ギリシアの美術
 澤柳大五郎
 岩波新書
 初1964、 1974


今はもう手元にないが、高校時代、レーヴィ著原随園訳『希臘彫刻史』という本を持っていて、そこにある写真をあかず眺めた。特に女神の裸像は、この世のものとも思えないほど美しく、心まで澄み渡る気がしたものである。文章の方は全く読まなかった。
以来、ギリシャ美術は(その頃は彫刻であるが)美の最高の規範として、私の心に宿って、他のものはそれから少しひずんでいるように見えた。

芥川龍之介が「ギリシャは東洋の永遠の敵である」と書いているのに出会ったときも、芥川も美の対極をギリシャにみいだしたのだと納得した。ギリシャ美術のお陰で、私は長い間、仏像の美しさは理解できなかった。

この本は画家の菊池理さんのHPやイッキ描きブログの中で、名著として取り上げておられて、いつか読みたいと、古本屋で探していたがなかなか見当たらず、1年ほど前にやっと入手したものである。
読んでみると、確かに名著で、ギリシャ美術(壷絵、彫刻、建築)の各時代の様相が、見事に描き出されている。新書版なので、写真の質は不十分なのだが、図版を示しながら、説明を聞くと、ずいずいと理解が深まってくる。
その文章が又素晴らしいく、著者のギリシャ美術への愛着や薀蓄が伝わってくる。こんなに落ち着いた文章は最近お目にかからなくなった。

ギリシャ美術の頂点は、人物彫刻(神を含む)であるが、特に、裸身像は歴史上その上を行くものはない。読みながら思ったことであるが、なぜ、裸身特に男性が多いのであろうか?当時の運動競技が全裸でなされていたことににもよるが、伝説上の人物も壷絵では全裸で、しかも陽物もしっかり描かれているのは不思議なことである。私の知らないことがまだまだ背後にありそうだ。

ギリシャ美術のファンには楽しめる本である。絶版なので古本を探してください。

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