毎年暮れになると お歳暮の品物選びに悩ませられる。 毎回同じ品物で送り先から喜ばれることがわかっている場合はいいけれども、そうとも言えない場合はあれこれ考えあぐねる。 そこで 今回は兄弟などごく親しい筋に限って自作の食品をこれに当てることにした。
   相手先は比較的高年齢層 その嗜好傾向等も考えて、今回の贈呈品はお茶漬けの種か箸休めの詰め合わせ的なものとし、手作りにあたっては次の点に留意することとした。
     ・地元の食材をできるだけ採り入れる
     ・市販品とはひと味変えたものとする
     ・塩分をできるだけ控えめに仕上げる

帆立ちりめん----「ちりめんじゃこ」に「帆立」「山椒」を加えて佃煮風(ドライ)に仕上げたもの
きゃら蕗昆布----「昆布」に「蕗」「椎茸」を加え佃煮風に仕上げたもの
磯じぐれ---------貝の「むき身」に「しょうが」を加えて佃煮風に仕上げたもの
きのこづくし ----「椎茸」「しめじ」「なめこ」など7種のきのこ類に「柚子皮」を加えて
                            薄味で煮つけたもの

日野菜漬け------地元産の日野菜の浅漬け 

また 詰め合わせて贈る場合のセットの名前は谷戸(やと)の味とし、制作者は恥ずかしながら「かまくら哲人軒」と名乗ることとした。
  もう一つの課題は包装をどうするか、だった。 体裁がよく、経済的に との観点から包装材を探してみたが、地元では適当なものは見つからず、東京に出たついでに浅草の合羽橋の問屋街に行ってみた。 さすが日本一の道具街だ。 食品業に必要な道具類の専門店が道路をはさんで両側に延々と軒を連ねている。 陳列されている道具を見て歩いていると、思わずレストランでも開業したくなったり、調理人になりたくなってしまうほどだ。 本物そっくりの食べ物の見本は日本の得意芸なのか 多くの外国人客が興味深げに見ていた。 そんな中で ともかく今回使えそうなチャック付の内袋と外袋、それに薄型のボール箱を選定し、所要数を調達した。 品名等の表示は 習いたてのパソコンでプリントアウトしたり、イラスト的なものをコピーの上つなぎ合わせたりして 製品ラベルまがいのものを作り、適当に貼ってみた。 外見は別掲のようになった。こうした作業を経て予定のあて先に送った。 発送にあたっては「遊び心でつくったもので まことに恐縮ながら賞味期限がわからないので 冷蔵保存の上 できるだけお早めにお召し上がりください・・・」などと書いた【ごあいさつとお願い】の紙片を添えた。

 さて 反響はどうだったか。 ほめ殺し気味なものもあったが、概ね好評だった。 昆布や貝の味加減・固さ加減が絶妙とか、柚子の風味が気に入ったとかの感想のほか、ご飯の進み過ぎを懸念する声もあった。 折角塩分を控えめにしても食べ過ぎてしまえば何のことはない。 ところで今回受け取った人の中には未だに市販品と勘違いしている向きもあるみたいだ。 同列視されるのは嬉しい気もするが、心外でもあって複雑な心境になってしまう。

 目下 今回の反響に気をよくして、もう一度トライしてみようかと夏向きの季節限定品をあれこれ考えている。 ところが 今回ネーミングやデザインなどについて面白いアイディアを出したり、出来上がり品の袋詰め・包装などで全面的に協力してくれた女房は 夏は食品が変質しやすいなどの懸念事項をあれこれあげて 再トライには極めて消極的だ。 冬休みにやってきた娘も当然のことのように母親の意見に加担している。 今年の夏「かまくら哲人軒」謹製の「谷戸の涼味」を送ることができるかどうか、依然不透明といった状況にある。 







   遊山31号        『「師走」こぼれ話』から
「谷戸の味」づくり

佐  藤   飄