・400年前のTwelfth Night

劇場にはいると、既に音楽の演奏が始まっていました。リュート、ビオール(バイオリンの前身の弦楽器)などによる、静かな哀調を帯びたメロディーです。

400年前の観劇は音楽とセットになっていることが多く、劇の開演前に1時間ほどの音楽演奏があったり、幕間にも演奏のはいることがあったようです。

Twelfth Night上演の場合、この音楽は特に重要な役割を果たします。開演前の音が途切れたところで、劇の冒頭のせりふ

  If music be the food of love, play on;

が発せられるからです。

さて衣装の方は、上演当時の世間一般のファッションが原則であったといわれています。ステージ衣装は豪華な物が多く、当時の記録によると、ローズ座の看板俳優であるEdward Alleyn が購入した外套は、黒のベルベット生地で袖には金銀の糸で縫い取りがあり、裏地は黒のサテンで金色の縞模様がついていたそうです。当時学校の先生の年棒が15ポンドであったのに、この外套は20ポンドもしたそうです。

そんなわけで高価な衣装は、役柄やプロダクションによって少しずつ手を加え、何度も利用されたようです。

今回の公演の衣装は、当時の絵画や、ビクトリア・アンド・アルバート美術館に所蔵されているエリザベス朝時代の衣装を参考にしてつくられました。そのスタイルは、ヘンリー8世やエリザベス女王の肖像画を思い浮かべていただければよいと思います。男性は短めの膨らみのあるパンツにストッキングを着用。女性は襟飾りのついたロングドレスです。

Twelfth Nightでは、8人の片思いが交錯します。それぞれが一途な思いを遂げようとするので話しは複雑に。さらに主人公のバイオラが男に変装しており、双子の兄であるセバスチャンとそっくりであるため、ますます混乱が大きくなります。今回の公演では二人の衣装は全く同じ、背格好やヘアスタイルもそっくりで、兄の方が舞台に初めて登場したときには、観客のほとんどがバイオラと見間違えたようです。

本人にとっては真剣な恋も、傍目で見ると実におかしく、観客席から笑いの絶えない今回のTwelfth Nightでした。この作品は現代ではどちらかというと感傷的に演じられることが多いのですが、400年前は抱腹絶倒の楽しいお芝居だったようです。

例えばマーク・ライランス演じるオリビア。愛する人が誰かに襲われているのを見て、我を忘れて長いなぎなたのような物を持ち出します。火事場のバカ力で振り上げたものの、か弱い女性に扱えるはずもなく、かえってなぎなたに振り回されてしまいます。その姿に笑いながらも、「愛のエネルギー」に翻弄される登場人物達を愛しいと感じさせるような演出でした。

この演出姿勢は劇のエンディングにも反映されています。道化フェステの歌で終わるのですが、現代の演出はそれをしんみりと聞かせるのが主流です。しかし今回の演出では明るく生き生きしたメロディーで、全員が舞台に登場、手に手をとって、楽しそうにジグ(3拍子の踊り)を踊りました。

400年前の劇場では、最後にこのジグを踊るのが慣例だったそうです。

当時の観客も今回のグローブ座を見た私と同じように、思いっきり笑って、楽しんで、元気をいっぱいもらって劇場を後にしたことでしょう。

02・07・19