必ずウイーンの宮廷馬術団の華麗な演技が出るでしょう。
アリス : ワー格好いい。
ナイト : ところが、おじさんはアリスも知っているように少々運動神経が緩やかにできているんで、習ったのは、もっぱら落馬術さ。
アリス : どうやって習うの?
ナイト : 先ず支えとなる鐙(あぶみ)をつけない馬に乗ります。馬を走らせます。手綱(たづな)を伸ばせと号令がかかります。伸ばします。馬場のコーナーに来ると遠心力で大抵、落馬します。コーナーはえぐれていて、水が溜まっていることが多いです。ですから、落馬と同時に水を被ります。
アリス : 凄いですね。
ナイト : それだけではありません。合宿では早朝、暗いうちからやりますから、水を被っただけではなく、仰向けに星も見ます。それから、また、鐙のない馬に飛び乗らないといけない。これが大変なんだ。
アリス : 落馬術って、どれぐらいでマスターできるんですか?
ナイト : 個人差があるけど50回ぐらい、落馬すればいいかな。
アリス : コツってあるのかしら?
ナイト : 落馬しないと絶対身に付かないが、アリスに落馬術のコツを教えてあげよう。
先ず、落馬といってもいきなり落ちることはありません。一度、ポンと上に突き上げられます。上に突き落とされるのが落馬なんだ。だから、上に飛び上がっても大丈夫なように、大腿部で鞍を捕まえなければなりません。しかし、これが上手くいくと落馬しませんから、練習にはなりません。落馬術の第一は落ちると分れば気前よく落ちるのです。鞍に掴まったり、うじうじしていると、走っている馬の腹の方に廻って危険なのです。これにつきますが、もう一つ挙げれば、落ちたと分れば、さっと気分を取り直して、力いっぱいまた、馬に飛び乗ることです。後の方が、どちらかと言えば、難しいかもしれないな。
アリス : ナイトさんを見ているとそのようですね。もっと、馬術部のお話してください。
ナイト : おじさんは専ら落馬術ばかりやっていたので、馬場馬術はさっぱりでした。厩舎の掃除や飼い葉作り。馬に噛まれたり、蹴られたり。馬を運んだ時のことも忘れられないな。
アリス : その話、聞かせてください。
ナイト : 大会が名古屋であった時、貨車で馬を運んだんだ。今ならトラックで世話ないんだが、おじさんの時代にはみな、国鉄さ。家畜専用貨車は今もあるのかな?それに乗って・・・
アリス : 一緒に乗らないと駄目なんですか?
ナイト : いや、便乗、ただ乗りさ。切符代の節約というわけです。夜中、轟音と共に水飛沫がするから、何事と思ったら、同乗の馬が枕もとで、おしっこしていた。貨物列車だから、操車場に何時間も留め置かれます。周りをよく観察してずらかります。だから、おじさんは脱走の経験者というわけさ。お蔭で脱走ものの映画も実感が湧きます。
アリス : 馬はみな馬面で、どうやって区別するのですか?
ナイト : 人間と同じです。よく見れば分ります。濃典、光成、淀霧、さわらび、巴、それにオリンピック候補の荒木さんが乗っていたネプチューンいたな。もうこの世にいないと思うけど・・・
伊藤達也、元気にしてるかい。医学部も多かったな。長寿学の家森先生時々NHKで見かけるけど・・・皆元気かなあ。
アリス : ナイトさん泣いてるの?
ナイト : おじさんの発明した唄を歌ってあげようか?
アリス : 今日はいいわ。
ナイト : そうか。またにしよう。 アリスが聞いてくれたお蔭で、随分古い話を思い出したよ。そろそろお別れしよう。おじさんが向こうの角を廻るまで、ハンカチを振ってくれないかな。元気が出ると思うんだ。
あっ、大切なことを忘れてた。落馬術の最大のコツは馬に乗ることなんだ。 さようなら。
アリス : さようなら。 (アリス、ハンカチを振る。) あっ!また落ちた!
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