シェイクスピアは不滅です
シェイクスピアの記念日である4月23日の翌日、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの芸術監督であるエイドリアン・ノーブルが辞意を表明しました。
彼の劇団運営方針に対しては、今まで劇団内部からも不満の声があがっていましたし、メディアでも手厳しい批判が展開されていたので、ついにその時が来たかという思いがしています。この詳細については、前回のロンドン通信でご紹介したストラットフォード在住のMichiyoさんのウエブサイトに特集がありますので、そちらをお読みください。
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーといっても人間の作る組織ですから、様々な思惑や駆け引きが交錯し、迷走することもあると思います。シェイクスピアの好きな私が望むことは、彼の故郷ストラットフォードで、シェイクスピアの素晴らしい舞台が上演され続けることです。そのためにも、RSCが今回の試練を乗り越えてくれることを願わずにいられません。
劇団には浮沈がありますが、シェイクスピアは不滅で、400年に渡って人々を魅了し続けてきました。それを実証するような記事を見つけたので、ご紹介します。
4月28日付サンデータイムズ紙別冊cultureの書評欄に、AFTER
SHAKESPEAREというアンソロジーがとりあげられています。編者はJohn Gross。ベン・ジョンソンから最近の映画Shakespeare in Loveまで、シェイクスピアの影響を受けた作品やシェイクスピアへの言及を集め、一冊にまとめたものです。
書評を担当しているハンフリー・カーペンターは、「この本を読めば読むほど、シェイクスピアはどんな人物であったかが分からなくなる。これは決して、この本を非難しているわけではない。巻頭でとりあげているWalter Bagehot(in1853)が示唆しているように、シェイクスピアが実際にはどんな人物であったか知ろうとすることは、自分で自分の首を絞めるような行為である。」と述べています。
この本を読むと、人々がシェイクスピアの作品の中に自分自身をどのように投影してきたかがわかり、それによってシェイクスピアの謎は深まるばかりだそうです。
「かつてアルバート・シュバイツアーは、『イエス・キリストを歴史上の人物として心に思い浮かべようとするとき、人は鏡を覗き込んで自画像を描くような事態に陥ってしまう』と述べたが、シェイクスピアについては、キリストよりさらにこれがぴったり当てはまることを、この本の編者は示している。」
例えば、南アフリカのロッペン島に収容されていたネルソン・マンデラ氏や他の政治犯達にとって、ある時期シェイクスピアは、自由を代弁するものであったようです。マンデラ氏の伝記を執筆したAnthony Sampsonは、全ての囚人が共通して持っていた本がシェイクスピアだったといっています。
またヒットラーは、英国にシェイクスピアという劇作家がいることを非常にうらやましく感じていたそうです。「現在までの所ドイツには、歴代の諸王を題材にした劇作家が存在しないから」という理由です。ただしナチスが無条件にシェイクスピアを賛美していたわけではありません。『ベニスの商人』は「反ユダヤ主義が十分反映されていない」という理由で、発売禁止扱いだったそうです。
シェイクスピアが人々を魅了するのは、このように自分自身に引きつけて色々な解釈ができるからです。このことは雑司ヶ谷シェイクスピアの森・シェイクスピア雑記帳の中で宮垣さんが述べておられることにつながります。
またシェイクスピアは、人と人との出会いを演出してくれます。私が雑司ヶ谷シェイクスピアの森の皆さんと出会えたのもシェイクスピアのお陰、誕生祭パレードの日にストラットフォードでMichiyoさんと出会ったのもシェイクスピアのお陰です。
ここで改めて、不滅のシェイクスピア誕生に乾杯!!
AFTER SHAKESPEARE
An Anthology edited by John Gross
Oxford
University Press£17.99 pp360
02・05・01