『聊斎志異』目録

     第4巻

『聊斎志異』の好きなことを「聊斎癖」と言うそうだが、日本での「聊斎癖」の人は、国木田独歩、小金井みき子(鴎外の妹)、蒲原有明、芥川龍之介、佐藤春夫、木下杢太郎、太宰治、日夏耿之助、安岡章太郎・・・柴田天馬訳『定本 聊斎志異』の月報の中に登場する人として、阿部知二、武田泰淳、井伏鱒二、魚返善雄、吉田健一・・があり、・これらの方も「聊斎癖」と思われる。これは昭和30年までの話であるが、それからさらに増えていることだろう。

角川文庫
巻数
読了日 物語への手引きと評(私のコメント)   分類 中国古典文学全集
4 阿繊 2009/2/6 旅の商人が雨に見舞われて、定宿には行けず、ある民家に泊めてもらう。そこに美しい娘がいて、弟の嫁に貰い受ける話がまとまる。話は順調に行き、弟も幸せになる。3,4年後、同じ所を通った商人が地元でその話をするあたりから狂ってくる。・・・・

【評】美しく、心優しく、働き者であれば、それが狐であろうと鼠であろうと良いのではないか。「聊斎癖」になるのは登場する女性が素晴らしいからである。
家を富ます女
瑞雲 2009/3/27 瑞雲は名妓で、富裕な客が押し寄せている。賀という書生は評判のいい男だが、家には金がなかった。しかし、1度だけ祝儀を工面して会うことが出来た。そのとき瑞雲は詩を与えて、一晩買ってくれないと頼むが、賀にとっては無理なことであった。全財産を売って、一夜を過したいとも思うが、後が続かないことは明らかである。一方、瑞雲の旦那選びが始っていたが、なかなか決まらない。ある日、一人の客が「惜しいな!惜しいな!」といって指で瑞雲の額を抑えて帰る。瑞雲の額の黒いものができて、やがて、顔中に広がり、もう妓としては売れなくなってしまう。賀は安い値段で瑞雲を身請けし、妻にする。これが話の前半。

【評】いい男といい女の話は『聊斎志異』の得意とするところ。私はこの話が好きである。「炭焼きの己が妻こそ黒からめ」誰の句か忘れたが、黒くなった瑞雲を愛する賀の気持ちが分る。
婿えらび
龍飛相公 2009/3/27 酒飲みでちゃらんぽらんな男がいて、ある日、死んだ従兄弟が向こうからやってくるので、その従兄弟は既に死んでいるのも忘れて、「最近どこにいるんだ?」と声を掛ける。従兄弟は自分はもう死んでいて、あの世で記録係をしている。君の名を3日前に見た、「暗闇地獄」にあったと。男は驚いて何とかならぬかと訴えるが、どうにもならない。すっかり身を改め、隣の細君と出来ていたのも手を切った。ところが隣の夫君の方は復讐の機会を窺がっていた。・・・・暗闇地獄はどんなものだったか。
【評】当時炭鉱があったことが分る。ここでも学問が救済の元となっている。
暗闇地獄
珊瑚 09/02/07
母親は長男の嫁、珊瑚をいびり出してしまう。次男に来た嫁は、この母親に輪をかけた女で、姑を徹底的にやっつける。物語は長男、次男、2人の嫁、姑とその姉の6人が展開する。すべての人物が書き分けられている。

【評】珊瑚は理想的な嫁を演じる。蒲松齢は異史曰くとして、例の如く、修身的まとめを書いているが、ない方がはるかによい。柴田天馬も公田連太郎もこの部分を削除してしまったのが分る。
嫁と姑のあいだ
五通 09/02/11 五通は南方の下級の淫らな神で、北方の狐と同様、人に憑き悪さをする。五通が女の所へ一夜通うと、女は3,4日は寝込んでしまう。二つの話からなる。第一話は女に取り付いた五通を武勇ある男が追い出す話である。第二話は例の如く、よい女が出てきて、男の姪から五通を追い出す話であるが、実はこの女は、金龍大王という神の娘で、五通を退治するのに、婢を使わす。この時のやり方が書いてあって面白い。婢は結局、五通の陽物を取ったに止まったが、それ以来、五通は現れなかった。

【評】金龍大王の娘と男の付き合い方が素晴らしい。
五通という神
申氏 09/04/02 家柄は良いのだが、申夫妻はもう炊く米もないほど貧窮している。妻は「泥棒にでもなれ。夫が泥棒になるか、妻が体を売るか何れかの道しかない」といったいざこざ続いている。夫の方は泥棒になるくらいなら餓死した方がましだと思い、首吊り自殺を試みるが失敗。しかし、いよいよ強盗になろうと、棍棒を用意して出かけるのだが・・・・

【評】夫婦のやり取りがリアルで面白い。世の中には実際に泥棒を人もいるが、泥棒も辞さぬ覚悟が決まると幸運が舞い込むこともある。
大亀
恒娘 09/04/03 財産や地位が出来ると妻のほかに妾を置くのが普通の時代の話である。夫の寵を失った妻が、隣に越してきた恒娘の指南によって、夫の愛情を取り戻す話である。

【評】その手法は大変順序だっていて、しかも、なぜそうするかの解説もついていて女性には役に立つと思う。いつもながら、異史曰くは凡庸なまとめ。
愛される術
葛巾 09/04/10 牡丹が好きな男の話である。曹州の牡丹が良いということで、尋ねて逗留しているうちに、美女に出会う。余りの美しさに仙女と思う。この女性と結ばれるのまでの紆余曲折が前半、義妹も加わって後半は波乱の人生がある。

【評】描写が細やかで、「その指の柔らかなことは、人の骨をチーズにしてしまいそう」「見生驚起 斜立含羞  彼を見て驚いて起き、斜めに立って恥ずかしそう」「「吹気如蘭 吐く息は蘭のようだ」とか女性の魅力がたっぷりと描き出されている。花の精の話は第三巻の「青玉」、次編の「黄英」も同様であるが、いづれも佳編。蒲松齢は花が好きな人に違いない。
牡丹の精
黄英 09/02/21
11/03/02
主人公馬は先祖譲りの無類の菊好きで、清貧を風流とする男である。珍しい菊があると聞いて、遠くまで買いに出た、旅の途中、陶という青年に出会い、菊の話で意気投合する。姉黄英と転地のために旅しているところと聞いて、貧乏だが是非自分の所に来るように勧め、実現する。これが物語の発端。馬の妻が亡くなり、黄英と結婚し、馬の運命は変ってくる。酒飲みの話が出る。

【評】菊と酒の香りが余韻として残る佳作である。主人公はやや頑な所があるが、菊を愛することがとても深いので幸運が訪れた。
貧乏を風流と見る見方が中国にもあったことが分る。

追記:10/06/25
ぷりんすさんのサイトhttp://8728.teacup.com/pinetreeyummy1105/bbs
詳しい話が出ている。
太宰治や森敦による再話、
陳舜臣『聊斎志異考 中国の妖怪談義』
大沢昇『中国怪奇物語』など
追記
安岡章太郎『私説聊斎志異』で太宰治のこの篇の再話『清貧譚』が彼の「聊斎志異」への切っ掛けだと書いている。
菊の姉弟
書癡 4 09/01/01
11/02/16
郎さんは親の代からの読書家で、貧乏をしたが、親の蔵書は手放さすにいた。親の書いてくれた「書中に飯の種も金も地位も美女もある」という旨の座右を壁に貼り、読書に没頭する毎日であった。確かにその通りになるのだが、すんなりとはならないところが面白い。書中から美女が出て来て、それと所帯を持つのだが、その美女によって、次第次第に書物から引き離されていく・・・子供もでき、彼女に最後の要求は郎が本を処分することだった。・・・・本は「お前の故郷、私の性命」といって拒む。

【評】私に似た男が出てこないかと思って、この編を先に読んだ。最後の1行が意外な展開。中篇の傑作である。
追記:自分が本を処分しなければならない境遇となって、改めてこの篇を読み返した。「此卿故郷、乃僕性命、何出此言?」と女に抵抗する所がやはり良い。女も黙認する?再読して、最後の一行が全く理解できない。
書物気狂い
斎天大聖 09/05/06 許盛は気一本の男である。兄と商売の品を集めに福建へやってきたのだが上手く集まらない。当地のお寺にお参りに行くと、ご本尊は孫悟空であったので、許盛は馬鹿にして帰る。その後から次月と障害がおきるのだが、許盛はがんとしてこれを認めない。兄が死ぬに及んで、神に兄を生き返らせたら信じようといった所、兄は生き返るたので、それからこの神(孫悟空)を信じるようになった。キン斗雲に乗って天宮へ行く体験もする。

【評】生一本で豪胆な男が結局幸福を掴むという話は蒲松齢が好む話である。
斎天大聖
青蛙神 09/02/23 揚子江の上流、漢水あたりは蛙の神様が力を振るっている。崑は賢く男前で、蛙の神に見込まれて、6,7歳の時に蛙の神から娘十娘をやろうといわれるが、父親は怪しいと見て断るが、神の決めたことはたやすくは変えられない。後にやはり、十娘を貰うことになる。喧嘩したり分かれたり・・・子供をもうけて幸せになる。

【評】主人公崑も相手の娘十娘も未熟な所があって、お互いによく怒ったり、馬鹿ないたずらをする。それが次第の成長するという物語でもある。
青蛙神
晩霞 09/09/13 ペーロン船の上で、曲芸的な踊りをする少年端は誤って河に落ちて絶命するが、本人は気が付かず、竜王の宮殿へと入り、ここでも踊りのグループに入る。別のグループに晩霞という素晴らしい少女と出会い、互いに慕いあい、恋の病に取り付かれる。・・・・・
【評】恋の病に取り付かれ寝食が取れないほどになるのは、よくある話である。異界への出入りが自然に描かれている。鬼(ゆうれい)であることの証拠は、影がないということである。
竜宮の恋人
白秋練 09/09/12 商人の息子の慕は文学好きだが、父親は商人にしようとしている。それでも父親の居ない時には本を取り出して、詩を吟じたりしている。それを聞いた、文学好きの少女、白秋練が恋に陥り寝込んでしまう。・・・今度は慕の方も寝込んでしまう・・・

【評】何度も詩を吟じる場面が出てくるし、物語のスケールから言って、オペラに仕立ててもよいほどの内容を持つ。『聊斎志異』らしい愛すべき物語。
白秋練
金和尚 09/09/14 お寺に売られた子が、先代和尚の残した遺産を元手に成金になる話である。お経を唱えたことのないのに、現世の富を謳歌する不思議な話。

【評】成金も余り上手く行くとこの世のものとは思えなくなるから不思議。
成金坊主
カイ 09/05/06 繁華街で乞食坊主が経を唱えている。酒、米、金を与えても受け取らない。そんなことなら、田舎へ行けば良い言えば、自分はここで教化したいのだという。8行。
【評】本物の坊さんと見える。
消えた僧
蟄龍 09/05/06 2階で読書していたら、蛍のような光る虫が机を這っていて、その跡は黒焦げになっている。やがて本の上に来る。龍だろうと思って本を捧げもって外に出るが、虫は動かない。・・・
【評】僅か5行の物語であるが、結句が効いていて見事。
蟄龍
小髺ケイ 09/05/06 得体の知れない男が尋ねてくるようになり、さらに近くに引越ししてきて毎晩来るようになる。狐だろうと思い、探索する

【評】シュール
小さな髻
霍生 09/05/06 霍と厳は幼馴染で、いつも、口で言い負かせるのを楽しみとしていた。所が、厳の妻の隠し所に疣が2つあることを知った霍がある謀リ事ししたところに悲劇が始る。

【評】口は禍の元。
たわむれ
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Alice in Tokyo