400年前のTwelfth Night


シェイクスピア時代の音楽と衣装に惹かれて、グローブ座のTwelfth Nightを見るこ
とにしましたが、大事なことを忘れていました。

当時女性は舞台に上がることを禁じられていたので、すべての劇はオールメールキャ
スト(全員男性)で演じられていたのです。

日本の歌舞伎には今でも女形が存在しますが、現在の英国にそういう伝統は残ってい
ないので、いったいどのように演じられるのか興味をそそられました。

Twelfth Nightには女性が3人登場します。主人公のバイオラ、女伯爵オリビア、そ
して彼女に仕えるマライアです。グローブ座の芸術監督でもあるマーク・ライランス
がオリビアを演じました。彼は3年前にもグローブ座で、「アントニーとクレオパト
ラ」のクレオパトラ役を演じ、好評を得ています。ロンドンを訪問された『雑司ヶ谷
シェイクスピアの森』の有志が、グローブ座でハムレットを観劇された際(2000年)に
は、主役を演じていた俳優です。

この劇を演出したティム・キャロルは、男性が女性の役を演じることについて次のよ
うに話しています。

「女性らしい仕草や動きに気を使いすぎると、男性が女性を演じるときにありがち
な、『女らしさ』を強調しただけの演技になってしまいます。マーク・ライランスは
すでにクレオパトラを演じた経験があるので、あとの2人も彼の演技からいろいろ役
作りを学ぶ事ができたと思います。私としては、単純な身のこなしを少しトレーニン
グさせただけで、あとの役作りは、俳優自身に任せました。」

マライアを演じたポール・シャイディは、リハーサルの初期の段階から、スカートを
ふくらませるワイヤー製の下着をつけ、ヒールのある靴を履いて、女性らしい身のこ
なしを習得したそうです。最初にコルセットを身につけたとき、それは「苦痛」以外
の何ものでもなかったそうですが、浅い呼吸をすることによって、何とか乗り切るこ
とができたそうです。

シェイクスピア時代のやり方に倣って、胸と手のひらにワックスを塗り、チョークと
くず粉を混ぜたもので顔に化粧をします。優雅なロングドレスはすそさばきにも苦労
します。これを経験したポールは次のように話しています。

「最初は衣装に着られているようで、自分はそれに圧倒されている感じでした。けれ
ども何回か舞台を経験しているうち、衣装を付けているというより、ただ服を着てい
るという感じに変わってきたのです。つまり自然体で演技ができるようになり、着て
いる服に何かを語らせようという姿勢で臨めるようになりました。」

その結果は…・。

このお芝居を見た後何人もの人達が、「男の人が女役をやるなんてどうなるかと思っ
たけど、ちっとも不自然じゃなかったね。」といっているのを耳にしました。

バイオラ役は、若くてすらっと背の高いハンサムな役者さんです。彼の場合舞台で
は、最初のシーンを除いて、男性に変装した女性の役であるため、衣装での苦労は少
なかったと思います。もともとがハンサムな男の子であるだけに、オリビアが彼(実
は彼女)に恋をしてしまうのも説得力があります。また逆にバイオラがオーシーノ伯
爵に恋心を抱いて彼を見つめる時、男性同士が見つめ合う場面に、観客からは自然に
笑いが沸き起こりました。
前述のポールは、イタズラ好きなマライヤを茶目っ気たっぷりにのびのびと演じてい
ました。

しかし女性役のなかで光っていたのは、やっぱりマーク・ライランスでした。オリビ
アは兄の死の喪に服し、黒ずくめの衣装で悲しみに沈んでいるのに、男性に変装した
バイオラを見た途端、恋する女に変わってしまいます。そんな様子を健気に、時には
大胆に演じて、「愛のエネルギー」の強烈さを体現していました。そしてそんなオリ
ビアを見ながら、観客席には笑いが絶えませんでした。しかし一方でそれは、オリビ
アの恋する心を観客に愛しいと思わせるようなすてきな演技でした。

衣装と音楽については、次回に詳しくご報告しようと思います。

02・07.14