Queenの陰にPrinceの存在

英国のエリザベス女王II世は、2月6日で在位50周年を迎えました。

日本では男子にしか皇位の継承権がないため、英国のように女子にも継承権を認めるべきだという論議が盛り上がりつつあるようです。しかしここ英国でも、男子が王位を継ぐのと女子が王位を継ぐ場合では、少し違いがあります。

男子が国王(King)に即位する場合は、その配偶者が自動的に「女王(Queen)」となります。エリザベス女王II世の父が国王ジョージVI世に即位した際、その配偶者であるエリザベス(現女王の母ですが、同名)も女王に即位しました。しかしこの場合統治権はジョージVI世にあるので、国王の死後、統治権は娘であるエリザベスが継承し、エリザベス女王II世となりました。

つまり「女王(Queen)」には、統治権を持った女王と、国王の配偶者としての女王の2種類があるわけです。現在の女王がエリザベス女王II世というのは、統治権を持つエリザベス女王として、彼女が英国史上2人目であるからです(統治権を持った最初のエリザベス女王は、もちろんシェイクスピア時代のエリザベス女王〔1558−1603〕)。

これに対し女子が女王に即位する場合、その配偶者は「国王(King)」にはなれません。エリザベス女王II世の夫はPrince Philip(日本語では「フィリップ殿下」)のままです。Prince Philipには他にも色々な称号があり、多くの場合Duke of Edinburgh(エジンバラ公)と呼ばれています。

Prince Philipはギリシャの出身で、エリザベス女王II世がまだ王女であった時代に結婚、長年にわたり陰で女王を支えてこられたと思われます。

さて、同じヨーロッパの国であるデンマークの王室も、英国と似たような状況にあります。デンマーク女王マルグレーテII世は統治権を持つ女王であり、夫はフランス生まれのPrince Henrik。最近この王室にちょっとした事件が発生、王室ゴシップの好きな英国メディアがそれを取り上げました。

デンマークのPrinceに関わる話なので、シェイクスピアのハムレット(彼もデンマークのPrince)にからめた記事になっているのがおもしろいところです(2002年2月6日付METRO紙)。

先ず見出しが『今のデンマーク、何かが腐っている』というハムレット第1幕第4場のせりふ。そして記事は次のように続きます。

これは、どこかで聞いたことのあるような話だ。家族の問題に悩むデンマークのプリンスは、やみくもな運命の矢弾をこれ以上耐え忍べないと心を決め、王宮を飛び出して国外に逃亡。

しかしPrince Henrikがシェイクスピアのハムレットと違っているのは、父親の亡霊にさいなまれ、母と叔父への復讐を決意する青二才ではない点である。

このPrinceは67歳。実の息子が自分より重んじられるのに我慢ならず、機嫌を損ねている。

フランス出身のPrince Henrikは、女王マルグレーテII世と結婚して30年。皇太子である息子のPrince Frederikによって、王室の序列で第3番目の地位に追いやられたことが不満なようである。

フランスにある自分の城に帰ってしまうというPrinceのこの決断に、今まで王室のスキャンダルを経験していないデンマークの国民は衝撃を受けている。

(中略)

今回の件についてHenrikは、息子にも妻にも罪はないと強調し、「人生を顧みる時間」が必要だったと語っているが、ハムレット流に言えば『艱難の海に刃を向け、それにとどめを刺す』といったところであろう。

(後略)

To be or not to beに続く有名なせりふをうまく取り入れたこんな記事が、大衆向けの新聞に掲載されるところがいかにも英国らしいと思います。