『聊斎志異』目録 第3巻 『聊斎志異』を読んで最も面白いのは何かと聞かれれば、私は登場する女性が素晴らしい点を上げる。絶世の美女で聡明で情が深くけなげで凛としている。山本周五郎の小説の中の女性もそんな女性が登場するが、その程度はこちらの方が上。殆どが狐か鬼(幽霊)とされているが、実は人間であるが、この世のものとは思われないほど素晴らしいので、狐か鬼としたのではないかと思う程である。また、超能力者が多いが、狐や鬼の限界もあって、そこがまた、いじらしく、そこはかとない共感を呼ぶ。 |
||||||
巻 | 題 | 角川文庫 巻数 |
読了日 | 物語への手引きと評(私のコメント) | 分類 | 中国古典文学全集 |
3 | 紅玉 | 7 | 09/01/30 | 貧乏暮しの父子がいて、父の方は60歳というから息子のほうもそんなに若くない。ある日隣の塀から美女が覗く。これが紅玉であるが、結局、この人とは結婚せず、他の名家の娘を貰う。この娘がまた良い女で、これが権勢を誇る役人の目に留まったことから不幸が始る。やや長編。 【評】全体に不幸な話なのだが紅玉が光る。紅玉は自分では38歳といっているが、人が見るといつも20歳ぐらいだった、とこの物語が結ばれている。 |
狐 | 義侠 |
林四娘 | 7 | 09/03/03 | 青洲の知事陳がある夜一人で座っていると、見知らぬ女が入って、幽霊だと知りながら親しんで、ねんごろになり、毎夜訪れて来るようになる。いい女だし、詩歌の心得もあって楽しい。聞くと彼女は宮女であったが、17年前の変で亡くなったという。・・・・関係は3年続く・・・・この女性は最後に詩を残している。 【評】いつも男は棚ぼた式に良い女に巡りあうのだか、女はあなたが高義な方だから身を任せたといっている。 |
鬼 | 女亡霊の詩 | |
魯公女 | 8 | 09/03/04 | 知事魯公の娘は狩が好きで、主人公はその凛々しい狩姿に一目ぼれし恋の病に陥るが、その娘は突然死んでしまう。所がその棺が彼の寄宿している寺に安置されるので、日夜、これを祀っていた。娘がそれに感じて現れる。娘との楽しい日が続く。娘は鹿など生き物を殺したせいで死んでも行き所がないので、金剛経を唱えて欲しいと男に頼み、男は実行する。 5年の歳月が経って、娘は許されて今度は役人の家に生まれ変わることなった。15年たったら迎えに来て欲しいと行って去る。 この時主人公は既に30数歳、15年すると死んでしまうと言う。しかし、これから紆余曲折がある。 【評】お経を自ら読んだり人に読んでもらったりして、もう一度再生するという話はよくある。前話もその一つ。二回目の生においても最初の約束を貫く所に『聊斎志異』の女たち、幽霊の素晴らしさがある。 |
鬼 | 少年になった大人 | |
道士 | 3 | 09/03/02 | 韓は金持ちの客好きで同じ村の徐がいつも飲みに来ていた。ある日、そこへ身なりのよくない道士が登場。徐も道士もご馳走になる一方。ある日、道士に一度くらいご馳走したらの水を向けると、韓と徐を招待してくれた。立派な屋敷でご馳走が振るまわれ、美女も現れ舞ってくれる・・・ 【評】奇妙な道士である。 |
神 | 道士の返礼 | |
胡氏 | 8 | 09/02/01 | 富豪が胡という名の家庭教師を雇った所、大変優秀なのだが、どうやら狐らしい。胡が富豪の娘を嫁に所望ししたところから問題が生じる。胡のため取り持つ者の間にいざこざが生じ、富豪は、絶えず狐兵に攻められることになる。・・・・ 【評】富豪も胡も大変堂々としていて気持ちがよい。公田連太郎注(5巻参照)で読んだが、返り点付きで読みやすかった。 |
狐 | 狐の求婚 | |
王者 | 7 | 09/02/24 | 大金の輸送を命じられた役人が、雨に会い、道に迷って、あるお寺に泊たら、翌朝大金が無くなっていた。責められて再度その場所に行くと盲目の占い師がいて、その指示に従い動く。・・・ 【評】盲目の占い師を信じた男も偉い。 |
神 | 愛妾の髪 | |
陳雲棲 | 2 | 09/03/07 | 主人公は占い師から、若いとき女道士(道教の尼さん)と結婚するだろうと予言されたが、両親は取り合わなかった。しかし素晴らしい女道士をしかも二人を得て、本人も母親も幸せな一生を送るという話である。 【評】男は一緒に遊んでくれる女ときっちり家政をやってくれる女を欲するのであるが、両方兼ね備えた女は望むべくもない。だから、そのような性格の姉妹と同時に結婚すれば良い。姉妹を同時に妻にした例は舜帝が尭帝の娘2人を妻にした古い例がある。よほど徳がなければ実現しないだろう。母親も本人も陳雲棲に再会したとき、分らなかったという、ちょっと奇妙な所があるが、面白い話であった。 |
人 | 二人尼 | |
織成 | 8 | 09/02/02 | 洞庭湖を舞台として、そこの神様が遊ぶ大変スケールが大きい話である。主人公は科挙に落第して、ここにやって来て、泥酔の内に水神の遊び(暴風雨)巻き込まれる。神様お付の女の靴を噛んだことから、神様の試練に会う。・・・・ 【評】次の「竹青」と同様、映画化したい作品。水神は男に詩を作るように命じられ、中々出来ず、水神にとがめられ、男曰く「文章は巧みなのを貴んで、早くできるの貴びません」と半日時間をかけて作った。この作品が良くて後の幸運へと繋がる。中篇ながら変化が大きい。 |
神 | 湖底の侍女 | |
竹青 | 7 | 09/02/02 11/03/03 |
貧乏な主人公は科挙の試験を受けに行って、帰りの旅費に事欠いて野垂れ死に同然で呉王廟にたどり着く。ここから夢ー鳥になり、竹青という伴侶も得る。蘇生し、3年後試験に合格し、また呉王廟に立ち寄る。竹青との再会・・・距離を隔てた本宅と別宅の生活・・・話は子供の代に及ぶ。 【評】良い監督に映画化させたい内容を持つ。主人公は時々鳥になるのだから、パノラマ的な景色がふんだんに使える。男の潜在的な欲求を表しているかも知れない。国木田独歩が訳出しているという。 追記 太宰治全集筑摩書房199 5巻にある。こなれた日本語だが、巻末に「自注:これは、創作である。支那のひとたち読んでもらいたくて書いた。漢訳せられる筈である。」とあるのは唖然としてしまう。初出:1945年4月「文芸」、下手な論語の引用があってたいしたことはない。終わり方も原文に遥かに及ばない。 安岡章太郎『私説聊斎志異』でも太宰の文を引く。 |
神 | 烏の黒衣 | |
楽仲 | 4 | 09/02/13 | 楽仲は母子家庭で、母親は熱心な仏教徒で、肉は食べない。一方、楽仲は酒も肉も大好き。楽仲はしきりに肉を勧めていたが母親は食べない。その母親が病の末、もう亡くなろうとする寸前、肉を所望したので、楽仲は自分の左腿の肉を割いて与える。母親は、持ち直すが、戒律を破ったことを悔い、絶食して命を絶つ。楽仲は悲しみのあまり今度は右腿を深く割く・・・これが物語の始まりで、20歳にして、妻を貰い、3日目に追い返し、召使や芸人と享楽の日々を送り、周りにも気前よく振舞うのでやがて落ちぶれてゆく。母が南海にいると夢見て、仏教徒の寺参りの一団に加わって、南へ旅行中に名妓と知り合い・・・話は最後まで予断を許さない。 【評】『聊斎志異』の出てくる男性は、どちらかと言えば、余り、特徴のない男が多いが、楽仲は酒を好みグルメで、磊落な性格を貫き、やや個性が強い。母ー息子関係は、『聊斎志異』のテーマの一つでもある。 |
人 | 好伴侶 | |
香玉 | 1 | 09/03/08 | ある日、主人公が窓から見ていると白い衣きた女が花の間を歩いている。外に出てみると女は去ってしまった。こんなことが度重なるので茂みの中で待ち伏せをしていると、今度は赤い衣の女性と一緒にやって来る。種を明かせば、白牡丹と赤椿の精なのである。話は現実の牡丹や椿とその精たちが微妙に絡んで面白い物語を展開する。 【評】花の香が漂ってくる感じがする。ここでも主人は「陳雲棲」のような一対と出会い、、詩文のやり取りもある。良い監督に映像化して欲しい。お仕置きに「お灸」をするのはここ頃もあったことが分る。そして木の精も、その木が生きているときと枯れているときはそのあり方が異なるのも面白い。 |
神 | ||
大男 | 5 | 09/03/14 | 男は嫁と妾とがいがみ合うのに嫌気が差して家出する。妾の方に息子が生まれ、それが主人公の大男である。大男は賢く男前で、学業に励むが、年頃なって母親から事情を聞き、父を求めて家出をする。息子、嫁、妾、父が数奇な運命をたどってもとの鞘に納まる話である。 【評】著者は彼らの得た幸せは、妾と息子の素晴らしさによるものだとしているが、私は4人ともそれぞれが成長を遂げたお陰なのだと思う。特に父親の成長している。妻や妾の売買、妻が夫に妾を勧めるといたことが当時よくあったことが伺える。 |
人 | ||
石清虚 | 6 | 09/03/20 |
石を好む男の話である。その男が不思議な石を入手して、愛蔵していると、それを欲しがる男がつぎつぎ出てくる。男は89歳までいきるが、この石を、自分の墓に一緒に埋めて欲しいと言ってやがてなくなる。泥棒が墓からこの石を盗みだして、話は終わらない。 【評】異史曰で「士は己を知るものために死す」という言葉を持ち出して、石でさえこうなのだから、まして人間は・・・といっているのがなんだか筋違いのようでおかしい。 |
物 | ||
曾友干 | 3 | 09/03/20 | 先妻の息子、後妻の息子3人、妾の息子3人、兄弟の不和の物語でうんざりする。その中で、妾の長男が聖人のような男で、やがてこの男によって、一族はまともな一族へと生まれ変わる。 【評】レベルの低い争いが続くのでいやになる。 |
人 | ||
嘉平公子 | 4 | 09/03/25 | ハンサムな青年が受験に赴く途中、芸者屋の前を通ると美人がいて、話しかけて仲良くなった。青年の宿に尋ねてくるようなった。ある夕、大雨の中をやってきた。「凄風冷雨江城に満つ」と口ずさみ、後を続けるように頼むか、男は上手くで見なくて、女は失望する。女の出入りを姉の婿が知り、ちょっかいを出した所から、女は幽霊と知れるのだが・・・・ 【評】風雅を愛する情勢は『聊斎志異』の中にたびたび出てくる。ただの美男子ではもてない。つぎの「苗生」もそうだか、聯句が当時かなり流行っていたことが分る。 |
鬼 | ||
苗生 | 1 | 09/03/25 11/02/07 |
『聊斎志異』は科挙の試験への道中の出来事が多いが、これもその一つ。男が試験を受けるための旅の途中、宿で一人酒を飲んでいると、無骨な男が傍に座ったので、盃を進めると受け、苗と名乗った。酒がなくなると今度は酒を一甕買って来て酒を強いる。無教養さに辟易する。主人公は先に宿をでてしばらくすると、馬が倒れてしまった。そこへ苗がやって来て、他をれた馬を担いで2、30里運んでくれ、これは尋常なことでないのですっかり尊敬してしまう。今度は試験が済んで帰り道、3,4人の友達と華山というところで呑んでいると、苗が酒樽を抱えて加わる。受験生達は聯句やろうと言い出し、苗は嫌がるのに始めると、以外に苗の対応は意外に早く、皆が苦吟している間に、苗はどんどん下品になって遂に虎と化す。。これが話の半分、後が面白い。 【評】詩歌を作るの風雅の営みは、前編では必須のものであったが、苗にでは、大して出来の良いわけでもない受験生が、下手な聯句をやるのは見るに耐えないことでもあった。苗は体育会系硬派対文化会系軟派の対照がよく出ている。 稲田孝『聊斎志異』は唐代の小説「人虎伝』を引きやや詳しく解説している。 |
物 | 儒者を食う虎 | |
姉妹易嫁 | 2 | 09/03/26 | 牛飼い毛家の息子と名士張家の姉妹の話である。ある因縁で張は毛を引き取り長女の婿にすることにしたところ、長女は身分の卑しい毛のところへ嫁に行くことを嫌がる。無理にさせようとすると自殺すると抵抗。割ってはいった妹が結局身代わりに毛に嫁ぐ。毛と姉妹の物語である。 【評】多くの物語で長女は気位が高く、末娘は優しいが、この物語もそうである。最後上手くまとめている。 |
人 | ||
番僧 | 6 | 09/03/26 | 西域から来た2人の僧の手品の話。 | 人 | ||
李司鑑 | 5 | 09/03/26 | 自分の妻を殴り殺した男が、訴えられて、肉切り包丁で自分の体を傷つけ死んだ話。グロテスク。 | 人 | ||
保住 | 4 | 09/03/19 | 身軽な男が王の愛姫の琵琶を盗み出す。 【評】情景描写鮮やか |
人 | ||
水災 | 4 | 09/03/19 | 日照りの後、大水となってお母さんを連れて逃げるが子供のことはすっかり忘れていた話。8行 | 人 | ||
諸城某所 | 6 | 09/03/19 | 賊に首を切られ頭はがっくりと前にたれたが喉が切れずに残った。何とか生き返った。10数年後のある日、仲間と大笑いしたら、首のつなぎ目が切れてしまった。 7行。 | 人 | ||
戯縊 | 3 | 09/03/19 | 女を笑わせると賭けをして、首を括って死んだ愚かな男の話。4行 | 人 | ||
目次トップ | Alice in Tokyo |