十月の中旬、秋の題材を求めて、忍野から河口湖を経由して、西湖にやってきた。

湖畔の空地に駐車して、ススキの沢山繁っている所を見つけ、今日はススキを撮ってみようというわけである。

私達クラスのカメラマンが守っているススキ撮影の基本的事項@逆光で撮ることAバックを暗くすることBススキの穂を風になびかすこと等を満足する位置をロケハンして愈愈フレーミングを開始した時、背後から声がかかった。

「旦那、富士山はこっちだよ。それでは富士山の頂上どころか湖も写らない。見れば高級な写真機を持っているようだが、写真機の扱い方も知らないようでは、宝の持ち腐れだ。ワッハッハッ」

とやられ、私も怒るわけにいかず、

「ごもっとも、ごもっとも、ワッハッハッ」と笑うほかなかった。

しかし一こと言い返してみた。

「今日は富士山を撮りに来たのではなく、ススキを撮りに来たんですよ」すると

東京の人らしいが、ススキなら、わざわざここまで来なくても、全国どこへ行っても生えているよ。変な人だ。時間と金をかけてやって来てゴミ捨て場のような所を背景にして何が面白いのだろう。ワッハッハッ」と又笑われてしまった。しかし、これは不思議に正論に聞こえたので、小さな声で「ごもっとも、ごもっとも」つぶやいた。

  構図は我が師匠中村吉之介から常々教わっているようにうまく横でまとまった。背景は近くの山の斜面でゴミ捨て場でない。斜面がかなり近いので暗く写ることは間違いない。

山の頂上から射し込む太陽が丁度ススキの穂を逆光で照らしている。逆光の効果を高め、画面を暗くしてススキの穂を強調するため、更にマイナスの補正を加えた。あとは風が吹くのを待つだけである。リレースを握り、風を待つと、暫くあまり強くない風が吹いてくれた。瞬間シャッターがおりる。

  出来上がったのが掲載の写真である。自分でもこれはうまく撮れたと思っていたが、NHKで入選したのみならず賞*まで頂いた。私としては初めての名誉である。

帰ろうとすると例の人が、そろそろ引き上げるのか、この絵ハガキをやるから、写真機についている小さな窓からこの絵ハガキのように富士山が見える所を探して、又挑戦してください、だって。

【注】*賞とは NHK学園カメラメイト九七年十一月第3回コンテスト銅賞+

この文は写真とともに「遊山 21」(1999・5)に掲載されたものです。           戻る

吉岡達夫