アイルランドの細道

リメリック

バンラッティは中世のお城があり、村自身がしっとりとしていて、観光スポットしてゆっくり1日過ごしたいところであるが、私は先を急がなければならない。私の心の中には、とにかくコークまで完走したいという願いが強くなってきていた。昨日世話になったインド青年にもう一度お礼を言おうと思ったが、ホテルの受付は若い女性に替わっていた。彼女にサインしてもらって、雲が低く垂れ、今にも降りそうな中、9時半ホテルを出発。1時間少し歩いて小休止していると、すぐ後ろに歩道橋が見える。歩道橋に出会うのはアイルランドに来て初めてだ。さらに目をやると中央分離帯の木の上から、Tarvanの文字が見える。休んだところが私にとっていつも特異点なのである。歩道橋を渡って向こう側に出たが、その食堂は鍵がかかっていた。看板を目に留めて、一組の家族が車から降りてきたが、閉店とあってはどうしようもない。
ここから、進行車線に沿って歩く。道は真っ直ぐで変化は無いが、左手前方にWoodkock Hillが伸びやかな景観を作っている。
1時半、やっとリメリックの入り口に着く。大きな町のようだ。ここから中心街へは5,6キロはある。お腹が空いたが、レストランはやっておらず、やっと探し当てた食べ物屋はテイクアウトの店で、食べる席が無い。私の様子を見ていた婦人が、「直ぐそこのバス停からバスが出ているからそれに乗りなさい、1ユーロですよ」と言う。勿論バスには乗らず空腹抱えて歩いていると、先ほどの婦人の家の前に差し掛かり、丁度、ガレージに車を入れた所であった。目敏く私を見つけて、今度は自分の車に乗せて都心まで運んであげようと言う。私は徒歩旅行をしていると話して、また空腹を抱えて歩き出した。
2時過ぎ反対側にある小さなホテルの食堂が目に付いて、行ってみると素晴らしい、パブ兼食堂であった。(このスタイルはホテルに多い)今日のスープ、サーモン、ギネスと立派な昼食となった。
さらに40分歩いて、シャノン橋を渡り、リメリックの中心部に入っていた。とても大きい繁華街がずっと延び、4階建ての建物も見える。ゴールウエイより大きそうだ。教会の尖塔も何本も見える。

まず、旅行案内所へ寄って、今夜の宿を決めなければならない。
案内所は大きく、若い女性が色々探して、町の中心より5,6キロ南のホテルを見つけてくれ、そっと電話番号を書いて渡してくれた。直接電話すれば手数料がかからないからである。携帯電話を持たない私は手数料を払って予約していただいた。その次の日のことは、旅行案内所の人も良い案が出ず、次をどうするかはホテルで考えることにした。リメリックは観光名所もあり、市内ツアーバスも出ていたが、私はあまり興味が無く、町をぶらぶらしながら、目的のホテルに向かうことにした。アイルランドの町は店構えが昔のままで、しかも派手な色を塗ってあって、見飽きない。人が多いので、町は祝祭的な場所という感じがする。人通りが少なくなるあたりに、古いパブがあったので、そこに入り、ギネス一杯でこの町に別れを告げることにした。店の主人と話しているうちに、私は町の別の端にいることが分かり、危うく間違った方向に進むのを免れた。私にとってパブはいつも情報的な価値がある。また引き返し、別の繁華街を通り抜けたので、リメリックの町がかなり良く分かった。1世紀ほど前のたたずまいが感じられ、趣があった。町を抜けても広域に住宅地が広がっており、その中をとぼとぼと歩いた。

目的のホテルには1時間以上かかった。よほど疲れていたのだろ、おばあさんにも追い抜かれる始末だった。大きな州立病院の斜め向かいにホテルはあった。着いたリンチ・サウス・ウエスト・ホテルは国際会議に使えるようなぴかぴかのホテルで、玄関前のポールには、沢山の国旗がはためいていて、エアラインのスタッフたちも泊まっていた。エレベータに乗り合わせる人もエリートらしい服装をしていた。

夕食はスープとギネスで済ませるつもりで、バーに行って、それを食べながら、明日の宿ことを検討した。ヘレンさんが呉れたB&B便覧が役立ち始めた。幸いに客はほとんどなく、ウエイトレスをつかまえて話に乗ってもらうが、うまくいかない。毎日、毎日こんな形で、宿の心配をしながら、コークまで尺取虫のような旅が続くのである。ギネスをお変わりして、便覧を見ているとクルームに格好のB&Bが見つかった。部屋で電話をしようと帰る途中、フロントの女性が手すきのようなので、相談すると、彼女はすぐ適当な宿を調べ始めてくれたが、なかなか見つからない。実はこんなB&Bがあって、これなんかどうかと思っているんだがとB&B便覧を差し出すと、すかさずそこへ電話をしてくれたが、残念ながら満室だった。色々探してくれた末、予想外のBruffというところにかなり由緒ある建物のオールド・バンクというB&Bが見つかり、これは難なく取れた。そのB&Bの内容を印刷してもらい、1件落着。ありがとうと何度も言うと、彼女はno problemと。この表現はアイルランのいたるところで聞く、「どういたしまして」という挨拶である。
(7月22日のこと)

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