日本ツアーへの期待・観劇のヒント
今回の日本ツアーは従来のものより期間も長く、会場も東京、埼玉、滋賀、北九州と広い地域をカバーしています。一人でも多くの方がご覧になることを願っています。RSCのほうでも今回の公演には力を入れており、演出家のグレゴリー・ドーラン氏もカンパニーと一緒に来日。トークも予定されています。
スワン座は小さな劇場で、舞台との親近感が特徴です。私の席から2〜3メートルのところで演技が繰り広げられていました。日本公演では大劇場を使用することになるので、それなりの配慮はあることと思いますが、舞台との距離ができてしまうことと思います。そこでおせっかいながら、見落とさないでほしいと思う観劇のヒントを次にあげてみました。何の先入観も持たずに舞台を見たいという方は、観劇後にお読みください。
観劇のヒント
舞台設定は1940年代。女性のヘアスタイルや服装にそれがよく現れています。
オセロを演じているセロー・マーク・カ・ヌクーベの英語には南アフリカ訛りがあります。初めは少し聞き取りにくいかもしれませんが、この訛りによって、彼がアウトサイダーであることが自然に納得できます。

デスデモーナが初めて登場する第1幕第3場、彼女が運命のハンカチーフを手にするシーンがあります。オセロへの気持ちが伝わってくる愛らしいシーン。
キプロス島に到着したベニス軍が、地元の女性たちを追い立てるシーンがあります。彼女たちが身に着けているのは黒いバルカ。イスラム教の女性が着る服です。このプロダクションの特徴となっている人種的、文化的対立を象徴しています。イスラム教では、夫以外の男性に肌を見せてはならないなど、厳しい倫理基準が守られています。劇の後半、キャシオの愛人ビアンカが登場して彼につきまとうところで、この女性たちが再び登場。ビアンカにつばを吐きかけるシーンがあります。価値観の違いを如実に示しています。
アマンダ・ハリスの演じるイアーゴの妻エミリアは、どの批評家からも好評を得ています。キプロス島に到着するなり、小瓶にはいった酒を気付けに飲み、タバコをすうという仕草は、厳しい従軍生活を生き抜いてきた軍人の妻を印象付けます。彼女とイアーゴの歪んだ夫婦関係が、お互いの視線にあらわれています。
オセロとイアーゴのネクタイの色は深緑。オセロが嫉妬にかられ、胸苦しさを感じてネクタイを緩めようと引っ張るシーンは、『緑色の目をした怪物』の餌食になっていくことを予感させます。
オセロが自分の感情を抑えきれなくなっていくシーンで見せるのは、アフリカの部族のひとつである、ズールー族の戦士の踊りです。セロー・マーク・カ・ヌクーベ自身も、ズールー族の血を引いています。この踊りによってオセロがアウトサイダーであることを象徴し、またこれをイアーゴが猿のようなポーズで真似て嘲笑うことによって、人種的な憎しみを際立たせています。
最終幕の寝室のシーン、オセロはアフリカの民族的な衣装で登場します。首飾りのなかに小さな守り刀がはいっていて、最後はそれで自殺を遂げます。
幕切れは、イアーゴの表情に注目。
写真;オセロ終幕の1シーン。 提供:RSC