『聊斎志異』目録
       
         第8巻


角川
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読了日 物語への手引きと評(私のコメント)   分類
封三娘 11/1/29 裕福な家庭の美しい娘、十一娘が縁日で、美しい娘封三娘に出会い、親しくなる。封三娘の家はそれほどでもなく交際は十一娘の家で行われ、封三娘が姿を見せないことが続くと、十一娘は寝込むほどの間柄となる。やがて封三娘は十一娘に結婚を勧める。勧める男は貧乏な孟という男であるが、出世間違いのない人相をしているという。話がすんなりと進まないうちに十一娘は亡くなってしまう。孟嘆き悲しむが、話は思わぬ成り行きとなる。・・・
【評】結婚に、良家の男が割り込んだり、死んだのが生き返ったり、ロミオとジュリエット的場面があって面白い。二人の女性の関係がレスビアンに近く、十一娘が孟と結婚してからも、封三娘と一緒に住みたいため、孟の第2夫人にしようとするところが凄い。起伏はあるがいやみの無い物語。
狐の仲だち
狐夢 11/2/3
髭面で太った豪快な男の話である。狐に会いたいと思っていた所、知人の別荘でそのチャンスが訪れる。最初は40過ぎの狐、次に娘。この娘とできる。「ずいぶん重たかった」と狐。あと残る3姉妹の登場して、祝いの不思議な酒宴が続く。・・・
娘に碁を教えてもらったりして平穏な日が続くが、やがて別れのときが来る。
【評】この男は著者の友人である。しかも「青鳳:(1巻)の愛読者。「青鳳」の主人公も豪傑で、良い狐に出合っている。狐が著者によって記録されることを願っているのがおかしいし、大変珍しい。この呑兵衛の男はいい思いをした。
狐女を慕いて
章阿端 11/2/4 上篇と同じく、怖れを知らない男が主人公。男は幽霊が出るので安値で売り出された大きな屋敷を買ったのだが、最初に女中が、ついで妻が亡くなってしまう。それでも男がその屋敷にとどまっていたら、最初は醜婦、ついで若い幽霊が出てきて、後者と懇ろとなる。これが章阿端。この幽霊に妻を連れ戻して欲しいと頼むと冥府の役人に賄賂をつかませて連れて来てくれる。章はやがて亡くなるという。幽霊が死ぬと「せき」(漸+耳)という。妻の方も冥界に帰らなければならなくなる。・・・
【評】幽霊(鬼)がさらに死に「せき」になるとは初めて知った。冥界で、賄賂が通用するのは、他の篇にも見える。冥界へ金を送るのは、紙のお金を焼くことによって行う。
死んだ女の愛情
花姑子 11/2/6 頭もよく、義侠心があり、生き物への哀れみも強く、猟師から獲物を買って話してやるという安という男が主人公。母の実家の葬式から帰りの山道で、道に迷う。老人に出会い、その家に行くがそこには美しい娘、花姑子がいた。言い寄るが不成功に終わり、帰って、家の者に命じて、縁組を申し込もうとするが、相手が見つからない。安は悶々として衰えてしまう。周りの者が看病疲れでうとうとしているところに、花姑子tが現れる。持ってきた餅を食べているうちに快方へと向かう。花姑子は恩返しのために来ているというが、安は何のことか分からない。娘と懇ろになるが、やがて別れの時が来る。再び、探し求めることになり、再度会うが、安の鼻に舌を入れ、それが元で、安は死ぬ。話はこれで終わらない。
【評】助けた動物の恩返しという話はよくある。7巻八大王は鼈であったが、今度はのろ鹿。安と花姑子の接触の様子は細やかに描かれている。香、匂いが大切な働きをしている。
鹿の恩返し
西湖主 11/2/10 陳秀才は貧乏で、副将軍の秘書をしていた。洞庭湖で副将軍が猪婆竜(大きな鼈のような生き物)を射止めたのを、陳は命乞いをして、逃がしてやった。一年後また洞庭湖に来て、今度は嵐で遭難に会い、九死に一生をえる。死体同然の従者も蘇生し、知らない土地を、空腹を抱え彷徨う。そこに数十騎の狩をする女の一群にあい、馬卒から、食べ物を恵んでもらうが、一行に邪魔にならぬように、遠くに行くように言われる。山の中をゆくと、立派な屋敷に迷い込んでしまい、そうこうしている内に、一行が戻ってくる。物陰に隠れると、女主人はブランコに乗るという。得も言えぬ美しさ。去った後に一枚のハンカチが落ちていたのでそれに感激の詩を書いてしまう。
それから、緊張の物語が展開する。
【表】これも助けた生き物の恩返しの話。一度話が終わったかに見え、再び、洞庭湖で陳に出合う幼な友達を登場させ、
ひねりを効かせているのが良い。細部が上手く描かれている。
ぶらんこの乙女
伍秋月 11/2/13 王鼎はいい男だが、18才で妻を失い、放浪の旅に出ることが多かった。これも揚子江のほとりに泊まった時のことである。十四、五の娘が夢に現れ契る、幽霊と知りつつ交わるのであるが、やがてその素性を知ることになる。幽霊伍秋月も次第に生気を得て、益々深い交わりが続く。冥土の都会を見に連れて行ってもらったとき、兄が役人にしょ引駆られている所に出会い、役人を切ってしまう。兄の手を引き逃亡、家に帰ってみると、兄は2日前に死んでいた。兄は生き返ったが、伍秋月は冥土で囚われの身となっていた。彼女もやがては生き返るのである。
【評】幽霊と交わり精をもらす所などは、台湾・文源書局有限公司ではカットされている。幽霊が夢に這いいてくるというのも面白い。
伍秋月の父親は易を良くし、彼女の運命もその通りとなる。
彼女の助言により、仏に帰依するようになる。
夢女房
蓮花公主 11/2/18 男が昼寝しているところへ、褐色の人が現れる。何者だと言うと王様が貴方にお越し願いたいと言っていると言う。付いて行くと立派な御殿に着き、王様から丁重な歓待を受ける。王様の聯句に「君子蓮花を愛す」と付けたら、王の娘の蓮花が現れる。絶世の美女で男は一目惚れしてしまう。異類であることを王は明らかにするが、やがて男は蓮花と結ばれ夢と疑いたくなるほどの生活を送る。ある日、突然、王様の国に異変が起き、終局へ向かう。
【評】男が夢かと疑って、女の寸法測るはおかしい。もし夢だったとしても思い出すよすがになるというのである。実は夢であったことが明らかにされる。
蜂の引越
緑衣女 11/2/18 山中の寺で勉強している男へ、窓から女が声をかける。緑衣の美人である。どうせ異類だろうと分かっていたが、親しくなってしまう。ある晩、酒を飲みながら、女に歌を歌って欲しいと頼むと、蚊のよう小さい声で歌う。外に漏れ聞こえるのを尾擦れている風である。ある日お別れの時が来たと女はいう・・・帰る際、見送って欲しいという。女が帰った後、悲鳴のような声が聞こえるので出てみると誰もいなくて、蜘蛛の巣に掛かった蜂がいたので、助けて持ち帰る。
【評】愛すべき短編。最後の1行が光る。映像化する人がきっと出ることだろう。
緑衣の女
荷花三娘子 11/2/25 宋が田圃も見回りしていると、一箇所、稲が揺れているので行ってみると男女野合の場面であった。男か逃げるように去ったが、女は無言、よく見ればいい女である。肌も美しく・・・と宋はその気になり、自分の書斎へと誘う・・・女と数ヶ月過ごすが、ある時、チベットの僧が宋をみて、妖怪に取り付かれているという。果たして宋は病気になり、毎夜、女が求めてくるのも耐え難くなる。女を狐だと考え、先の僧に護符をもらう。そして、言われたとおりすると、果たして、女の正体明らかとなる。煮殺すことになっていたのだが、ふと哀れに思ってたすけるのである。後半は、その狐の恩返しとして、別の女が紹介され、女との生活が始まる。
【評】青少年用の本からは削除されている箇所がいくつもある。宋は二人の女性(狐)と深い関係を持つことになる。多くの主人公と同様、どこか優しさがある。
蓮の花の女
金生色 11/2/28 金は木という家から嫁をもらい、子供が1歳になるころ、自分は死ぬことがわかったので、嫁に、死後再婚してもいいこと、母に嫁を再婚させるように頼んだ。やがて金は死ぬが、お悔やみ来た嫁の母が、娘を今後どうするつもりかと、聞いたので、金の母はむっとして、「後家を通させる」と応える。このあたりで歯車が狂ってしまう。嫁は再婚すべくめかし込んでいるのに、目をつけた、与太者が接近してくる。二人が懇ろにしているところに亡者が現れ、与太者は裸で逃げるのだが、事もあろうに人妻のベットに。・・・・
【評】この篇は三面記事的な陰惨な事件で、好きになれない。母親、親戚が引っ掻き回して不幸を呼んでいるようだ。
人をのろわば
彭海秋 11/2/28 彭秀才は家離れた所に書斎があり、折からの中秋に、話し相手もないので、余り好きでは邱を読ん酒盛りをすることにした。飲んでいる所に知らぬ男が訪ねてきて、同じ姓で名は海秋と名乗り、この名月に風流人と呑みたいという。酒盛りが始まり歌のやり取りとなり、芸妓を呼ぼうとするがいない。海秋は、自分が外に女子を待たせてあるのでそれを入れようということになり、呼び入れてみると、16歳の美女、なんと西湖から連れて来たと言う。素晴らしい歌を歌い、海秋も笛を取り出し合わせる。西湖と言えば此処から千里も離れているのに、こんな女を連れてくるなんて、あなたは仙人かと言えば、そんなことはないが、今日の西湖の月を素晴らしい行ってみないかと言う。天の川から船を調達する。・・・・
【評】なんの因縁で主人公はこんないい目を見るのだろうか?「聊斎志異」らしい、楽しく、スケールの大きな、幻想的な好篇である。哀れで滑稽なのは馬に変えられた邱である。
西湖からきた女
新郎 11/3/4 結婚の宴会中、新郎が庭に出てみると、新婦が盛装のまま出ようとしている。新郎が付いて行くと、新婦の家へ導かれ、そこでの滞在が伸びて行く。一方、新郎の見えなくなった後、新婦が残り、婿不在の状況が続く。
【評】新婦が2つに分離しているので、「?女離魂」の味わいがある。
新郎の行方
仙人島 11/3/7 王は秀才で将来は偉くなると自信をもっていて、同胞を蔑む傾向がある。ある日、仙人と出会い、仙界へ連れて行ってもらう。多くの仙人が集まり見事の宴席であった。帰りに、仙人の言いつけに従わなかったので、天から海に落ちる。少女に助けられて、連れて行かれたところが、仙人島であった。その島の主?の16歳の娘ロ結婚する。妹の10歳の妹がなかなかの才女で、秀才の王は顔色なしである。
【評】長編、詩歌のやり取りもあって、難しいが、仙界と下界の行き来が極自然になされている好篇である。秀才で自信満々の男がいつの間にか仙人に洗脳されていくのが面白い。
仙人島
胡四娘 11/3/20 程は赤貧の書生である。胡公の書記に雇われるが、胡公は程が見所有りとみて、妾腹の末娘の四女の婿とした。兄や姉たちは羽振りがいいので、程、四女夫婦を軽んじ、下女たちの揶揄の対象ともなっているが、二人とも動じない。3番目の姉の生みの親、李夫人だけは四女をかわいがる。胡公の力添えで学校にもはいり、科挙の試験を控えて、胡公がなくなったので喪に服して受験できなかったが、喪が明けて、追試を受けることが出来た。四女から、試験に通らないと、もう自分たちの居場所がないので、頑張って来てと送り出されたが、結果は不合格であった。程は妻に顔向けできなくて、都へいた。そこで李という役人の幕下ふはいる。ここで運が開けてくる。

【評】鬼も狐も出ない、渋い中篇の傑作である。シェイクスピアが知っていたら、一遍の戯曲を物したであろう。程も四女も見事な人物で、よく描けている。その四女が最後にいやみを言うのも、人間的で面白い。素晴らしい読後感を得る。
利口な末娘
僧術 11/3/20 黄は家柄もよく才能もあり、出世の志もあるのに、芽が出ない。近所の僧が、冥土の王に賄賂を贈り福運を招いてやろういう。大金を準備して、いざ呪い入ると、お金を一部けちってしまう。その結果はどうなったか
【評】原文11行の小編であるが、ほろ苦味の残る好篇。
僧術
柳生 11/3/21 周の友人、柳は観相術に長けている。柳の予言どうり、妻が亡くなると、後添えのことについて、周は柳に占ってもらうと、たった今、周が出会った乞食のような男が将来の舅であるというので、周は怒ってしまう。柳の先触れによって周の人生は進む。
【評】観相は「聊斎志異」の中によく出てくる。大抵は当たる。蒲松齢もこれを信じていたのではないか?
観相術
聶政
ショウセイ
11/3/22 行状の悪い王がいて、民間のよさそうな女を浚っていた。王の妻もその対象となって連れ去られるのだが、王は聶政(戦国時代の刺客)の墓地に逃げ、妻と遠目に別れを告げようとした。妻が王を認めて慟哭すると王も釣られて声を出してしまって捕まってしまう。そこに・・・・
【評】原文7行弱。日本語で倍は掛かるだろう。
剣客の墓
   二商  8 11/3/22  商兄弟は隣同士に住んでいるが、兄が裕福で弟は貧乏。食べ物がなく、兄の所へ、米を無心に行くが、兄の妻につっけんどんに追いかせされる。兄の家へ悪党が闖入したとき、弟の所に助けを求めるが、嫁ははねつける。しかし、賊が兄夫婦を火あぶりにしようとするのを知って、弟は子供と共に行き救い出す。同様のことが又あって、兄の方は不幸の中に亡くなる。弟は5歳の遺児の面倒をみる。・・・・
 【評】親族に関係は嫁が入ることによって悪い方向に行くことが多い。女性が悪役を演じるのだが、作者が男だからであろうか?両方の妻の言い草まで描かれていて面白い。現実にありそうな話。
人   兄弟愛情
禄数 11/3/22  身分は高いが、品行が悪く、妻の諌も聞かない。道士の占いによると「米20石、粉20石食べると寿命が尽きる」と言う。男はそれなら後20年以上は生きられると言うのだが・・・
【評】原文4行弱。見事。
天寿
ここで、「聊斎志異」は半分である。原文は文語であるが、正直な所、私の漢文の力では難解で、翻訳に頼りながら読んでいった。各編とも、面白く、深い読後感を得る話が殆どであった。鬼(亡霊)や狐がでてくるが、共感するものが多く、人間性の深いところに触れていると思う。読むほどに「聊斎志異」が好きになる。

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