パントマイムの季節

11月も半ばになるとロンドンは日が短くなり、午後3時過ぎには夕闇が迫ってきます。そしてその暗さを吹き飛ばすかのように、街はクリスマスの飾り付けで賑やかになります。食料品店にも、クリスマス向けの商品が並びます。例えばクリスマスケーキ。白い生クリームと真っ赤ないちごで飾られたスポンジケーキが頭に浮かびますか?それは日本独特のクリスマスケーキです。こちらのケーキは、ドライフルーツをたっぷり入れたフルーツケーキを真っ白なアイシング(お砂糖)でおおい、マジパンなどでつくった飾りをのせたもの。日持ちがするので、今から用意しても大丈夫。クリスマスプディングも定番です。プディングと聞くと、卵と牛乳でつくったカスタードプリンが思い浮かびますか?これはドライフルーツを入れて乾燥させてつくるもので、食べるときにスチームをあててやわらかくし、ブランデー入りのカスタードクリームソースなどをかけていただきます。またこの時期のちょっとした集まりに欠かせないのがミンスパイです。最初にこの名前を聞いたとき、私は「挽肉入りのパイ?」と思いましたが、実は細かく刻んだドライフルーツを入れたパイです。暖めた赤ワインと一緒にいただきます。

この時期はまた、長い冬の夜を親子で楽しむためのイベントも盛りだくさんです。ロイヤルオペラハウスから地方の小さなホールまで、子供も楽しめるバレーのプログラムが組まれます。一番人気はなんと言っても「くるみ割り人形」です。普段は大人向けの劇場も、この時期はパントマイムを上演します。日本語になっているパントマイムは無言劇を意味しますが、英国では子供向けのクリスマス劇のことです。もちろんせりふがあります。ディケンズの「クリスマスキャロル」、「ピーターパン」などが定番ですが、前回のロンドン通信で話題にしたRSC では常に新しい企画に挑戦し、最近ではC.S.ルイスの「ライオンと魔女」、バーネットの「秘密の花園」などを舞台化、成功を収めています。そして今年は、巨費を投じて「不思議の国のアリス(Alice in Wonderland and through the Looking Glass)」の舞台化に挑戦しました。ADRIAN MITCHELLの脚本で、一流のスタッフを揃えて臨んだのですが、どうも評判は芳しくないようです。まず原作に一貫したストーリー性が無く、断片的なイメージの連続であることから、舞台化に馴染まないという意見が多く聞かれます。また登場する様々なキャラクターも、視覚化してしまうより、本の世界の中の方がイメージが膨らむという意見もあります。デイリーテレグラフ紙は「眠りの国のアリス(Alices adventures in slumberland)」という劇評を掲載、次のように述べています。

「私の前に座っていた9歳の子どもは、このパフォーマンスに見事な判断を下してくれた。劇の後半ずっと、実に気持ちよく眠っていたのである。この子の夢はきっと、ステージ上で繰り広げられるどんなできごとより、ずっと面白いものだったに違いない。私は読者の期待に沿うべく睡魔と戦い、かろうじて踏みとどまった…・」

シェイクスピア劇を見に行っても、居眠りしている大人はたくさんいます。この子もこれに懲りず、また劇場に足を運んで欲しいものです。
01・11・20