オノマトペがあるから
日本語は楽しい

擬音語・擬態語の豊かな世界
 小野正弘
 平凡社新書 2009


日本語は英語やドイツ語に比べてはるかにオノマトペの多い言語である。世界の言葉の中で日本語がどんな位置づけなるかよく知らないのだが、私た ちはたくさんのオノマトペをもって、あるいは、作りながら、豊かな世界を表現で きると思っている。
同じ降る雨でも、ぽつりぽつり、ぱらぱら、しとしと、ざあざあとオノマトペを使うこ とによって、より現実味を帯びた表現が出来る。一方、なんとなく、子供っぽい表 現で、幼児語に近いものがあり、日本語が、かなり原始的な言語だという感じも する。それだけに我々の感情を揺さぶるものがある。外国人にこのオノマトペを 教えようとすると、対応する外国語語彙を探すのが難しい。

この本は、私たち日本人が日本語のオノマトペについて考えるのに、入門書とし て大変楽しい本だ。
第一章で、オノマトペがどんなものか、韻律的に体感させようとする試みは見事 なものだ。オノマトペの「もと」を取り出して、それに尾ひれを付けて、オノマトペ が作られる姿がよく分かる。この章だけで値打ちがある。第二章は『ゴルゴ13』 のライターの音「シュポッ」や『伊豆の踊り子』の中の、コトコト笑うなどへのオタク 的追求が楽しい。第三章でオノマトペの日常的広がり述べ、第四章では、オノマ トペの歴史的深みへと降りて行く。古事記や万葉の世界に遡って、オノマトペを介して眼を開けれることが多かった。第五章の三島由紀夫の「文章読本」での、オ ノマトペへの忌避を取り上げていて、これが返って、オノマトペの効用へとつな がる。オノマトペに長年捧げられた努力の結実というべき、味わい深い、楽しい 読み物となっている。私はこの本によってすっかりオノマトペ・ファンになってしまった。

蛇足かもしれないが、『不思議の国のアリス』の中で、アリスがチェシャ猫に言う 台詞で、「それからどうか、そんなに急に出たり消えたりするのはやめてもらえま せん?めまいがしそう!」(河合祥一郎、角川文庫、2010)というのがあるが、 その30年前の石川澄子訳では「ねえ、そんなにひょっくり、ひょっくり出たり引っ 込んだりしないでちょうだい。スーッと消えて、消えてしまった思っていると、また 出てきて、誰だって眼がまわちゃう」(東京図書 1980)とあります。
勿論原文は河合祥一郎さん訳に近いのですが、石川澄子訳はオノマトペの力 をよく使って原文以上ですね。

2010・10・02

私の書評  Alice in Tokyo