アメリカンスクール・生徒によるマクベス上演

 

アメリカン・スクールの全生徒に配布されるガイドブックには、各教科の到達目標や講座内容が詳しく説明されています。英語科の『シェイクスピア上演』については、次のような紹介があります。

この講座は、本校のシェイクスピア劇上演に真剣かつ熱心に取り組む生徒のために開講される。シェイクスピア作品を一つ選び、参加者は読者としてまた俳優として、その作品に没頭することが求められる。筋や登場人物の複雑さをより深く理解するため、原文を徹底的に分析する。その手段として、文章で表現したり、ディスカッションを行ったり、実際に役を演じてみる。また参加者は、照明、衣装、大道具、小道具といった、劇上演に関係するあらゆる要素の制作および調整にも関与する。劇のリハーサルは主として授業中に行うが、上演に先立つ1週間は放課後や夕方遅くにまで練習が及ぶので覚悟しておくこと。演技経験の有無は問わないが、本校コミュニティーを観客とするシェイクスピア劇上演で、全員が何らかの役を演じることになる。この講座は演劇術科の『演技:シェイクスピア劇上演のテクニック』と合同で開講されるので、受講者は必ず両方の講座を履修すること。

学校は週5日制で、1日は7時限目まであります。生徒は最大7講座まで授業が選択でき、どの講座も毎日授業があります。1時限は45分授業ですから、上記の2講座を選択した生徒は、毎日最低90分シェイクスピアの世界に浸ることになります。また宿題が毎日課され、毎週のようにテストがあります。さらに演劇術科の『演技:シェイクスピア劇上演のテクニック』履修条件に「ロンドンのプロ劇団およびアマチュア劇団の公演を、可能な限り観劇すること」がついているので、シェイクスピアとのふれあいはますます深いものになります。

こうして迎えた学期末総決算の生徒による公演が「マクベス」でした。講座の紹介にもあるように、公演前の1週間は皆で夜10時頃まで学校に残り、最後の仕上げを行ったそうです。

そして本番。普段学校行事で使用する大劇場のバックステージに、席数100足らずの小劇場がつくられていました。中央に小さな低い舞台、その周りを客席が取り囲んでいます。役者は観客席の間を縫って登場し、退場します。劇場内部は全体に黒いカーテンが張り巡らされ、中央部の天井からは木の枝がぶら下がっていて、暗い森のイメージを表していました。

照明を落とし、暗い舞台にまず霧を発生させ、オープニングシーンの3人の魔女登場です。暗闇に魔女の顔だけがくっきり浮かび上がります。よく見るとそれぞれ懐中電灯をもって、あごの下から自分の顔に光をあてているのです。まず観客をマクベスの世界に引き込むのに、この演出は非常に効果的でした。そして韻を踏んだ魔女のせりふは、見事にシェイクスピアの英語になっていて、耳に心地よく、安心して聞くことができました。

これは魔女だけでなく、登場する生徒全員がよく訓練されていて、本当に素晴らしいと思いました。言葉の意味をよく理解し、感情を込めてせりふを語っているのがよく分かりました。特に魔女の一人は、数ヶ月前にやはり学校で上演された別のプロダクション(テネシー・ウイリアムズのRose Tattoo:主人公はスペイン移民のアメリカ人)で主役を演じており、その時はスペインなまりの英語を話していたのに、今回は完璧にシェイクスピア英語だったのが印象的でした。

演技力はさすがに生徒によってまちまちでしたが、2時間あまりの上演中緊張感を途切れさせることなく、全員で力を合わせて演じきっていたのは見事でした。特にマクベスがバンクォーの亡霊を目にする宴会の場と、正気を失ったマクベス夫人のシーンが素晴らしかったと思います。生徒の人数が限られているので、主役以外は一人で何役もこなし、効果音や舞台転換も担当していました。観客からは惜しみない拍手が送られ、演じた生徒からも深い達成感と自信が感じられる、幸せな一時でした。

02・03・05