No.79
                                   シェイクスピア時代の人気ドラマ
 
シェイクスピア時代のロンドン、観劇は一大エンターテイメントであり、豊かな人も貧しい人も共にドラマを楽しんだといいます。グローブ座以外にも劇場はたくさんあったし、劇作家もシェイクスピア以外にたくさんいたはずです。ところが不思議なことに、現在も上演され続けているのはほとんどシェイクスピアの作品ばかりです。
 
そこでRSCでは、今ではほとんど上演されず、知名度も低い当時の作品を、レパートリー形式(日替わりプログラム)で紹介することにしました。この企画はロンドン・ウエストエンドの一劇場で昨年スタートしたのですが、RSC 側も驚くほどの人気で、現在も日程を延長して好評ロングラン中です。
 
この人気について、RSCのAssociate Directorであるグレゴリー・ドーランは次のように述べています。
「この時代はある意味で、私たちの時代と共通するものがたくさんあったのだと思われます。不安と現実への失望感が交錯し、不確実さと安全性の危うさにおののき、悲観主義や冷笑主義が幅を利かせ、モラルの低下、価値観の変化に振り回される時代でした。そして皮肉、諷刺、ブラックユーモアが大いに受けた時代でもありました。」
 
さてどんなものが上演されているのか、私が見た4作品を紹介させていただきます。
 
EASTWARD HO ! ロンドンを舞台としたトレンディードラマ
地位のある男性の心をつかむことによって、華麗な結婚生活を夢見る娘とその母。真面目に働くのが嫌で、新大陸での一攫千金を夢見る若い男。持参金目当てに新興商人階級の娘と結婚し、妻を裏切って新大陸に渡ろうとする貧乏貴族の男。新大陸への夢は船の難破で見事破れ、一行はテムズ河口の島に流れ着きます。このドタバタ劇をハッピーエンドにまとめるのは、シティーで実直に働く道徳心の高い男でした。
 
THE ROMAN ACTOR 独裁者が巻き起こす悲喜劇
何事も自分の意のままにしてしまうローマ皇帝がいました。家臣の妻を奪って自分の后にすることも平気です。人々は権力を恐れ、それにへつらうことで生きながらえようとします。このような社会状況を憂える俳優達は、演劇を通じてこれを厳しく諷刺します。政府の要職にある人々はこれが気に入らず、演劇活動を弾圧しようと試みます(これは当時、演劇が政府から厳しい規制を受けていた事実と重なります)。独裁者の皇帝自身は演劇が好きでこれを擁護するのですが、独裁者といえども人の心の動きまで左右することはできません。彼の愛する后は、ある劇団の看板俳優に思いを寄せるようになります。嫉妬に狂う皇帝は、この看板俳優に不倫劇を上演するよう強制、自ら『妻を寝とられた男』の役を演じ、劇中で看板俳優を本当に刺殺してしまいます。后は皇帝への怒りを爆発させ、もはや彼の言うことを聞こうとしません。皇帝に苦しめられた人々の怨念が彼を取り巻き、ついに彼は暗殺されることになります。(皇帝を演じたアントニー・シャーはヒットラーを思い出させるような鬼気迫る独裁者ぶりでした)
 
THE ISLAND PRINCESS 国境を越えた恋愛ドラマ
インドネシアにやってきたポルトガル人の探検家と、その島の王女の恋物語。二人の障害となるのは宗教の違い。ポルトガル人の男が断固としてキリスト教を捨てられないと叫び、最後は心優しい島の王女が、愛する男のために改宗に応じます。西洋人にとっていかにも都合の良い結末に、東洋人としては複雑な思いがしました。
 
THE MALCONTENT 義理と人情のリベンジドラマ
イタリアのジェノアが舞台。政敵に追い落とされた大公が、変装し、反体制の毒舌家を装って自分の国に戻ってきます。彼は宮廷内の腐敗を次々に暴き、ついに政敵を追いつめてリベンジを果たします。その陰には、夫が追放されたために獄につながれることになっても夫婦の絆を信じ、さらに夫の政敵が安楽な暮らしを餌に言い寄ってきても夫への操を曲げない妻がいます。また追放された主君に忠誠を誓い、逆境にあっても黙々と主君のために働く家臣がいます。リベンジを果たした大公も、政敵に対して粛清ではなく寛大な態度で臨みます。当時の人々にとって、これは現実に対する皮肉だったのでしょうか。
 
以上4作品にEDWARD III(ごく最近、シェイクスピアの作品だと認定されたもの)を加え、GIELGUD THEATREで日替わり公演が行われています。
 
参考
EASTWARD HO !by Ben Jonson, John Marston, George Chapman
THE ROMAN ACTOR by Philip Massinger
THE ISLAND PRINCESS by John Fletcher
THE MALCONTENT by John Marston

03/03/17