現代を見つめる教育

前回ロンドン通信でご紹介した娘の「世界の主要な宗教」のクラスでは、毎週金曜日、宗教に関連する時事問題のレポートを提出します。新聞やインターネット上のニュースを情報源として記事をピックアップし、その要約とそれに対する自分の意見をまとめます。どの記事を選ぶかは各人に任されているので、昨年9月以来、娘と一緒に新聞をチェックする機会が増えました。1週間に一つ記事を選べばよいのですが、娘は要約しやすいようにできるだけ短い記事を選ぼうとします。ところが短い記事ほど、その背景にある宗教的対立が長い歴史を持っていて、簡単には説明できません。

昨年は特に9月11日以来、イスラム教とキリスト教に関連する記事が毎日のように登場しました。それでも英国の新聞であるため、米国の新聞と比較すると一歩距離を置いた冷静な報道が多かったように思います。ロンドン通信 31の『コメディーに宗教ネタは御法度?−Mr. BEANの反論−』も、レポートに取り上げた記事の一つです。テロ対策緊急立法の一環として、「宗教的憎悪を刺激する行為」を違法とし、最高7年間の禁固刑に処するという新法案は、言論の自由を侵すということで激しい反対にあい、結局内務大臣はこの項目を削除して、昨年末にやっとテロ対策緊急立法を成立させました。

新聞で宗教をチェックするようになってから、世界で起こっている紛争の多くが宗教に関連していることに改めて驚かされます。英国内でも、北部アイルランドではキリスト教の中のプロテスタントとカトリックの対立があり、和平への努力が行われているにもかかわらず、紛争は今も続いています。

新聞では宗教紛争だけでなく、社会の変容と宗教の関係についてもたびたび取り上げています。娘が最初にレポートしたのは、「キリスト教は現代の英国で危機に瀕している」と嘆くカトリック司祭の記事でした。「過度の自由主義経済と消費中心主義が、人々を宗教から遠ざけている」と、司祭は政治の在り方にも苦言を呈していました。

クリスマス前には『英国国教会 マークス・アンド・スペンサー (M & S)を非難』という記事がでました。マークス・アンド・スペンサーは、食品や衣料品を扱う、高級志向のスーパーマーケットチェーンです。このM & Sが、クリスマス向けに次のようなテレビ広告を流したことに教会側が異を唱えました。

「クリスマスとは何か、3単語でまとめてみてください。」というナレーションにテレビの有名人が登場して答えます。

「閉店間際のショッピング」 (英国では12月25, 26日、お店が全部閉まります)

「クラッカーを鳴らすこと」 (英国にはクリスマスクラッカーという、クリスマスの定番商品があります)

「女王のスピーチ」(12月25日午後3時から毎年全国にテレビ放映される女王からのメッセージ)

そして「マークス・アンド・スペンサー」というナレーションで広告は締めくくられます。

「マークス・アンド・スペンサーはクリスマスを『冒涜』している。この広告はクリスマスを物質万能主義的にとらえている。」と言う教会側の非難に、マークス・アンド・スペンサーのスポークスウーマンは次のように答えました。

「クリスマスはどのような宗教を信じている人にとっても、家族や友人と共に過ごし、ごちそうを食べ、プレゼントを交換したいと願う季節です。」

しかし今から約400年前の英国は、宗教の力が絶大でそれが政治と結びついていました。ストラットフォード・アポン・エイボンにあるシェイクスピアセンターの展示には、そのことが触れられています。ヘンリー8世の宗教改革により、町にあったカトリック教会はプロテスタントに衣替えするため、内部の壁画を全て白く塗り込めたそうです。当時は教会への出席が法律で義務づけられていましたが、ウイリアム・シェイクスピアの父ジョンはどういうわけか欠席が多く、ブラックリストに載せられていたという記録が残っています。

信教の自由、言論の自由は、長い道のりを経て獲得されてきたものです。私たちはそれを濫用するのではなく、大切にしていきたいと思います。

02・01・16