テラスハウスが並ぶ通り。路上駐車の車が列をなす都会の風景。
ロンドン通信 115




SQUARES
 ロンドンの秘密の花園





   
鈴木真理


 同じテラスハウスの裏側。自然が広がっています。

ロンドンは今が花粉症の季節です。私は春先にロンドンの郊外から都心部に引っ越してきましたが、例年より症状が重いように思います。ロンドン中心部のほうが郊外より花粉がたくさん飛んでいるなんて不思議だなと思っていましたが、最近その原因のひとつに思い当たりました。

ロンドンには、リージェンツパーク、ハイドパークなど大きな公園が数多くあります。しかしそれ以外にも、一般に公開されていない庭園がたくさん存在するのです。6月のある週末、OPEN GARDEN SQUARES WEEKENDがロンドンで開催されました。これはふだん非公開の庭園を一般の人に公開するもので、今回の催しには、100を超える庭園が参加しています。

SQUAREというのは、GROSVENOR SQUAREなどのように地名になっているものもありますが

SQUAREとして地図に記載されていなくても、四方を通り、あるいは建物で囲まれた土地のことをさします。形は正方形でなくてもかまいません。

この催しのガイドブックを手にしてみると、私の家の近所にも公開されているSQUAREがいくつかあります。そこで当日早速でかけてみました。ガイドブックの説明によると、最寄の駅に行くのに普段歩いている道沿いに庭園の入り口があるということです。その道は何度も通っているのに、今まで庭園があるなど、気づいたことはありませんでした。テラスハウスとテラスハウスの間に、車庫の扉のように見える黒塗りの板塀があり、そこが庭園への入り口になっていました。普段は閉じられていて、もちろんなかの様子は見えません。当日も、OPEN GARDEN SQUARES WEEKENDのポスターが貼られていなければ、見逃してしまいそうです。

SQUAREの中に入ると、そこには表の通りとは別世界が広がっていました。一面に緑の芝生が広がり、大きな木が何本もあって快適な木陰を作り出しています。あちこちに花園がもうけられ、子供の遊び場もあります。ここは周囲の住宅に住む人々の、共通の憩いの場となっています。私が出かけた日は、英国の人が一年中待ち焦がれるまさに理想的な夏の日であったため、水着姿で日光浴を楽しむ人々、読書をする人々、ピクニックを楽しむ人々で、芝生はたいへん賑わっていました。

このSQUAREの伝統は18世紀にさかのぼります。住宅群の中央に住民専用の緑地スペースを設けると、居住者の住環境を向上させると共に、町の中に自然を存続させることができます。そこで住宅開発業者は、住宅をSQUAREとセットで開発し、好評を博しました。ロンドンが都市として大きく成長するにつれ、このコンセプトも周辺へと広がり、今でもテラスハウスとSQUAREという組合せは、ロンドンの町の特徴となっています。

普段歩いている通りの裏にこんな秘密の庭園があることを知り、花粉症がひどいのも納得できました。町の中に自然が残っているのは素晴らしいことですから、私の花粉症ぐらい我慢しようと思った一日でした。


04・06・30     目次へ