01・9・25
自由(freedom)と安全(security)
米国での同時テロから約2週間が経ち、ロンドンではテロの根絶に向けて様々な変化が現れています。英国政府はテロ対策の一環として、全ての国民に身分証明書携行を義務づけることを検討し始めましたが、子どもたちの学校ではこれに一歩先んじた対応が行われています。
今週木曜から、学校のスタッフおよび生徒全員が写真付きのID(身分証明)カードを常に携帯することになりました。登校時にプロのセキュリティースタッフがこれをチェックし、忘れた場合には学校に入れてもらえません。これに伴い、親も学校を訪れる際はパスポートなどの写真付き身分証明書類を提示し、生徒との関係をチェックしてから学校内への立ち入りが許されるようになります。近い将来学校側は、親に対しても写真付きのID(身分証明)カードを発行し、これを持たないビジターには、学校への立ち入りを許可する前に厳重な審査をする予定です。
学校の入り口は既に1カ所に限られているので、登校時には大変込み合うことになります。今までのように遅刻寸前に校門を駆け抜けて滑り込みセーフということはできなくなります。これを忘れたり紛失すると、親に報告して手続きをとってもらわなければならず、「面倒だ-」というのが子どもたちの反応です。しかしこれに先立って開かれた保護者会での親たちの反応は、全く異なるものでした。「セキュリティーには万全を期してほしい。それによって子どもたちの自由が奪われるのは仕方がない。自分たちもそれについて協力できることがあれば、何でもやる。」というのが参加者の総意であり、学校側の対応を強く支持しました。
学校側は毎日緊急安全対策委員会を開き、常に最新の安全情報を米国大使館から入手して、学校運営の舵取りを行っています。先週末には、ベルギーの首都ブリュッセルで、欧州にあるアメリカンスクールやインターナショナルスクールが数校集まって開催されるスポーツの対抗戦がありました。往復にはユーロスター(英国と欧州大陸を結ぶ鉄道)を使用するのですが、当日ブリュッセルでは欧州首脳が集まってテロ対策の会議を開催することも決まっていたので、対抗戦が予定通り開催されるのか、私も直前まで心配でした。娘がクロスカントリーのレースに参加する予定だったからです。学校側からは「U.S.A.とかAMERICAのロゴの入った服を移動中に着用しないこと」という指示がありましたが、対抗戦は予定通り実施され、子どもたちは無事に帰ってきました。安全確保のために普段よりいろいろなところで時間がかかり、学校到着は予定より遅れましたが、元気な子どもたちの姿を見て、私はやっと胸をなで下ろすことができました。
校長先生はある会合でこう話されました。「今回の事件は非常に悲しいことですが、今となってはここから何か良いものが生まれてくることを望むだけです。」ある程度自由を制限しても、安全を強化し、それによって私たちが守ろうとしているものは何か、子どもたちだけでなく、私たち大人も学んでいかなければならないと思います。