鈴木真理の
       ロンドン通信 
87
 

             初夏のパリと日本人選手の快挙 
 
ユーロスターに乗って初夏のパリに出かけました。シャンゼリゼ通りの並木は新緑につつまれ、まぶしく光っています。
 
この時期パリでは、有名なテニスの大会が開かれます。世界4大大会(グランドスラム)のひとつ、フレンチオープンですが、こちらの人々には、会場の名前であるROLAND GARROS(ローラン・ギャロ)という呼び名で親しまれています。今頃は日本の皆さんも、この名前を耳にしておられるのではないでしょうか。杉山愛選手が女子ダブルスで見事優勝を遂げたのがこの大会です。
 
ROLAND GARROSは、パリ西部にある「ブローニュの森」という広大な緑地に隣接しています。凱旋門から車で20分も走れば到着する距離です。
 
グランドスラムの他の3大会は、オーストラリア、英国、米国という英語圏で行われますが、ROLAND GARROSは唯一の非英語圏です。審判もフランス語で行われます。応援もフランス語です。「頑張れ」という声援は英語なら“Come on !”ですが、こちらでは「アレー」という声がかかります。もう一つ他の大会と違っているのは、クレイコート(赤土のコート)で試合が行われるということです。
 
クレイコートは、英国以外の欧州で最も一般的に使用されているテニスコートです。欧州の選手、特にスペイン、フランスの選手は、このコートでの試合を得意としています。乾燥すると砂が飛びちるので、こまめに水撒きが必要です。また1セット終わるごとにコート表面の砂をならし、足跡やボールの跡を消します。こうすることによって、ボールがどこに落ちたかを、後から確かめることができます。ROLAND GARROSでは、イン・アウトの判定に疑問があると、主審がいちいち審判台から下りて、ボールの跡を確かめに行きます。こういう風景もフランスならではです。
 
1つの試合には、線審、副審、主審を含め9人もの審判が必要ですが、その服装はファッションの国らしく、洗練されています。ワニのワンポイントマークでお馴染みの「ラコステ」がスポンサーになっているため、ラコステのポロシャツが基本ですが、シャツの色は第1日目がオレンジ、第2日目はパープル、第3日目はグリーンで、それ以降は同じパターンの繰り返しです。これにオフホワイトのズボンと靴を組合せています。肌寒くなるときのために同色のスポーツジャケットが用意されていますが、これを着用するときは辺りを見回し、みんなで一斉に着るという気の使いようでした。
 
最終日の審判は、主審以外の全員がブルーの長袖シャツを着用していました。ブルーのシャツ、白のズボン、赤土のコートで、フランス国旗の3色が揃うという、粋な演出でした。
 
私が現地で観戦したのは最初の2日間でした。スペインのパスクアルと対戦した日本のエース杉山愛が、劣勢を跳ね返し、接戦の末初戦突破したのを間近で見ることができました(写真)。シングルスではこのあとベスト16まで勝ち残りましたが、惜しくも優勝候補のセレナ・ウイリアムスに敗れました。しかしベルギーのクライシュテルスと組んだ女子ダブルスでは決勝まで進出、見事優勝を果たしました。決勝の相手は奇しくも、シングルス初戦で競り勝ったパスクアルと、そのパートナーのスアレスでした。
 
失敗を恐れず、思い切りよく攻めていく杉山のテニスは、初夏の風のように爽やかでした。ROLAND GARROSが終わると、ほとんどの選手達は英国に渡り、芝のテニスコートでの試合に備えます。ウインブルドン(全英選手権)まであと2週間。ロンドンは初夏から夏本番に向かいます。ウインブルドンでの熱戦と、杉山選手のさらなる活躍が楽しみです。

03・6・10