コヴェントガーデン
 
コヴェントガーデンというと、マイフェアレディーの主人公、イライザが花売りをしていた場所としてご記憶の方も多いと思います。今では露店こそありませんが、地下鉄コベントガーデン駅の周りには小さな店がたくさん集まっていて、いつも活気があります。世界中のお茶を集めて売る店、化石や水晶の原石を売る店、イタリア料理の食材を売る店、様々な色や形のビーズを売る店など、ちょっとのぞいてみたくなるお店が並んでおり、大道芸人がいたり、道ばたでバイオリンを演奏している人がいたりと、気取らない、楽しい街です。
 
しかしこのコヴェントガーデンにはもう一つの顔があります。白亜のコリント式柱廊が美しい、荘厳なロイヤルオペラハウスがその一角を占めているからです。労働者階級の娘イライザが上流階級のヒギンス教授と出会うのは、オペラの夜。ヒギンス教授はオペラを見にコヴェントガーデンにやってきて、花売り娘のイライザに出会います。
 
現在のオペラハウスは上流階級だけのものではなくなっていますが、それでも良い席で見ようと思うと、お芝居が3-4回見られる計算になります。そんなわけでそうそう気軽には見に行くことができませんが、先日久しぶりに出かけてみました。オペラハウスは数年前に大改装工事を行っています。1858年創建当時のギリシャ式建築の外観や、ホール、大階段などはそのままに、外側に観客用のレストラン、バー、ショップなどの施設を建て増ししています。新しくできた部分は、ガラス張りの大きな吹き抜けをエスカレーターで上っていくという大変モダンなものですが、それが昔からのオペラハウスの部分と違和感なくマッチしているのが不思議です。
 
新しい施設は、オペラを見に来る人々に「とびきり素敵な夜」を過ごしてもらおうという工夫にあふれています。レストランはオペラを見に来る人専用で予約が必要ですが、開演時間を気にせず食事ができます。幕間が長いので、あらかじめ頼んでおくと、幕間にテーブルに戻ってデザートや、コーヒー、アルコール類をいただくことができます。バーとラウンジのスペースもずっと広くなり、ゆっくりとくつろげるようになりました。
 
当日の演目は、リヒャルト・シュトラウスのオペラ「ナクソス島のアリアドネ」でした。ロイヤルオペラハウスは原語上演を原則としているので、ドイツ語での公演。(ちなみにロンドンにあるもう一つのオペラハウス、「イングリッシュナショナルオペラ」は英語上演が原則です)舞台中央の上の方に英語の字幕が表示されるようになっています。
 
このオペラは、フランス人、モリエールの戯曲をベースに、ドイツ人リヒャルト・シュトラウスが作曲したものです。指揮はこの9月にオペラハウス史上最年少で音楽監督に就任したアントニオ・パッパーノ。彼はイタリア人の両親のもとロンドンで生まれ、主にアメリカで音楽を学んだ注目の指揮者です。オペラは音楽が主体なので、演劇よりは原語の壁が低いのでしょう。様々な文化が融合され、いろいろな国の人が共に楽しめるところに、オペラの良さがあると思います。当日のお客さんも、飛び交っている言葉を聞いていると、英国人以外の方が多かったような気がします。
 
オペラの幕がおり、マイフェアレディーの頃なら馬車のお迎えがオペラハウスの前に列をつくるところですが、当日も黒塗りのハイヤーがお迎えに並んでいました。それを横目で見ながら、私はコヴェントガーデンの地下鉄の駅に急ぎました。駅前はその時間も、若い人達で賑わっていました。

02・09・22