シェイクスピアでゆく年くる年
クリスマスから新年に向け、寒さ厳しいロンドンではテレビを見て過ごすのも楽しみの一つです。過去の名作映画や新作テレビドラマが一挙に放映されるからです。
クリスマスサンデーに放映された新作テレビドラマ「オセロ」もその一つ。16世紀のベニスから21世紀のロンドンに時を移し、ロンドン警察を舞台にシェイクスピアの悲劇が展開され、好評でした。年末にはケネス・ブラナー監督・主演のシェイクスピア映画「空騒ぎ」や、「ロミオとジュリエット」を20世紀のニューヨークに移し代えた映画「ウエストサイド物語」も放映されます。そして元旦のプライムタイム午後9時からは、英国国営放送で「恋におちたシェイクスピア」が放映される予定です。この番組予告がクリスマス以降たびたびテレビに登場し、シェイクスピアでゆく年くる年を迎えるのだという気がしてきます。
年末に、俳優ナイジェル・ホーソン死去の悲しいニュースがありました。12月26日、ロンドンの北にある自宅で、心臓発作のため72才で息を引き取ったそうです。1999年、蜷川幸雄のロイヤル・シェイクスピア・カンパニー初演出作品「リア王」でリアを演じ、日本の『彩の国さいたま芸術劇場』の舞台で情熱あふれる演技を見せてくれたのを思い出しました。シェイクスピアを通じた英国と日本の交流を象徴するような名優であっただけに、突然の訃報は大変残念です。1年半程前に癌が見つかり治療中ではあったものの、経過は順調で、周囲の人々にとっても思いがけないお別れとなったようです。
ナイジェル・ホーソンは20代初めに俳優になり、長い下積み時代を過ごしました。注目されるようになったのは、1980年代に政治をネタにした連続テレビコメディー”Yes, (Prime) Minister”にSir Humphrey Appleby役として出演してからのことです。この番組は大変な人気を博し、当時の首相であったマーガレット・サッチャーも「私の一番お気に入りのテレビ番組」と公言していたそうです。このあと映画”The Madness of King
George”:邦題「英国万歳!」(1994)にジョージ三世役で出演、アカデミー賞にノミネートされ、国際的な名声を確立しました。「十二夜」(1996)「リチャード三世」(1995)「テンペスト」(1980)などのシェイクスピア映画にも脇役として登場していますが、 ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのシェイクスピア作品では、蜷川演出の「リア王」が最初で最後の登場となりました。
前回のロンドン通信でお話ししたシェイクスピアのゲームPROMPTは、Quote、Prompt、
Characterの3種類のカードで構成されています。Quoteカードにはシェイクスピア作品の引用と出典作品が書かれ、引用には空欄部分が設けてあります。Promptカードには引用の空欄部分に相当する単語と、その絵が描かれています。Characterカードには、引用をせりふとして話す登場人物の名前とその絵が描かれています。それぞれのカードは30枚ずつあり、引用、空欄部分、誰のせりふかがぴったり合うようになっています。Quoteカードは全員に均等に配り、PromptカードとCharacterカードはトランプの神経衰弱のように場に裏返して置きます。順番にそれを表に返し、最終的にはQuote 、Prompt、
Characterの3種類のカードをすべて正しく揃えるのがゲームの目的です。揃ったと思ったら、完成した引用文をみんなの前で読み上げなければなりません。
「シェイクスピアなんて少ししか知らないからこんなゲーム無理だよ。」と渋る子どもたちをなだめながらゲームを始めましたが、やってみると子どもたちも、だんだんそれに引き込まれていきました。Promptカードがうまくできていることもその理由の一つですが、何と言ってもシェイクスピア英語の口調の良さが、ゲームを楽しくしています。自分の子供時代、意味は分からなくても、口調の良さにひかれて百人一首を覚えたのを思い出しました。やはりシェイクスピアは、口に出して読みたいものです。
01・12・30