アイルランドの細道  

W.B.イェイツの詩2つ

1.イニスフリー島へ The Lake Isle of Innisfree

イェイツの詩で最も有名なのは「イニスフリー島へ」ではないかと思う。
同じような詩興は陶淵明(365−427)の「帰去来の辞」初め沢山あるが、なんと言っても、イェイツのは、簡単で、響きが素晴らしい。声を出して読んで欲しい。                           

The Lake Isle of Innisfree

  I will arise and go now, and go to Innisfree,
  And a small cabin build there, of clay and wattles made;
  Nine bean-rows will I have there, a hive for the honey-bee,
  And live alone in the bee-loud glade.


  And I shall have some peace there, for peace comes dropping slow,
  Dropping from the veils of the morning to where the cricket sings;
  There midnight's all a glimmer, and noon a purple glow,
  And evening full of the linnet's wings.


  I will arise and go now, for always night and day
   hear lake water lapping with low sounds by the shore;
  While I stand on the roadway, or one the pavements grey,
  I hear it in the deep core of the heart.
                                    

逐語的な翻訳を知りたい方はネットで色々見ることが出来る。例えばhttp://homepage3.nifty.com/TAD/poems_1/poem_63.htm

この詩の大意はこんな所です。

    さあ、起き上がって、田舎へ帰ろう。
    そこで小屋を建てて
    百姓をしよう

    そうすれば心安らぎ
    虫や鳥の声も楽しめ
    太陽も星達も微笑む

    今度こそ帰るぞ
    この世のしがらみの只中に
    故郷の島に寄せる
    波音が聞こえるから

イニスフリー島は、イェイツの故郷、スライゴーの近くにあるギル湖に浮かぶ小島である。私の勝手な推測だが、少年の頃、イェイツはここでキャンプをしたのではと思う。昨夜、枕頭にある平井正穂訳編『イギリス名詩選』(岩波文庫)を繰っていたら、この詩が出てきて、その註にI will arise and go now, and go to Innisfree,はルカ伝15:18の放蕩息子の言葉を踏まえているとある。放蕩息子が、財産を使い果たし、路頭に迷ったあげく、お父さんの所へ帰らうと叫ぶ所なのである。。* 西洋人には最初の1行は深い味わいかがあるはずで、ロバート・スティーブンソンは生涯3度衝撃を受けた詩の一つに上げたそうである。

根源へ帰る旅がこの詩なのである。

私のアイルランド旅行の旅程にここを加えたいと思っている。アイルランドに知り合いがあるわけでも、特に見たいところがあっての旅ではないので、何か目標を作ることが必要なのである。
ここについたら現地からレポートします。(スライゴーでの休日参照)

*聖書の「放蕩息子の喩」は、東洋人には法華経の「長者窮子の喩」にあたるが、こちらは父親の方が息子を探しにでる。
根源に帰る旅として、慈雲尊者に次の歌がある。

  阿字の子が 阿字のふるさと たち出でて
     またたちかえる 阿字のふるさと

阿字とは仏性のこと。Nさんの話では、この前、お坊さんが、葬式の時の説教にこの歌を使っていたとのこと。

   イエイツ25歳の作

2.歳を取って  When You are Old

イェイツの詩の中で有名なものもう一つに「When You are Old」かある。確かジョン・アービングもある小説で引用していたと思うのだが、どの作品か思い出せない。原詩は簡単なもので、下に掲げておくが、和訳も沢山あって、インターネットでも見ることが出来るので、真面目な方はそれをご覧ください。例えばhttp://homepage3.nifty.com/kukkie/natu2.html
出来れば原詩の口の中で転がして欲しい。

パロディ風の拙訳を書いておきます。

   お前がばあさまになって
   韓流ドラマを見ながら
   コクリコクリとするようになったら
   この詩を読んで欲しい

   思い出してご覧
   お前の目が潤み輝き
   楚々とした身のこなしに
   多くの男たちが言い寄って来た頃のことを

   だが ひとりの男がいて
   お前の魂の遍歴と
   しみの増える悲しみを
   共にした

   テレビの前でうつらうつらしながら
   つぶやくがいい
   「愛は飛び去り
   山をこえて
   星のかなたに隠れてしまった」と

    When You are Old

   When you are old and grey and full of sleep,
   And nodding by the fire, take down this book,
   And slowly read, and dream of the soft look
   Your eyes had once, and of their shadows deep;

   How many loved your moments of glad grace,
   And loved your beauty with love false or true,
   But one man loved the pilgrim soul in you,
   And loved the sorrows of your changing face;

   And bending down beside the glowing bars,
   Murmur, a little sadly, how Love fled
   And paced upon the mountains overhead
  And hid his face amid a crowd of stars.

   W. B. Yeats

  イェイツ30歳の頃の詩である。

いずれにしろ詩人は驚くほど早熟である。

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