No.74
 
                                     60代からの充実した人生
 
今ロンドンでチケット完売の人気公演の1つに、The Breath Of Lifeがあります。英国の誇る2大女優、マギー・スミスとジュディー・デンチが競演する二人芝居です。
 
二人とも舞台だけでなく映画でも活躍し、世界的に有名なアカデミー賞女優です。
 
マギー・スミスは1969年の映画『ミス・ブロディの青春』でアカデミー賞主演女優賞を受賞。ジュディー・デンチは、『恋におちたシェイクスピア』でエリザベス一世を演じ、アカデミー賞助演女優賞を受賞。こちらのほうはまだ皆さんの記憶に新しいことと思います。
 
舞台でのマギー・スミスは、ローレンス・オリビエ主演のOthelloでDesdemonaを演じるなど、シェイクスピア劇でも活躍してきました。
 
二人が生まれたのは奇しくも同じ1934年。長い演劇人生のなかでも、ロンドン・ウエストエンドの舞台に一緒に立つのはこれが初めてということで、開幕前から大変な話題でした。チケットは早々に売り切れ、現在追加公演中ですが、連日満席です。
 
私は幸運にも、追加公演決定の情報をつかんですぐに予約を入れたので、この話題の舞台を見ることができました。
 
脚本はDavid Hareの新作です。ある男の妻であった人物(ジュディー・デンチ)が、長年夫の愛人であったけれど、今はひとりで、ワイト島(イングランド南岸にある小島)で静かな退職生活を送っている博物館の学芸員であった女性(マギー・スミス)を初めて訪ねる話です。
 
二人の年齢設定は、彼女たちの実年齢と同じ60歳代。ワイト島のマンションの1室だけが舞台です。二人の会話によってお互いの今までの人生が浮かび上がってきます。
 
デンチが演じる女性の結婚生活は既に破綻しており、男はかなり年下の女性と新しい生活を始めるべく、米国に渡ってしましました。彼女は自分の結婚生活がうまくいかなかったのはどうしてか、それを知って自分を納得させたいと、夫の過去の愛人を訪ねることにしたのです。
 
二人の出会いの場面は非常にぎこちなく、お互いに警戒心を抱いていることがわかります。しかし時間が経つに連れ、二人は互いの痛みを理解できるようになり、不思議な連帯感が生まれてきます。
 
最後の場面では二人ともそれぞれに、過去にとらわれず、残りのまだ長い人生を前向きに生きていこうという決意がうかがえ、気持ちの良い幕切れでした。
 
二人の会話だけで観客を引きつけ、2時間ほどの舞台を盛り上げていくのは、さすがに二人とも大女優だなと感心させられました。
 
当日は昼の公演だったので、客席にはこの二大女優と同年代のカップルがたくさんつめかけていました。熟年のカップルといっても、こちらではかならずしも長年連れ添った二人でないことが多々あります。
 
例えば、私のテニス仲間のKさんは50代半ばですが、年末に婚約。彼女は2度目の結婚ですが、相手は60代で、3度目の結婚となります。同じテニスクラブに入っている60代後半のSさんは、3年前に奥さんを亡くしてしばらく落ち込んでいましたが、最近同年代の女性とおつきあいするようになり、非常に若々しくお元気になられました。いくつになっても、こういう場合の相手のことを「ボーイフレンド」「ガールフレンド」と呼んでいるのも、たいへんほほえましいものです。
 
私が60代になったら、長年連れ添った夫と楽しく観劇に出かけるのが夢ですが、今のところ彼の方は一緒に劇に行くたびに隣で居眠りしてしまうので、実現には時間がかかりそうです。

03・02・02