アイルランドの細道

チュアム

朝食にベーコンを抜いて欲しいと頼んでおいたら、代わりに、ソーセージが4本、プディングが4個付いていた。
9時36分出発、空模様から判断して、最初から雨具(上の方)つけて出た。小雨が降ったり止んだりする中を3時間歩いて、ダンモアというところ着く。ガソリンスタンド横の何でも屋で、お惣菜のサラダを売っていたので、野菜ばかりを少量頼んだのだが、美しい娘さんが盛ってくれたのは、想像の3倍もあった。私も家内も野菜好きで、日本では菜食が中心なので、生野菜が食べたいのである。店の片隅にセルフサービスでお茶を飲めるようになっている喫茶のコーナーがあって、そこに腰を下ろし、大盛りのサラダ盛り合わせを結局全部食べてしまった。相客は誰もいなかった。激しい夕立となり、雷も鳴った。こんな所で雨宿りできるのを本当に幸せだと感じた。1時間ほどすると雨脚が弱くなったので、今度は下の雨具にスパッツも着けて、雨の中を出発した。今日はこれから14キロの道を歩かなければならない。雷鳴が続いていたが、やがて30分ほどで、雨は上がった。雨の後の原野はとても美しかった。大きな空の下、360度の見事な景色が続くのであるが、これを表現するにはビデオカメラをゆっくり回すほかないだろう。私は首をぐるりと回せば味わえるが、車に乗っていては味わえまい。徒歩旅行の利点はここにある。飽きもせず、テクテクと一歩一歩歩くのである。ダンモアを過ぎて5,6キロも行ったところ、車が止まって声をかけて来た。昨夜の宿の女主人であった。勿論私が乗らないことを知っていて、すぐの発進したが、テュアムに用があったのだろうか?それとも私が歩いている所を確かめたかったのか?雨をたっぷり浴びた牧草のエメラルドの色はこの世のものでない美しさで、それが斜めに射す日差しで輝いている。

牛や馬に見つめられながら、ひたすらに歩く。長い道だったが、6時過ぎ、やっとテュアムに着いた。遠くから尖塔が見えていた立派な教会の前を通ると町の中心で、なかなか古そうな堂々とした町である。目的のThe Square Innは町のど真ん中にあった。Innに泊まるのは初めてである。シェイクスピアの時代からあるスタイルで、居酒屋と宿屋が合体した宿で、下がパブ、食堂で2階、3階がが客室なのである。インに登る入り口には鍵が掛かっていたので、隣のパブの方に入った。店番の少女がテレビを見ていた。泊まりの客だが、インの受付は何処かと聞いたら、ここがそうだとその少女が答えた。宿代は30ユーロで、それを前払いしようとしたら、財布にはそれだけのお金がない。教えてもらって向かいの銀行のATMに金を出しに行った。銀行があるのは大きな町の印である。表の鍵と部屋の鍵を受け取り、部屋に行こうと思ったのだが、その前に、ギネス半パインと注文して喉を潤すことにした。老舗のレストランを教えてもらって、部屋に入って見ると、広さといい、B&Bに引けを取らない、まずまずの部屋であった。驚いたのは、電磁調理器と鍋など食器一式、完全に自炊できる設備が整っていて、洗濯機もあり、洗剤の残りも置いてあった。商用などで長逗留する人には丁度良い。B&Bと異なり朝食は出ない。フォルスタッフもこんなところに泊まっていたのだろう。シャワーを浴びて、窓から、向こうの商店やら、行く交う人を、しばらく眺めていた。夕食は、教えてもらったレストランで、海鮮のチャウダー、サーモン。添え物のポテトなどはずしてもらったら、量的には丁度良かった。

問題は明日の宿で、何とか予約しておきたい。疲れ果てたところで宿を探すのがどんなにつらいか、昔フィレンチェで経験済みだからである。ゴールウエイへは30キロを越すので、一日では行けない。その手前へのクレアゴルウエイに泊まらなければならない。レストランの人の話ではホテルはあるとのこと。宿のパブに戻って、ジェムソンを一杯頼んでおいて、ダニエーラと呼ぶ店番の少女の協力を得ようとするのだが、ホテルの名前は2つ知っていながら、そこの電話番号を調べ私のために予約しようという気配がない。先ほど携帯電話で話しているのを見たので、手元に携帯電話を持っていることは確かなのだが、華奢な体つきで、15,6歳位に見える彼女は、まだホテルの予約などしたことがないのかもしれない。
こんなことはしたくないのだが、私のためにホテルを予約してくれたら5ユーロ上げると持ちかけてみた。彼女はにやりと笑って、明日の朝、ここに来なさい。タンヤという人がいるから、彼女に言ったらすぐ電話してくれると言う。
これで一件落着、明日タンヤさんがうまくやってくれることを信じて、部屋に戻った。

(7月13日のこと)

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