No.75
 
                                   日本の親子は心理的距離が遠い?
 
『子供が親を尊敬しているという割合や、親の側が「子どもは自分の宝だ」と思っている割合が米国、トルコに比べ日本は非常に低く、親子の心理的距離が遠いとする調査結果を東洋大の中里至正教授がまとめた』
 
こんな記事が昨年末の日本の新聞に掲載されていました。
 
外国に長く住んでいると、親子関係の違いに気づかされることが多いのですが、親子の愛情の深さは同じでも、その表現方法が違うのではないかと私は思います。
 
例えば子どもたちが小学生の時、同級生のお母さんが「うちの子はすごいピアニストなのよ」と話しかけてきました。ここで「未来の有名ピアニスト?」などと思ってはいけません。やっと両手でチョウチョが弾けるようになった程度なのですが、お母さんはうれしくてしょうがないのです。
 
こちらの親はだいたいこんな風に、自分の子どもを他人の前で思い切り自慢して誉めます。日本だと、そんなことはタブーです。かなりピアノが上手なお子さんのお母さんでも、「たいしたことないのよ」と謙遜するのが普通です。英国のお母さんみたいな発言をすれば、「親ばか」と思われるか、変人と思われてしまいます。
 
子ども本人に対しても、こちらのお母さんは愛情表現が直接的です。子どもが12歳になるまでは、親が学校まで送り迎えするのが基本になっているので、お母さん達は毎日下校時校門の前で待ちかまえ、我が子がでてくるとしっかり抱きしめて、「今日はどうだった。良い一日だった?」と尋ねます。「あなたのことだい好きよ。」というのも、毎日の挨拶のようなものです。
 
日本では小学校にはいると1人で行動することが多くなり、親子関係より友達関係の方があっという間に大事になってしまいます。
 
また親の方も「過保護」といわれるのを嫌って、子どもに構い過ぎるのを遠慮する傾向があるように思います。それは子どもが思春期に入ると特に顕著で、「言葉に出さなくても愛情は伝わる。親は子供を信じてやればよい。」という考えが支配的なようです。
 
しかし私の娘の通うアメリカン・スクールでは、少し事情が違っています。親は子供の成長のために、積極的に関わろうとします。
 
例えば、ハイスクールの1,2年生を対象に年数回、親が主催するTAP(ティーンエイジ・アクティビティー・プログラム)が開催されます。これは思春期の子どもたちに、健康的な夜遊びの機会を提供するもので、夜7時30分ぐらいから10時過ぎまで、学校を会場にディスコ、スポーツ、映画鑑賞会などが催されます。子どもたちが大好きな米国直輸入のお菓子もたくさん用意されます。
 
高校生が友達同士で夜の街をぶらぶらすることのないよう、また夜の街にでるようになったとき、危険でない遊び方ができるよう訓練するため、親は熱心にこの催しに取り組んでいます。
 
大学受験の準備も、日本とは随分違います。受験準備は、親子一緒に先生の話を聞くところからスタートします。親にも、資料集めから大学訪問まで、子供と共に努力することが求められます。特に将来どのような方向に進むべきかについては、親が自分の経験と立場から、自分の意見をはっきりと子どもに伝えることが求められます。それに子供が反発してケンカになっても結構。子どもは親の経験を知ってこそ、より良い判断ができるのだから、大いに議論してくださいとすすめられます。(これは親にとって、かなりエネルギーを消耗することではありますが…)
 
私は、米国というと自立心を大切にする国だから、子育ての時も子どもの自主性を尊重して放任するのかと思っていたら、実際は努力して、密接な関係を保っているのだということを知り、驚きました。
 
前述の新聞記事で、「日本の親子は心理的距離が遠い」というのも、頷ける気がします。愛情の深さに違いはないと思うのですが、日本にはそれを伝える習慣がないこと、またそのための努力も足りないのかもしれません。
03・02・02