ロンドン通信 128

ロンドンの空を飛ぶ
   メアリー・ポピンズ



今ロンドンで最も話題の舞台は、昨年12月に上演が開始されたミュージカル「メアリー・ポピンズ」です。ジュリー・アンドリュース主演のディズニー映画と、「チム・チム・ニー」で始まる煙突掃除屋さんの歌でおなじみのメアリー・ポピンズです
が、舞台化されるのは今回が初めてのことです。

数々のヒットミュージカルを手がけているキャメロン・マッキントッシュと、ナショナルシアターの元芸術監督であるリチャード・エアが製作に関わっていると聞き、私はヒット間違いなしだろうと思って、公演も始まっていない1年以上前からチケットを予約していました。ロンドンが舞台というのも、魅力のひとつでした。

開幕直後から各紙のレビューで絶賛され、私が訪れた日も、当日のキャンセル券を求めて、劇場前に長い列ができていました。

メアリー・ポピンズのバッグから、フロアランプ、鉢植えの大きな観葉植物、ベッドまで飛び出す魔法、グチャグチャになった台所があっという間に元通りになる不思議、煙突掃除人たちの見事なタップダンス、見ているほうもからだがひとりでに動き出しそうな調子のよい音楽と息のあった踊り、おなじみの歌などに心から酔いしれ、ミュージカルの楽しさを満喫した夕べでした。

メアリー・ポピンズは、Nanny(子供の養育係)として銀行員一家のもとにやってきます。一家の父親は子供時代に厳格なNannyに育てられたため、自分の妻や子供に愛情をもって接することができません。そんな夫に妻はどう対応してよいのかおろおろするばかり。二人のこどもたちは父親の愛情を求めているのにそれが得られず、父親の厳しいしつけと怒鳴り声に辟易しています。はじめは家族4人がバラバラといった感じなのですが、メアリー・ポピンズの出現により、このギクシャクした家族が、お互いのことを思いやれる家族に成長していきます。

最後の場面でメアリー・ポピンズは、一家に別れを告げ、トレードマークの傘を片手に星空のかなたに消えていきます。実際に観客席の上を通過し、劇場の天井へと吸い込まれていきました。あっと思わせる場面が一杯詰まった、元気の出る楽しいショーにふさわしい幕切れでした。

メアリー・ポピンズのミュージカルは、P.L..Traversという女性が1934年に第一作を発表した、メアリー・ポピンズシリーズの本がもとになっています。メアリー・ポピンズがロンドンの劇場で高く舞い上がるまでに、舞台裏では、長い期間にわたって多くの人々が上演実現に情熱を注いできました。

製作者のキャメロン・マッキントッシュは、作者のTraversに上演権を認めてもらうまでにまず15年を要し、次に映画をつくったディズニーとの交渉にさらに10年、その間に構想をあたため、才能ある作曲家、作詞家、振付師など数多くの専門家を集結して、このミュージカルを完成させました。作り手の熱意が伝わって、見るものの感動を誘うことを実感した舞台でした。

05・2・24      目次