鈴木真理のロンドン通信
 
No. 83                                                  娘とのイタリア旅行(1) PACE

娘の春休み、母娘でイタリア旅行に出かけました。日本の春休みは新学年の区切りに合わせて、毎年3月末から4月はじめと決まっていますが、英国・米国では、その年のイースター(キリスト教の復活祭)に合わせて毎年変動します。イースターは『春分後の最初の満月の次の日曜日』と定められているため、年によって、3月半ばから4月半ばまで様々です。今年は遅めのイースター(4月20日)だったので、春休みも4月12日からと遅いスタートになりました。
 

イタリアには家族で何度か旅行したことがあるのですか、特にローマとフィレンツェについては娘が幼少であったため、本人は何も覚えていません。ちょうど学校でローマ帝国やルネッサンスについて学習している時期でもあるので、この機会に本物をじっくり鑑賞させたいと思い、今回の旅行を計画しました。
 
授業で学んでいるのは、Western Civilization(西欧文明)という科目です。ギリシャ文明から始まって、ローマ帝国、ルネッサンスから近代までを学ぶのですが、暗記が重要になってくる日本の世界史の授業と違い、自分でリサーチをしてエッセイを書いたり、調べたことを皆の前で発表したりすることが学習の中心です。
 
ルネッサンスの学習では、生徒がその時期の主要作品を1つずつ担当してリサーチし、授業で発表します。娘はミケランジェロの「ダビデ像」が担当で、パワーポイントを使って資料を作成し、それをプロジェクターで皆に見せながら10分間ほどのプレゼンテーションをしました。クラスメートの発表では、ラファエロのフレスコ画「アテネの学堂」、ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の天井画が娘にとっては特に印象的だったそうです。
 
そいういわけで私たちのイタリア旅行は、ローマでは「アテネの学堂」とシスティーナ礼拝堂のあるヴァティカン博物館、フィレンツェではダビデ像のあるアカデミア美術館を訪れることを、一番の楽しみにしていました。
 
イタリア入りしたのは4月13日。イエス・キリストが十字架での受難を前にエルサレムに入場したパーム・サンデー(シュロの日曜日)にあたります。これは、エルサレムの人々がシュロの枝をうち振ってイエス様を歓迎した出来事にちなんでいます。さて、ローマに入った私たちは、予想もしなかったものに迎えられることになります。
 
レオナルド・ダ・ヴィンチ空港に無事到着し、列車でローマ中心部に向かいました。所要時間は約30分。最初は田園風景が広がっていましたが、都心に近づくに連れ、高層アパートが目に付くようになりました。そのアパートのベランダを注意してみると、洗濯物だけでなく何かがはためいています。虹色の旗です。中央に白抜きでPACEと書かれています。それが全体の2割ぐらいのベランダに掲げられています。イタリア語の分からない私にも、それが平和への意思表示であることがすぐにわかりました。同時に、旧約聖書「創世記」ノアの箱舟のエピソードで、大洪水のあと神が契約のしるしとして空ににじをおかけになったことを思い出しました。
 
色鮮やかなPACEの旗に迎えられ、私は明るい気分になりました。英国では、イラク戦争参戦が決定すると戦争反対派の閣僚が辞任。また開戦後は、「自国の若者が命をかけて戦っている以上これをサポートするのが当然」という論理で、戦争反対の声はほとんど聞かれなくなり、早期終結を願うのみとなっていました。それだけに、個人が自分のベランダを利用して平和の意思表示をするというイタリア流のやり方が、とても新鮮に思えました。南欧の明るい日射しに映える虹色の旗に、英国とは全く違う国にきたことを実感し、これからの旅の期待を膨らませました。

03・04・29
 
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