歌仙両吟『春雷やの巻』

戻る
初折表  春 春雷や 森は確かに生きており               真砂男
       春    思い思いの若葉ひろげて                余 間
      春 六十路経て念入りに喰ふ桜餅                
      雑    跡取りおらぬ舞の名人                   
      秋(月) 良夜なり 灯を消しワルツ踊るべし               
      雑    背中に痛いマニキュアの爪                
初折裏  冬 手びねりのぐい呑み試す 今年酒                
      雑    頬にこぼれる今のしあわせ                
      雑 眉凛と離婚歴など何処吹く風                  
      夏    ダジュールで焼く 白い胸元                 
      秋 晩鐘に やや哀しげな マリア様                  
      雑     子少なき村を通り過ぎ                   
      秋(月) はみ出して 孫が眠れる 月の許                 
      秋     陶の風鈴 夢に聞きつつ                  
      秋 茄子在らば茄子喰ふ日々であらまほし             
      雑     清貧ながら味噌にこだわる                
      春(花) もの思ふ 故に我あり 花曇り                   
      春     日々啓蟄の渋谷原宿                    
名残折表春 小麦肌 片耳のリンク 風光る                    
      雑    偽カルティエを我がものにして               
      雑 大日傘 これも売り物 蚤の市                   
      雑    煙草一服 大道の歌手                    
      雑 茶毛赤毛 アンパン好きな子も混じり               
      冬    長き黒髪 風花に舞ふ                     
      冬 オフィーリアの狂いの果ての 紅椿                
      雑    「班女」の扇 朱も鮮やかに                  
      秋 行く雁の 旅寝の契り はかなくて                 
      雑    あっという間にすっぴんになり                
      秋(月) 目覚むれば もとの陋屋 窓の月                  
     秋    柿の実りを Eメールして                    
名残裏 秋 二百十一万画素に輝く 秋の空                  
      雑     虹の彼方に摩天楼見ゆ                   
     雑 大股で女追い越す五番街                      
     雑    鼻の差だけで大賞逃して                   
     春(花) 大難も少難も経てまた花見                     
     春    親子三代 春の野遊び                     
      平成十一年 四月二日起
      平成十一年 十二月六日尾

平戸 真砂男
宮垣 余 間