英国の競馬

英国では競馬のことを「王族のスポーツ」と呼ぶそうです。例えばミュージカル・マイフェアレディーにも登場する『ロイヤル・アスコット』は英国王室が主催するレースで、毎年女性たちのかぶる工夫をこらした華麗な帽子に注目が集まります。先日亡くなられたクイーン・マザーも馬が好きで、競走馬を何頭も所有していたそうです。

私は日本の競馬場に行ったこともありませんが、先日幸運なことにアスコット競馬を見に行く機会がありました。

当日は『ロイヤル・アスコット』ではなく普通のレースなので、帽子をかぶっていく必要はありませんでしたが、招待状には、「男性はジャケット着用、女性は日本の入学式付き添いのような服装で」とあり、ちょっと緊張して出かけました。

アスコット競馬場はロンドンから車で約1時間のところにあります。ウインザー城を目印に高速道路を降りるとまもなく、広大な公園が道の両側に広がり、次に競馬場の敷地が見えてきます。そこは一面緑の芝生で、その一辺に観客席をそなえた建物が並んでいます。

レーストラックのゴール地点前が観客席としては一番良いところなので、そこにメンバー用観覧席、その隣がグランドスタンド、そしてさらに先がシルバーリングと呼ばれる観覧席です。それぞれ入場料が違うのはもちろんですが、ドレスコード(服装規定)も異なります。

公式プログラムには次のように記されています。

「多くの競馬ファンの方々にとってアスコットは特別な存在であり、それに相応しい服装を心がけておられます。ですから、どなたもきちんとした服装をなさることをお奨めいたします。

メンバー席では、男性はワイシャツにネクタイ、またはポロネックセーターにジャケットが必須です。ジーパン、半ズボン、運動靴では入場できません。

グランドスタンドでは、きちんとした半ズボン、ジーパンは許されますが、タンクトップやノースリーブはお避け下さい。

シルバーリングでは服装の規制はありません。」

この規定からも、英国の競馬がただ賭事のためだけではなく、大切な社交の場であることが伺えます。当日もさすがに、皆さんドレスアップしていらっしゃいました。競馬場の一角では結婚式披露宴も行われていました。

私はある日本企業の所有するメンバー用ボックス席に招待していただいたのですが、レーストラックを見渡せるバルコニーまでついた独立した部屋で、屋内からもガラス越しにトラックが見え、入り口脇には小さなキッチンがついていて、専属のウエイトレスが2人控えており、ドリンク、昼食、アフタヌーンティーと世話をしてくれます。お客さんはゆっくりと会話や賭けを楽しむことができます。

私のいたボックス席は、レーストラックのゴール地点から遙かに離れたところにありました。ゴール地点に近づくためには、誰かがゴールよりのボックスを手放すまで待つしかないそうです。しかしボックスを所有することはステータスのしるしであり、代々受け継がれていくものが多いので、10年のうちに一部屋分ゴールに近づけるかどうかというところだそうです。

私の賭けは見事にはずれましたが、英国の長い伝統を感じさせる興味深い一日でした。

02・04・18