@竹山道雄『ビルマの竪琴』新潮文庫
やつれて帰って来る復員兵の中に、大変元気な一隊があった。隊長が音楽学校出で、この部隊は何かにつけ合唱をして、戦中も、戦後収容所に入っても、音楽によって生きてきたといっても良い。第一話は敵兵との合唱合戦で幕を閉じる。第二話は収容所の生活である。隊の有能な兵士、水島上等兵は、戦後、まだ抵抗を続ける日本兵へ、降伏の説得に出かけるが帰ってこない。収容所生活を送る隊の皆は、水島のことが気になってならない。そこに、彼そっくりのビルマの僧が現れる。・・・・そうこうしているうちに日本への帰国が許される日が来る。−−−この本は小学校高学年の子供のために書かれたもので、私は今、イギリス人男性と日系ブラジル人女性を相手にこの本を読んでいる。この人たちの学力で何とか読めそうだからである。どこか牧歌的?な所があって、イギリス人男性はこれが実際にあった話か疑い始めている。*

A会田雄次『アーロン収容所』中公新書
ビルマでの戦争がどうであったか?収容所が本当はどんなものであったか?それはまさに地獄そのものだったのである。会田雄次が一兵卆として、それを記録している。私は30数年前この本を読んで、深い印象を持っていて、今回改めて読んだのだが、私の感受性が増したためであろうか、その地獄絵図ともいえる情景に、阿鼻叫喚も聞こえる感じで、改めて胸をうたれた。勿論軍隊内部の過酷な仕打ちもさることながら、収容所生活もそれは屈辱に満ちたもので、ロシヤに抑留された人が、恨み骨髄に徹して、ロシア人の顔を見るさえいやだとなると同じように、イギリス人への消えることのない恨みが残った。著者は歴史学者としての観察も交えているが、圧倒的なのはその事実なのである。良くぞここまで書いてくれたと思う。人種の差、人間社会の構造や力学を学ぶこともできなくはないが、戦争というものの不条理な苦しみは、おそらく体験しないと分らないと思う。「とうとうかいてしまったか」と著者は言う。
この本を、いつか、このイギリス人と読んでみようと思う。

B会田雄次『アーロン収容所再訪』文芸春秋社
戦後20年経ってからのビルマ再訪記である。国情、自由の利かない状態で、文芸春秋や外務省のバックアップを得ての1週間の旅の記録である。駆け足、上滑りの旅としか言いようがなく、「兵どもの夢の跡」にしばし立つ著者はその感慨を深める時間がない。ただ、Aでも感じていた、ビルマ人の日本人への思いもかけない親しみと敬意が、この旅で確認される。

3冊の本を続けて読んだ感じでは、@創造の素晴らしさA実録の手ごたえBジャーリズムの手先となったわびしさとなる。

2008・12・15

追記
今日の朝日新聞朝刊は「ビルマに竪琴」の水島上等兵のモデルとなった方、中村一雄さんが17日、92歳でお亡くなりになったと報じた。
この方は13歳で仏門に入った方で、復員後、群馬県昭和村の雲昌寺の住職をしておられたとある。
2008・12・20

*ブラジル人女性は脱落して、イギリス人男性が残った。2008・10・8〜2009・11・16。途中2が月近く休んだが、毎週一回ずつ読んでいった。細部(どろどろした所)を省略して、戦争の無意味さを描いているというのが彼の感想。
私は水島上等兵がビルマに残ろうという、改心に心打たれた。それはイギリス人が行っている埋葬の姿を垣間見た時に起きている。戦争文学としては物足りない。
2009・11・20


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