Back To School Night −「お帰りなさい」の夕べ−
 
英国では9月が新学年の始まりです。娘の通うアメリカンスクールも同じで、毎年9月末にBack to School Night というものが開かれます。これは父母が対象の行事で、子どもたちがこれから1年間どのような勉強をするのか知る絶好の機会です。
 
この夕べは、長い夏休みを終えて学校に戻ってきた子どもたちに「お帰りなさい」の意味を込めると同時に、親に対しても「久しぶりの学校にお帰りなさい」という意味が込められています。というのも親は、学校に着くとまず受付である日の子供の時間割を受け取り、その学校生活を自分自身で体験することになるからです。
 
この学校では、日本のようにクラス単位で受ける授業はなく、ほとんどすべての科目が選択制なので、時間割は子供によって全く違ってきます。
 
勤め帰りの親も参加できるよう、授業のスタートは夜7時です。そのため子どもたちの1時間授業を、10分間の短縮版で受けることになります。教科ごとに教室が変わるので、5分間の休み時間に親は、時間割と教室名を記した紙を片手に廊下をうろうろすることになります。
 
教室では子供がいつも座っている席に座り、隣にいる親と情報交換し、先生の説明を聞きます。10分間の扱い方は先生にとって様々で、その個性が発揮されています。
 
フランス語初級の若い先生の話を聞くと、自分も授業にでたくなります。
「とにかくフランス語で、できるだけたくさんしゃべるのが目標です。12月にはフランス(北部の都市リール)に日帰りで研修に行きます。レストランに行ってフランス語のメニューを読み、3コースのランチをフランス語で注文できるようにするのが課題です。それから有名なリールのクリスマスマーケットに行って、私が指示した5つの品物を捜し出して買ってくるゲームをやります。そのためには、ボキャブラリーと発音が大切。勉強は大変だけど、頑張ってくださいね。」
 
英語の時間はこんな風でした。
「今年は1900年から1950年の米国文学が焦点です。ヘミングウェー、スタインベック、テネシー・ウイリアムスなどの作品を読みますが、幸運なことに、生徒達はテネシー・ウイリアムスの戯曲「欲望という名の電車」を観劇に行くことになっています。グレン・クローズ(米国の有名な映画・舞台女優)が主役なんですよ。」
 
これはナショナルシアターで上演される話題の舞台です。英国屈指の演出家トレバー・ナンの演出で、米国からグレン・クローズを迎えるとあって、チケットは発売と同時に売り切れ。(私も買いたかったのに……)若いうちから本物に触れられるなんて、本当に幸運な生徒達です。
 
化学の時間は、水を酸素と水素に分ける実験を10分間で見せてくれました。「化合物と元素の違いは何ですか」「この2本のシリンダーのどちらが酸素で、どちらが水素ですか」などという質問が飛んできて、答える親も冷や汗ものです。最後に宿題のプリントが手渡されます。「毎日宿題を持って帰る子供の気持ちをわかってもらわなくてはなりませんからね。終わったら自分のお子さんに渡してください。採点は彼らがやってくれます。」
自分の高校時代を思い出す、緊張した10分間でした。
 
授業が全部終わったのは、午後8時45分。参加者は父親と母親がほぼ同数。両親揃って出席のご家庭も多くありました。いつもながら、夜遅くまで学校に残ってくださる先生方に頭が下がります。何でもアメリカ式が良いとは思いませんが、こんな行事は日本でも取り入れてほしいと思った夕べでした。

02・10・12