Making Sense of Japanese

 What the Textbooks Don’t Tell You

(日本語の秘訣)
 Jay  Rubin

講談社インターナショナル 2008
















日本語の助詞「は」と「が」は頻繁に出てくる助詞で、これがないと現在の日本語は成り立たないほどであるが、外国人にその使い方や意味を教えるとなると大変難しい。かなり日本語を勉強した外国人でも、作文をさせてみるとよく間違えるし、日本語教師自身が理論的に説明しきれないことが多い。

この本は、この点を実に見事に説明している。用意周到な論の進め方で、まず、subjectless sentenceやzero pronounというコンテクストから分かるので文中に現れない代名詞(著者はこれを縦横に用いて説明するとことが、この本のもっとも面白いところである)で布石を敷いて、topic marker (as for…) としての「は」を説く。「が」との対比も見事である。そして、「象の鼻は長い」や「僕はウナギだ」の構造を説いてみせる。さらには近代作家の冒頭から「は」を使用する事例、例えば、漱石の『門』の書き出し「宗助はさっきから縁側へ座布団を持ち出して・・・」を取り上げ、現代作家の小説作法に及び、また従属文の中の「が」の使用に触れる。私がこれまで読んだ本の中ではもっとも説得力がある。序文からはじまり、「やる・もらう」「受身、使役」「・・・からだ・・・わけだ・・・のだ」など、外国人が奇異だと思う点から説明してあるので、英語話者が、日本語についてある段階に達しておれば、日本人教師の下手な解説より、本書を読んでもらう方がはるかに良い。

90ページ足らずの論考は、終始頷きながら読み満足感を味わう。日本語教師も個々にはこの程度の知識はあるが、このように分かりやすく説明できないと思う。

この過程で日本語の特徴を体得できる。

後半30ページほどはさまざまの日本語のトピックスで、楽しめる。例えば「知る・分かる」「ほど」「ため」「つもり」・・・小文の集まりで、サイデンスティカーの「つもり」の誤訳、太宰治の「いただく」の誤用な面白い話題が満載で、どこれも読み出すと止まらない。

読み終えて、不思議な感情に取り付かれた。
この本が面白いのは、日本語の知識を十分持った人間が、英語を通じて、日本語を考えると日本語の構造が極めて明快に分かるという不思議さである。コンテキストから当然推測される言葉(特に代名詞)を補うと、英語話者に、正確な日本語の意味を伝えることができる。それが分かるということ自体が、私の脳の一部が英語化していることに他ならない。

私が、ジェイ・ルービンを知ったのは、その著作『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』(畔柳和代訳、新潮社)で、流れるような論の展開に目を見張ったからである。この方は『ノールウエイの森』を初めとして多数の村上春樹の作品を英訳しておられるので、春樹を論じるのに不足はない。今回、彼のこの日本語論を手にして、これだけ深く日本語を理解する人に、翻訳してもらっている、村上春樹も幸せ者だと思った。

彼の英訳本は読んだことはないが、ひょっとしたら原文より読みやすいかもしれない。   

宮垣弘  2013・4

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