シェイクスピアビジネスマンの友 !?

前回のロンドン通信でご紹介したShakespeare and Coは、英国生まれのTina Packerさんが1978年に米国で創設した劇団です。Packerさんは以前、英国のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーやBBCのプロダクションで活躍していましたが、劇団創設後は米国を拠点として活動しています。

2001年9月3日発行のニューズウイーク誌に、The Bard as Capitalist Tool(資本主義者のツールとしてのシェイクスピア)というタイトルで彼女のインタビュー記事が掲載されています。これがとても面白いので、少しご紹介したいと思います。

なぜアメリカにやって来たのですか

「アメリカの人々は身体的な活力に溢れていますが、一方で心理的な支柱となるものを求めています。気力が充実していると共に、心はオープンです。その多民族的なカルチャーは荒削りで、今のイギリスの文化と比べたとき、アメリカの方がエリザベス朝の文化により近いと思ったからです。」

シェイクスピアは今の時代、本当に意味のあるものでしょうか

「シェイクスピアはあらゆるトラブルの対処法を教えてくれます。彼の戯曲は私たちに、自分がどういう人間であるかを考え、自分の深い内面を見つめる方法を示してくれます。シェイクスピアがあなたの魂に宿り、人間が遭遇するさまざまな状況に立ち向かう手助けをしてくれるのです。例えばハムレットは、現代的感覚を持った最初のヒーローです。なぜなら彼は、完全無欠の解決策など存在しないことを知っているからです。私たちが選択をするとき、完璧な選択などありえません。善に少しでも近いものの中から、どれかを選ぶしかないのです。何が一番倫理的で、創造的で、私達を成長させてくれる選択肢なのか。こういったことを考えるときに、シェイクスピアはすぐれたガイド役となってくれます。」

ビジネススクールでも教えていらっしゃるということですが

「コロンビア大学のエグゼクティブMBAコースで教えています。ビジネスマンを相手にするのは大好きです。こういった方々は戯曲の中の権力闘争に関心を持ち、人生をどのようにして意義あるものとするか、どうしたら自分の足跡を後世に残せるかといった答えをその中に見いだすことに、大変魅力を感じておられます。

現在Shakespeare and Coは、シェイクスピア時代のローズ座を米国に再建することを目指しています。インタビューの最後でPackerさんは、ローズ座完成後の目標は何かと尋ねられ、次のように答えています。

シェイクスピア・上演および研究センターをつくりたいと思っています。ビジネスマンの方々が、ひとときシェイクスピアに浸れるような場をつくりたいのです。人間が生まれ変わり、元気づけられる、活力の本源のような場所にしたいと思います。単なるシアター(劇場)にはしたくありません。なぜならシェイクスピアは、シアター(演劇)よりもっと大きな存在であるからです。」

時代を超え、非行少年少女もビジネスマンも惹きつけてしまうシェイクスピア。本当に不思議で、改めて奥の深さを感じます。

02/07/02