非行対策の妙案?

どこの国でも、青少年の非行問題には頭を悩ませているようです。

英国でも、毎日5万人の青少年が学校をサボっていると推計されており、それが反社会的行動につながるということで憂慮されています。ブレア首相は「我が子の非行に対して責任ある対応ができない親には、国家が支給する扶養手当をカットする」と発言し、話題になっています。

子供の怠業(不登校)に真剣に向き合わなかったと判断された親には、懲役刑と罰金を科す法律が既に制定されていましたが、今週ついにそれが初執行され、怠業を繰り返す13歳と15歳の二人の娘に対し、過去2年間十分な対応をしなかったということで、43歳の母親が60日間投獄されることになりました。

政府側は、これを機会に親としての責任と自覚を促したいようです。しかしティーンエージャーともなれば親の言うことを聞かないのがあたりまえ。ただでさえ親の悩みは深いのに、さらに社会的制裁も受けなければいけないというのはちょっと複雑な気持ちです。今回投獄された母親にも、同情が集まっています。

こんな時期タイムズ紙に、ティーンエージャーの非行対策に関連する興味ある記事が掲載されました。(2002年5月2日付 T2 P6,7)

記事のタイトルはシェイクスピアのThe Taming of the Shrew(じゃじゃ馬ならし)にちなんで

The Taming of the criminal crew by William Shakespeare

米国マサチューセッツ州にあるピッツフィールドという町では、反社会的行為を犯したティーンエージャーに対する懲罰として、地域奉仕をさせる、罰金を科すに加え、シェイクスピアを演じるという選択肢が設けられているというのです。

この一風変わった懲罰を考え出したのは判事のPaul Perachi。ピッツフィールド高校の校長を務めていた時に、シェイクスピアの力に目覚めたそうです。Perachi氏は次のように語っています。

「私は学校勤めの時期、シェイクスピアが大嫌いでした。スポーツが得意なタイプだったので、そちらの方面に関心がありました。そんなわけで地元の劇団が我が校を訪れると決まったとき、ちょっと困ったなと思いました。生徒が騒いで学校の恥になってはいけないと思ったのです。そこで劇の上演中みんなが静かにするよう、会場内に教員をくまなく配置しました。

一人の俳優がステージの中央に立って劇がまさに始まろうとするそのとき、革ジャンを着て、髪をムースで固めた少年が何か大声で叫びはじめました。そして座っていた椅子から立ち上がり、俳優に向かって罵詈雑言を吐きながらステージに詰め寄ったのです。私は逆側に座っていたので、その少年を阻止することができませんでした。少年が俳優の前に立ちはだかった瞬間、ビシーッという音と共に俳優はその少年に一撃を食らわし、少年はその場に倒れてしまいました。私たちは皆、息をのみました。

あとでわかったことですが、その少年は劇団側が用意したサクラだったのです。これに続いて俳優達は、ステージ上でのけんかをどんな風にやるか実演し、生徒達の心をがっちりと掴んでしまいました。

ちょうど学校の演劇担当の教師が退職したため、私はこの劇団にその穴埋めを頼みました。そしてこれが生徒に大いに受け入れられたのです。我が校の優等生中の優等生とまったくの落ちこぼれが、初めて力を合わせる経験をしました。それによって生徒達の自尊心が高められ、倫理感も強められたのです。そんなわけで、自分が判事になったとき、同じ事を法廷でもやってみようと考えたわけです。」

昨年彼は初めて、ピッツフィールドの町の清掃奉仕の代わりに、シェイクスピアの『リア王』を学んで演じるという懲罰を未成年犯罪者の一団に科しました。

その一団は最初、内部で殺し合いが起きそうな雰囲気だったのに、12週間のシェイクスピア懲罰が終わる頃には、せりふを覚えるのを助け合うようになったといいます。彼らは今まで経験したことのない新しい人間関係を、これによって築けるようになったのです。

この成功の原動力となっているのが、地元の劇団Shakespeare and Coですが、実はこれはこのウエブサイトでもお馴染みの、ロイヤルシェイクスピアカンパニー(RSC)出身の女優が設立した劇団です。

次回はこの劇団の活躍について、もう少しお伝えしたいと思います。

02・05・17