『聊斎志異』目録
       
         第6巻


左は柴田天馬訳『定本 聊斎志異』修道社昭和30年(1955)刊。配列は訳者独自のもので、同じく天馬訳の角川文庫本の配列もとも異なる。造本、装丁がしっかりしている。
角川文庫
巻数
読了日 物語への手引きと評(私のコメント)   分類 中国古典文学全集
劉海石 8 10/7/29
20/8/15
海石と滄客は若いと兄弟の契りを結んだがその後離れ離れになり付き合いは途絶えていた。滄客の家は裕福だが次々と不幸が続く。そんなある日、海石がひょっこりと遣って来て、その中に、狸が災いしていることを突き止め、問題は解決する。
【評】白髪を抜くと魔力を除去できるというのは、グリムか何かにあったような気がする。仙人の弟子となっている海石が淡々と描かれている。
これには:松村恒さんの論文がある。
日本印度学仏教学会「印度学仏教学研究」57巻2号
豚になった狸
犬燈 10/7/29 当直の下男が、二階の方から明星のようなものが落ちてくるのを見る。それは犬になり後をつけると女に変わる。帰って、寝たふりをしていると、その女がやって来る。
【評】短編ながら優しさがあって、後味が良い。
犬になった燈火
連城 10/8/4 喬は才人で腹も据わっている。友人の顧がなくなった時も、親身に遺族の世話を焼く。そのためか次第に貧乏になって行く。史という擧人に連城といういい娘がいて、刺繍も上手いし、本もよく読んでいる。史が婿選びのために、「刺繍うに倦む」という大の詩を、青年たちから求めたところ、喬も応募して、それが連城の心を捉えた。今日も彼女のことを思いつめるよになった、しかし、問題は、喬が貧乏なことだった。父親は別の男と婚約させたが、連城は肺をやみ衰えて行く。治すには男子の胸の肉が必要だという。

【評】あの世とこの世とを行き来するが、大変よくできた良い男と女の物語。ドラマとして良くできている。晴女離魂を思わせる一面がある。「士は己を知るものために死す」
刺?のたくみな少女
汪士秀 10/.8/7 汪士秀は力持ちで、親子とも蹴鞠が上手だった。父は40才あまりで河で溺れ死ぬ。それから、7,8年後、汪が洞庭湖で、夜、停泊しているのことでである。月明かりに練り絹のような湖面で、仙人らしい男たちが、酒盛りをしている。給仕役の男は汪の父親らしい。やがて蹴鞠となり、それをきっかけに父子は再会する。
【評】仙人たちは魚の妖精、蹴鞠は浮き袋。最後の一行でリアリティーが生まれる。
洞庭湖の蹴鞠
小二 10/.8/7 趙夫妻は仏教徒で、その娘、小二は利発で器量もよい。兄と一緒に勉強させたら、5年で五経を覚えてしまった。同じ塾で3才上の丁も立派な少年で、互いに好きあうようになるが、趙家は、小二をもっと良いところに嫁がせようとしていて、婚約は成立しない。趙一家は折からの白連教の反乱軍に加わり、小二はその妖術の才で重用される。丁が接近し、暴徒に加わっている愚を説き、小二と駆け落ちする。・・・
主として、小二の妖術と才覚で、自分たちだけでなく、周りを幸せにする。
【評】スーパーウーマン的小二の妖術も見事だが、小二を愛し、反乱軍から足を洗わせた丁という男もすごい。異史氏曰くでもそのことに触れている。
魔法を使う女
庚娘 10/8/26 金一家は動乱を逃れて南の向かう所、若い妻を連れた王と同行することになる。金の妻「庚娘」はそれに反対するのだが、結局、同じ船に乗り、結果は惨憺目にあう。問題は王なのだが、金の妻を我が物としようとしての企みであった。是に対して、庚娘の復讐は功を奏して、列女として祭り上げられる。
【評】私はこの物語が好きである。列女とはこのようなものであろうか。王の妻も気持ちのよい女である。「聊斎志異」はどうしてこんなにいい女を描くのだろうか?
かたきを討った女
宮夢弼 10/9/2 柳は資産家で、食客100人も抱えていた。その中に宮夢弼という男は、柳家にたかることもなく、柳の子の和と馴染んだ。和も宮を叔父のように慕った。やがて、柳家は傾き立ちいたらなくなったときも、宮が助力する。以前に素封家の黄の娘と縁組が出来たが、柳家没落のため、黄は拒否したが、娘のほうは、嫁ぐ意志が強かった。そうこうしていると、黄家に賊が入って、これも傾いてしまう。それから和と黄の娘の話となる。思いがけない幸運は宮夢弼が和と遊んだ時の瓦石が銀に変わっていたことである。・・・
【評】宮夢弼という男は一体何者だったのか?不思議な物語である。婚約した若い女が、婿方の没落にかかわらず、押しかけて行くという話しは、「聊斎志異」によく出るが、そのような娘はみな素晴らしい娘である。
石ころを銀に
狐妾 10/9/3 劉が知事だった頃、役所に4人の女(狐)はやってきて、その一番下の女と縁が出来てしまう。狐でありながら、申し分のない女である。欲しいものはかなえてくれる。例の如くその女を見たいという者が出てくるが、女は会わない。
狐の女に見込まれた男は幸せである。結末はちょっと意外。
【評】抱いた可愛い娘が狐であることがわかっていたら、尾が付いていない探って見たくなるのが、男心というものであろう。狐はそれを察知する。こんな描写もあってとても楽しい。
狐の妾
雷曹 10/9/6 楽と夏は小さいときから親しく、最初は夏の方が有名になるが、楽の方も追いつく。しかし、夏は短命で、遺族を楽が面倒を見る。楽は学問では生活できないと商人になる。商用の旅の途中に、腹を空かした男に出会い。その男に食べ物を振舞うとその食べることといったら尋常ではない。この男との縁がつながって旅を続けるのだが、揚子江を渡るときに雷雨にあう。大食漢が救ってくれる。楽はふと雷がどんなものか知りたいと思う。
【評】最初の夏と友情、大食漢への情けがけ、これが思わぬ結果を生み、短編ながら心温まる話となっている。
「雷の恩返し」
雷の恩返し
賭符 10/9/6 話し手の亡き父は、韓という仙術を使う道士と親しく、その関係で叔父さんもその道士を知っていた。その叔父さんというのが博打好きで、ある僧侶と博打を打って、全財産を巻き上げられる。ここで韓は叔父にまじないの札と一貫文を与える。
【評】博打のやりそうなことが書いてある。異史曰くで博打の怖さを強調している。
賭博のお符
阿霞 10/9/8 景星と陳生は垣根を隔てて隣同士、陳が首吊りしようとしている女を助け、家に連れて帰ると大変な美人、情を通じようとすると声を出して抵抗する。それを聞いた景が覗きに来ると、女は逃げ出す。その夜、景が寝ようとすると、昼間の女阿霞・が現れる。親しい関係が続いたあと、女は二人の関係を両親に見てもらおうと、10日ばかり離れることになる。景はその間、妻を無理やり離縁して、女の帰りを待つが、一向に帰ってこない。元妻は敵対する家に嫁す。阿霞が現れにことによって景の人生が狂ってくる。・・・・
【評】2ページ満たない小品だが、人生が詰まっている。もし、ご縁がないのなら、最初の陳のように「徳も薄く、運もないので、将来を託するに足りない」早く見切りをつけてもらった方が有難い。
幽霊と薄情な男
   毛狐 7   10/9/12  馬は貧しく嫁がいなかったが、ある日、畑仕事をしていると、美人が現れたので、挑みかかると、女は夜、行くという言う。
その夜から付き合いが始まるのだが、馬は女が狐だと知っているので、金銭の無心が始まる。数ヶ月経て、女は馬に3両の金を与え、近く、縁談があるという。
【評】狐は相手に合わせて化けるので、たいしたことのない男には、たいした結果をもたらさない。これは前話と共通。我々のようなたいしたことのない男も相手してくれるのも嬉しい。
 狐  毛狐
青梅 10/9/14 青梅は狐の女と程という男との子であるが、美人で聡明に育つ。程がなくなり、叔父の所に身を寄せるが、叔父はならず者で青梅を王という人に売りとはす。そこの娘、阿喜にかしずくことになる。目で聴き、眉で話せる間柄となる。王の借家人に張という貧乏な、品行方正な男がおり、青梅が目に付け、阿喜に勧める。ところが、話が進ます、二人の間には、有為変転がある。
【評】青梅の性格は大変変わっている。狐はどこか一徹なところがあって、人間より偉いと思うことが多い。
貧乏書生の張と言う男も福徳のある男である。
美しい召使
田七郎 10/9/30 武は付き合いの広い男であるが、夢で頼るべきは田七郎と知らされて、彼を求め、彼と生涯の親交を取り結ぶ話である。七郎は素朴な猟師であり、主人公の謂われない好意にはやすやすとは応じない。そのように背後、母親がいて指導している。田七郎のあるトラブルに武が力を貸すことによって、関係は深まる。武一家に起こる不幸のあだ討ちを見事に田七郎が果たす。
【評】山家の男の律儀な対応が面白く、さらにそれを支える老母の姿がよく描かれている。武の叔父さんの助言だど、現実味のある時代小説風の物語である。
田七郎が豹の狩猟のいざこざで、人を殺してしまったとあるが、そのころの中国には豹がいたのかしら?
友情
羅刹海市 10/12/06 ちょっと長編なのでつまずいてしまった。井上靖が小説にしていたように思う。
主人公馬は頭の良い美男子だが、父の言いつけ商人として立つ。ある航海で時化にあい、漂流したのが、なんとも奇怪な姿のものが住む国であった。この中で、次第に王に認められるのだが、回りのものは馬が異人だとして、よそよそしくなる。しばらく暇をもらい、村人に連れられた、海市へ行くことになる。そこで竜王に見込まれて、その娘をもらうことになるが、ふと望郷の念に捕らえられて、帰郷したくなる。そこら夫婦の美しい物語が展開する。
【評】醜美の判断が逆転している国に着くところが面白い。竜王との娘との婚姻は美しい話である。分かれるにあたっての姫の言葉の中に、「住むところが異なってても、心が同じなら、夫婦だ」は心打つ。佳篇。
なお羅刹国は『大唐西域記』巻11 見えるという。
羅刹ー大辞泉  梵)rkasaの音写。速疾鬼・可畏と訳す》大力で足が速く、人を食うといわれる悪鬼。のちに仏教に入り、守護神とされた。
観音経にも見える。
羅刹の海市
公孫九娘 10/12/07 あの世の人(鬼)の仲人役をやる羽目になった男の話である。縁結びをしたのはいいが、居合わせた九娘(あの世の人)が絶世の美人で好きになる。あの世の人とこの世の人と夫婦になれるのか案じるが、取り持った夫婦が、男を入婿となるようアレンジしてくれる。昼夜を上手く使い分けながら、楽しいときを過ごすが、九娘が何時までもあの世にいてはいけないと分かれることになる。
【評】大変文章が難しい。翻訳を頼りに何とか読める。「聊斎志異」らしい好篇である。シェイクスピアを凌駕していると思うほど。最後の終わり方も上手い。
幽霊無情
狐聯 10/12/06
11/02/10
十数行の短編。堅物の男、美の狐姉妹に挑まれてかたくなにはねつけると、今度は聯句を挑まれる。手も足も出ない。対句一つ作る才覚のないのを狐は笑う。
【評】狐の聯句は漢字の面白だを用いたもので翻訳不能。
狐女の連句

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