ハリウッドスターの学校訪問
 
グレン・クローズ(Glenn Close)をご存知ですか。映画ファンの方なら、『Fatal Attraction』 をはじめ、何度もアカデミー主演女優賞の候補にあがっているのでお馴染みのことと思います。シェイクスピアファンの方には、メル・ギブソン主演の『ハムレット』でガートルードを演じた女優として、思い出されるかもしれません。ディズニーファンの方には、『101匹ワンちゃん』、『102匹ワンちゃん』の実写版で、ダルメシアンの子犬を捕まえて毛皮のコートにしようとするクルエラ・デ・ビルといえば、思い出していただけるでしょう。
 
彼女は9月から11月まで、ロンドンの舞台に立っています。テネシー・ウイリアムスのA STREETCAR NAMED DESIREで主役のブランチを演じているのですが、彼女の人気を反映して、チケットは発売と同時に売り切れてしまいました。
 
娘は今年ハイスクールの10年生で、20世紀前半の米国文学を勉強しているため、授業の一環としてこの公演を見に行くことになっていたのですが、その日の午前にグレン・クローズがわざわざ学校に来て全校集会に出席、生徒の質問に答えてくれたそうです。
 
グレン・クローズはもともと舞台出身で、ブロードウェイのストレートプレイやミュージカルでも活躍してきました。大学時代から演劇に本格的に取り組むようになったそうですが、長い下積み時代も経験したようです。
 
駆け出しの頃、主演女優のアンダースタディー(臨時代役俳優)の役をもらいました。アンダースタディーが本当の舞台に立てることはまずなく、練習も全部出ることは要求されていなかったけれど、彼女は演じることが楽しくて、リハーサルも自主的にすべて出席したそうです。ところが公演開始が迫ったある日、主演女優が突然退団することになりました。監督はグレン・クローズに、「君に賭けてみよう」といって主役を任せてくれたそうです。その時のうれしさは今も忘れられないと彼女はいいます。
 
初日に楽屋入りしたときのこと。主演女優は他の俳優と違って、専用の楽屋が与えられます。前回の主演女優が次の主演女優へメッセージを送るのが、その劇団の伝統だったそうです。楽屋のドアには、“Be Brave ! Be Strong !”と書かれた紙が貼られていました。そのメッセージは、今も彼女の心の支えになっているそうです。
 
公演は無事終わり、グレン・クローズは大役を果たしました。そのあとはまた大部屋の楽屋に戻り、脇役をいろいろ演じるのですが、この時の経験が彼女の女優人生に大きな影響を与えました。彼女が演じる役柄には、強さがあります。『Fatal Attraction』ではそれが強烈に表れています。今回のA STREETCAR NAMED DESIREでも、主役のブランチは「脆くはかない女性」というのが従来の解釈でしたが、彼女のブランチには、「今までの人生を1人で背負ってきたという人間的な強さ」があります。
 
「映画と舞台ではどちらが好きですか」という生徒からの質問には、次のように答えていました。「舞台です。私は自分が与えられた役の性格を考え、それが反映されるように演技をします。映画では、自分で工夫したシーンでも監督の判断でカットされてしまい、残念な思いをすることがあります。これに対し舞台では、幕が上がってから降りるまで、自分の判断でその役になりきることができるので、やりがいがあります。」
 
彼女はプロデューサーとしての仕事も手がけています。「この方面の仕事は今後も続けますか」という質問に、「やってみたいという思いは強くありますが、今は娘のアニーとの時間を大切にしたいので、当面の予定はありません。」と答えていました。
 
アニーちゃんは14才。母親の仕事に付き合ってロンドンに来て、2ヶ月だけ私の娘と同じ学校に通っていました(学年は1つ下)。それが縁で今回のグレン・クローズ学校訪問が実現したようです。彼女の結びの言葉は、「皆さん娘と仲良くしてくださってありがとう。おかげさまで良い経験ができたようです。」でした。
 
プロの女優として活躍しながら、娘を大切にする母親としての姿も見せてくれたグレン・クローズ。私の娘にも、強い印象と爽やかな感動を与えてくれたようです。

02・11・24