「イギリス童謡の星座」
     内藤里永子著、吉田映子訳詩
   大日本図書1993

Wさん。
私が英国の童謡や子供向け詩に惹かれていることは、前にも書きましたが、英語を使わずに、これらの詩の魅力を上手く伝えている本に出会いましたので、お知らせします。この本は「子供が愛し、感嘆し、魅せられた韻文を、とりあえず童謡と呼ぼう」と言うことで、マザーグース(ナーサリー・ライム)は当然のこととして、シェイクスピア、ブレイク、リア、キャロル、クリスチーナ・ロセッティ、デ・ラ・メア、スティーブンソン、AA・ミルンを中心に170篇の詩が紹介されています。私のような素人愛好家が好むような範囲は殆ど覆っていますし、ビートルズや現代詩人に及んでいます。これをこなれた翻訳で、英詩の持つリスム、韻を日本語に置き換えられていますので、そのような詩を読みながら、本文を辿ることになります。詩人の人となりや伝記を踏まえながら、著者の愛する英詩の世界へと誘ってくれます。

私は子供の詩のレベルにと止まっていて、なかなか大人の詩へ進めませんが、詩人のWさんがこの世界をどうう受け止められるか、大変興味があります。

英詩の世界で、大変羨ましいと思うのは、子供の読み物の中に、ごく自然に、詩が挿入されていることです。アリスの場合もそうですが、殆どの子供の本に、詩が散りばめられています。このこともこの本で1章を割いて取り上げています。大正時代の詩人たちが「赤い鳥」などで何とか詩の世界を割り込ませようとしたようですが、今はどうなのでしょうか?
この私が抱く童謡、子供向け詩の魅力を、英語を使わずに、上手に代弁してくれている不思議な本です。折があれば、Wさんにも一読をお勧めいたします。

著者、出版社へ

私は上記のように、この本は素晴らしい本だと感激いたしました。
ただ、既に多くの方が指摘しておられると思いますが、原詩が掲げられていないことに、なんとも言いようのない無い寂しさを感じました。訳詩集には原詩を掲げないのが、日本では普通で、特異なことではないかも知れませんし、あえて、訳詩一本で勝負するという潔ささえ感じますが、童謡に限っていえば、原詩がほしいのです。駅前ごとに英語の学校のある時代です。著者や訳詩者やこよなく愛しておられる詩の本来の響きを読者と分かち合って欲しいのです。

出版のコスト上の制約があったのかもしれません。巻末に一括収録でいいですから、版を改められる場合、是非、ご検討ください。欲を言えば、挿絵がもっと欲しいです。原書からの引用には、著作権など煩わしいことあるかもしれませんが、挿絵は童謡にはなくてはならない伴走者です。そうすれは、この本は更に多くの読者から愛されることでしょう。
04・1・18

読書の愉楽・私の書評